第三話(第四十六話)
勝敗がつくまでそう時間はかからなかった。
カルナの炎は本当に出鱈目だった。セラが今まで見てきたいかなる炎をも圧倒していた。
火術で扱う火は飽くまで強力な高温によって何かを発火させることを起点とする。カルナの場合はそうそう燃えないような空気中の塵まで発火させるが……今の炎はそんなものじゃなかった。その猛火――いや、もはや業火は一体何を燃やしているのかもう分からなかった。
両手を前に突き出すように構えて創り出した特大の炎。渦巻く炎が宙に球体を形作る。熱気で周囲の視界が歪んで視えた。その猛る炎球をエリンの作り出す風壁に対して、何の小細工もなしに、ただ真っ直ぐ、真正面から全力をぶつけた。
業火はまるで尽きるを知らないかのように思えた。エリンを護る風の障壁は確実に炎を外側へ、外側へと受け流し続けているのに、その灼熱は風の障壁をじりじりと蝕み続ける。これは刻印の力? それとも本来カルナが持つ力……? 一体あの尽きない炎はどこから生み出されているのだろう。まるで御伽草子の魔法のようだった。
だが、エリンはそれ以上に常識外だった。前方に構えた右手で風の障壁を支え、同時に空に向かって左手を掲げ、渦巻くもう一つの風の奔流を生み出した。それは上空からカルナの炎球に喰らいつき、――喰い破った。文字通り喰らったと表現するのが最も正しく思えた。あれは蛇? いや、竜?
業火を喰らい、弾けた風にカルナのその大きな躰は吹き飛ばされ宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「がはっ……」
そのまま彼女は身動きを止めた。
セラは飛び出したい衝動を必死に我慢していた。まだだ、まだもうちょっと待つんだ、と。
「降参してくれませんか?」
エリンは地に仰向けに倒れているカルナに問いかけた。
「……やなこった」
軋む体でカルナは地べたに手をつき、残された力を振り絞り起き上がった。そして我慢の限界を越え、駆け寄ろうとするセラに向かって手を伸ばし、制止した。
「今、私はあなたの全力の炎を打ち破りました。それでもまだ……足りませんか?」
「あぁ、足りないね」
カルナはニヤリと笑った。
「あたしの心はまだ折れていない、この刻印がほしけりゃ……あたしの心を捻じ伏せてみせろ!!」
ズガァァーーン
カルナがそう啖呵を切ると同時に、エリンの背後が煌き、稲妻の迸る轟音がした。続いて余波のようにバリバリという音と空気を震わす振動が伝わる。
「すいませんが決着はまた後日でお願いします。……私の倒すべき敵が来たようです」
一本の大きな太い樹の太い枝の上に……黒い布で全身を覆い、頭にまでそれを深くかぶった人物――十四番が立っていた。




