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桃源の乙女たち  作者: 星乃 流
十三章「銀の双子」
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第五話(第五十三話)

 エリンは十四番との接触を重ねるうちに、その正体についてなんとなく分かってきていた。彼女は……リサ・ウ・エルの縁者だと。

 此処へくる前に一度エルの家で彼女に会ってきた。

 既に刻印の一画をカナミに託したあとだったが……一言、「あの子をお願いします」とだけ言葉を託された。

 此の場所に近づくに連れ、やはりその気配――気が、リサとそっくりどころか瓜二つであることに気づいた。

 おそらく術の適性も全く違うであろうに、たとえ血縁者であれどここまで似るものだろうか。

 それにしても、ここまではっきりと気の性質を判別できる自分にも驚く。言霊を実戦使用したあのときから、見えないものに対する感覚は確かに鋭敏になっていたけれど……。それからも止まることなく感覚が研ぎ澄まされ続けている。そんな気がする。

 それだけではなく、様々なことを風がこれまで以上に教えてくれる。近くの気配を、気の強さをより広い範囲で感じることができるようになった。アズミを探し出せたのも、文字通り「風の便り」から刻印の気配を追った結果だ。

 そして今回は自分から十四番のもとへと辿り着いた。やはり素顔を見て確認したかったが、案の定それは断られた。

 だから風にお願いして斬ってもらった。ずっと彼女の顔を隠し続けていた仮面を。

 現れた素顔は本当にリサと瓜二つ。姉妹なのは明らかだったが、どうもおかしい。いくら姉妹だからといってここまで顔の造形も、気の性質までも瓜二つって……。――そこでやっと気づいた。

 「――あぁ、そうか。ただの姉妹じゃなくて、双子ということですか」

 銀髪の少女はものすごい形相で睨みつけてきたが、どうやら正解らしい。

 ――「あの子をお願いします」

 そんなリサの言葉が頭を過ぎった。

 そうか、彼女はこの子を救って欲しかったんだ。この子は何かから救われる必要があるんだ。

 ――でも、ごめんなさい、私はたぶんこれから……。

 「貴女は……どうしてこんなことをしているのですか」

 「全部ぶっ壊したいからだよ!」

 彼女は大声で怒鳴り吠え、さらに強く睨みつけてきた。……まだ足りない、もっと、もっと貴女のことを教えて。

 「どうしてです?」

 「全部、全部全部嫌いで嫌いでぶっ壊れて欲しいからだよ! この里も! 家も全部!」

 その叫ぶような雑言は憤怒に満ちていた。しかし、聞けば案外素直に答えてくれるものだ。

 (本当はちゃんとお話したいんじゃないかな……いつかの私みたいに)

 それにしても……壊したい……里……家……家?

 「私たちは多分皆、エルの家のリサに双子の姉妹がいるなんて知らされていませんでした。

 けれど、貴女はこの歳までちゃんと育てられてきた。でもその姿、声を誰も知らなくて、正体が判らなかった。――家が嫌いって……この辺りのことですか?」

 「黙れぇ!!」

 飛んできた雷球を自身に纏った風が自然に弾く。図星らしい。

 「そうだよあのクソったれな家のせいだよ!」

 相変わらずの剣幕で怒鳴り散らすように彼女は続ける。

 「天啓で双子は忌子だからどうとか言って。だからって殺すほどの度胸もなく、結局家の奥深くに閉じ込めやがった、あのクソッタレな家を潰したい。そんな家を大事に大事にしているこの里も全部、全部全部気持ち悪い」

 ここで彼女は一呼吸した。

 「……だからぶっ壊す。これでわかったか?」

 ――よく分かった。

 この子は――いや、この子ももっと、ちゃんと人とたくさん話をすべきだったんだ。けれど彼女には今までその機会がなかった。

 「さぁ、わかったか。もうそんな理由なんてどうでもいいだろ。とにかくオレはこの里ごと全部ぶっ壊したい。そしてお前はこの刻印が欲しい。だが、オレはこれを安々と譲る気はこれっぽっちもない。

 ――なら、やることは一つだろ? ここで見逃したら……オレはまた誰かを殺すぞ?」

 リサさん、ごめんなさいね。

 この銀髪の少女がいかに辛い境遇で育ち、家を里を憎み、こんな凶行にでたか。その一端に触れても尚、自分は……。

 「ごめんなさい、私にとってそれは、そこまで大きな問題ではありません」

 十四番は「はぁ?」といった顔をしている。うん、私はそんなできた人間じゃないんだ。

 「私がここにきたのは、正義のためでも仇討ちのためでもありません。ただ……八つ当たりをしにきただけです」

 相変わらず十四番――リサの妹は、意味が分からないといった顔をしている。いつの間にか彼女の側に回っていたアズミはどんなつもりかニヤニヤとしている。

 「私が憎いのは、ただ私だけです。他人の気持ちを分かったつもりで何も分かっていなかった、愚かしい自分に。ですが、私にはその自分自身に対する鬱憤を晴らす方法がわからないのです。

 だから私は……全て自分が悪いというのに、その答えを伝える機会を奪っただけの貴女に、八つ当たりをします。

 貴女のことを聞けばそんなことできなくなるかもしれないとも思っていましたが、やはり私は自分を抑えきれないようです。――ですから、すみませんが私の八つ当たりに付き合ってもらいます」

 ――風さん、どうか私の我儘にお付き合いください――

 もしこの戦いが終わって二人とも命があれば、今度はしっかりお話しましょうね。

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