その後
「ただいま。」詩織とその一行が道楽亭に着く。
「お帰り!理沙がカウンターの奥から答える。
「理沙、桃花がエルフの羽衣を纏った。」
「なに?マジ?」
「マジ。」
「も、桃花、こっちに来なさい、大丈夫、怖くないから。」
「ひっ、」桃花が後ずさる。
その後ろで、涼音が桃花の両肩を抱いて、理沙の方に突き出す。
「大丈夫だよぉ、多分!」
「ひひひ、エルフの羽衣。」
「あの、あの、あの、理沙さん、目が怖い!」
「あー、理沙。今桃花に敵対行動をとると・・」
「あぎゃぁぁぁぁ。」響き渡る理沙の悲鳴。
「危ないよー。」詩織がのんびりと言う。
「早く言いなさいよ!」身体から煙をあげながら理沙が詩織に突っ込む。
「おー流石理沙、無傷か~。」
「電気耐性なかったら死んでたよ!」
「全属性攻撃無効の、荒ぶる理沙なら平気だと思った。」
「でも今ので判った。」にっこりと微笑んで、理沙が桃花に近づく。
「ひ、ひえ。」桃花が変な声をあげる。
しかし、羽衣の攻撃は無かった。
理沙が羽衣を触る。
「ほぉ、ふんふん、成程。エルフの最期の想いを乗せた霊毛かぁ。」
「流石理沙だね。」
「やだなぁ、詩織もこの程度は看破してるんでしょう。」
「まぁね。」
「んじゃ、ちょうだい。」
「んー、解ったぁ。」
「シャイナがいないから、桃花で良いか。」
「へ?」
「髪の毛貰うね。」そう言うと、桃花の髪の毛を一本、詩織が抜く。
「つ。」桃花がその小さな痛みに声をあげる。
詩織は、カウンターに行くと理沙がコップに用意した水で、カウンターに指で陣を描く。
「え?何するの?」
「桃花、今から面白いもの見れるよ、きっと。」
「へ?」
詩織が桃花の髪の毛をその陣に乗せる。
そして、両手を翳しもごもごと呪文を唱えた。
一瞬後で、陣がまばゆく光る。
「ひ。」桃花は眩しさで、目を瞑る。
「何が起きたの?」桃花が目を開けると、カウンターに桃花が纏う羽衣が浮いていた。
「んー。まぁまぁ。」
羽衣は、桃花の方にゆらゆらと飛ぶが、桃花の纏う羽衣に気付き、うろうろと飛ぶ。
「ななな、なに、あれ?羽衣?」
「しー姉が、錬成したんだよ。」
「私が纏っているのと同じものに見えるけど。」
「んー、魂の量が圧倒的に違うかな。」
「魂?」
「桃花が纏っているのは、エルフの魂が8千近く宿ってるけど、しー姉の作ったのは桃花の魂の2万分の1かな。」
「へ?あたしの魂?」
「桃花の髪の毛一本だからね。」
「でも、桃花に従おうとしてたから、ほぼ完コピだねー、流石しー姉。」
ケラケラと涼音が笑うが、桃花は少し怖くなっていた。
「エルフの人達が人生をかけて織る羽衣を、一瞬で?」
その桃花の肩を涼音が抱く。
「へ?」
「桃花、深呼吸。」
「え?うん、すーはー。」
「桃花、今、一瞬しー姉に敵対心を持ったよ。」
「え?そんな事。」
「あるんだよ。」
「桃花は、今、エルフの人生に共鳴した。」
「え?私が?」
「うん。」
「良い?」
「え?うん。」
「しー姉は、エルフの根源を馬鹿にしていない。」
「え?う、うん。」
「しー姉は、ただ、其処に在った物を再現しているだけ。」
「え?」
「言わば、そこにある物の絵を描いているのと同じ。」
「え?」
「もっと言えば、そこにある物の写真を撮った、みたいな?」
「同じ事じゃん。」
「でもそういう感じ!」
「そこにある物を、ただ写しただけ。」
「それに、桃花が敵対心を抱くと。」
「抱くと?」
「全身の骨が粉砕された状態で、店の外に放りだされる。」
「あー、この間、聞いた話だ。」
「例外はないよ。」
「え?じゃぁ涼音がそう言う気を起こしたら?」
「同じ運命・・」
「怖い、怖い、何それ!」
「それが、道楽亭。」
詩織は羽衣を掴んで、理沙に渡す。
「魂までは入れられなかった。けど、素材ならこれで充分でしょ。」
「ん、流石詩織だ。」
「もうひとつある、レバーってある?」詩織がシュワに聞く。
「焼き鳥のレバーなら冷蔵庫に。」
「一本ちょうだい。」
「はいです。」
シュワは、レバー串を皿にのせて、詩織の前に置く。
「サンキュ、シュワ。」
そう言うと、詩織はまた、コップの水で陣を描き、その真ん中にレバー串を置く。
「ねぇ、涼音、あれってまさか。」
「そのまさかだね。」
「しー姉は、あくまでも、其処に在った物を映してるだけだからね!」
そして、両手を翳しもごもごと呪文を唱えた。
一瞬後で、陣がまばゆく光る。
そして、それはそこにあった。
「獣魔の鋼鎧」
「流石、しー姉。」
桃花は思う。(エルフの羽衣ほど拒絶は感じない。)
(そうか、種に対して、思いが入るんだ。)
(じゃぁ、大丈夫。)
(多分)
「理沙、これも持って行って。」
「サンキュ、詩織!」
詩織は、親指を立てる。
理沙が奥の部屋に消えると、詩織はカウンターに突っ伏した。
「きつい!」
(しー姉が、きついと言うのだから、本当にきつかったのだろう。)
気が付くと、詩織は寝息を立てていた。
「そっとしておこう。」涼音の言葉に皆が従った。
それから数日が過ぎた。
道楽亭に来客があった。
「こちらに愛華様が滞在してると聞いて参りました。」老紳士が畏まって言う。
「はい、愛華はこの店にいますよ!」シュワが答える。
「おぉ、では此方で待たせていただいても?」
「お好きな席でお待ちくださいです。」
「かたじけない。」老紳士はドアの傍の席に座る。
「お飲み物要りますか?」シュワが老紳士に聞く。
「はい、では番茶を頂けますか?」
「煎れた事無いです。」と言ってフリーズするシュワを横目に、涼音が番茶を煎れ、紳士の前に置いた。
「これは、良い香りです。」老紳士がそれを口にする。
「こ、これは素晴らしい。」老紳士が声をあげた時、愛華が店に帰ってきた。
「愛華お嬢様!」
「な、セバス!」愛華が固まった!




