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桃源の乙女たち  作者: 星乃 流
十二章「怯者の炎」
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第四話(第四十七話)

 「仇討ちってとこかい?」

 睨むエリンに対して、十四番はその仮面の下のニヤニヤとした表情が透けて見えるような、下卑た声で問いかけた。

 「いいえ、違います。仇など取っても誰も喜びません。意味はありません。――これは自分に対する八つ当たりです」

 エリンは十四番の相変わらず癇に障る喋りを意にも介さず、冷静に、淡白な声音で返答した。

 ――そう、これは八つ当たり。

 「はぁ?」

 「私はレミの気持ちを分かったつもりになって、何も分かっていなかった。そしてそれに答えを出す前に、貴女のせいで彼女を失った」

 ――そう、私がぐずぐずしている間に。

 「私が一番憎いのは貴女ではなく、何も分かっていなかったのに分かっていると思い上がっていた私自身です」

 ――ずっと一緒にいたというのに。

 「ですが、私は自分自身に対するその感情を晴らす術を知りません」

 ――どこに向ければいい? この憤り。

 「だから……私は貴女に八つ当たりをします」

 ――そう、これは自分勝手な八つ当たり。

 エリンは再び風を纏う。先程に比べ、優しさよりも攻撃性を強く帯びた風を。

 「わっけわかんねぇな……。まぁなんでもいいや」

 そう言って十四番は光の球を自身の頭上付近に浮かべる。既にエリンは何度もみた光景だった。

 ――私に衣をください、(そら)を滑る衣をください

 私に靴をください、疾風(かぜ)と踊れる靴をください

 私を解き放つ、……(じゆう)をください――

 「死ね」

 その一言と共に放たれた無数の光矢をエリンは宙を滑るようにして全て躱してみせた。地面のすぐ上に見えない床があるような、その上を自在に、無軌道に滑るような動きだった。地上の何よりも速いはずの光の攻撃だというのに、狙いが全く追いつかない。本気の狙撃ですら彼女の姿は捉えきれない。

 「てめっ、うろちょろと!」

 (レミ、ごめんなさい。せっかく貴女に繋いでもらった命をこんなことに使ってごめんなさい)

 ――あなたは矛、あなたは刃――

 (でも私は……もう自分をどうにもできない)

 「私の敵を……切り裂いて」

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