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道楽亭で、

涼音達は、森を出て、道楽亭に向かった。


道楽亭に着いたとき、涼音が何時もの様にドアの前に立ち、ドアを開けながら言う。

「道楽亭にようこそ。」

 もはやテンプレなのですね。キャラウェイが思う。


 そして、図ったように、シュワの攻撃がその扉から放たれる。

「おっと。」回避の腕輪が発動し、涼音はその攻撃をすり抜ける。

「ほえ?」その後ろにいた桃花も、回避の腕輪が発動して、その攻撃を受け流す。

「違いますぅぅぅぅ。」そう叫びながらシュワがキャラウェイに突っ込む。

(ガシッ!)キャラウェイが本能的にシュワの頭を掴み、言う。

「一応聞くけど、私に対しての攻撃ではないんですよね。」

 シュワは涙目になりながら答える。

「も、もちろんですぅ。あたしが敵対するのは涼音だけです。」

「ほぉ。」シュワを開放しながら、キャラウェイが続ける。

「だ、そうだ、涼音。」

「うん、判ったよ。」

「あたしには明確な殺意がある。」

「そう言う事だよね。」

 涼音が魔力を開放しながら言う。

「にゃ~。」シュワが挙動不審になる。

「涼姉。ちが、違うから。」

「あたし如きが、何やっても涼姉に通用しないって言う、デモンストレーションだから。」


「そうなんだ。」

「そうなのですぅ。」

「ふ~ん。」

「アビールシャワ」シュワに右手の人差し指を向けながら、初級水魔法を涼音が唱える。

 涼音の人差し指から、シュワに向かって直径30cmの水の塊が飛ぶ。

「へっ?」シュワが声を発すると同時に、水の塊がシュワの顔に着弾する。

 魔力をかなり抑えて放った魔法だが、3リットル程の水の塊の威力はそれなりだった。

「バシャ!」シュワはその衝撃で2mほど吹っ飛んだ。

「うわ、私と威力違いすぎるよ。」桃花が驚きながら言う。

 シュワは、持ち前の身体能力で足から着地するが、全身がびしょ濡れになっていた。

「涼姉、酷いです。」

「お風呂嫌いのシュワには良い薬だね。」


「桃花様、此処までが何時もの茶番です。」キャラウェイが桃花に言う。

「「茶番じゃないし(です)。」」涼音とシュワが同時に叫ぶ。

「とにかく、中に入りましょう。」キャラウェイは、桃花の肩を抱いて店内に入る。

涼音もそれに続いた。

シュワは、全身をブルっと震わせて水を落とし、着替えるために自分の部屋に戻った。

「しー姉、クエストありがとう。おかげで桃花の巫女適性開花したよ。」

 詩織は、カウンターに突っ伏したまま左手の親指を立てて答える。

「えと、あの、詩織さん、ありがとうございます。」桃花がぺこりとお辞儀をしながら言う。

「あの、この対価はどうすれば?」

 しかし、詩織は左手を振る。

 要らないって事らしい。

「桃花、コーヒーを煎れてあげればいいよ。」涼音が桃花に耳打ちする。

「え、私、やった事無いよ。」

「じゃぁ、こっち来て。」涼音がカウンターに入る。

 涼音は慣れた手つきで、ミルにこの店オリジナルのブレンド豆を5杯分入れる。

「桃花、このレバーをゆっくり回して。」

「こ、こう?」桃花がゆっくりとレバーを回す。

「うん、いい感じ。」

 そう言いながら、涼音は5人分のカップを用意して、いつでも沸いているお湯を入れて、カップを温める。

 そして、サーバを同じように温めると、ドリッパー用意して、桃花が豆を挽き終わるのを待つ。

 沸騰したやかんを濡れ布巾で少し冷ましていると、豆が挽き終わったようだ。

 桃花が挽いた豆を、ドリッパーに入れ、お湯を全体に回しかけて豆を蒸らす。

 そして、良い塩梅になったら、同じようにお湯を回しかけて、コーヒーを煎れる。

 カップ5杯分に達したら、ドリッパーを外し、カップのお湯を捨てて、サーバーからカップにコーヒーを注ぐ。

「桃花はシナモンだっけ?」

「え?う、うん。」

 涼音は、棚からシナモンスティックを取り出して一つのカップの横に置く。

「桃花、しー姉の所に持って言って。

「うん。分かった。」

 桃花がカップを一個持つと、それを詩織のすぐそばに置き言う。

「ありがとうございました。」

「んー。」詩織はそう言うと、コーヒーカップを引き寄せて、うつ伏せのまま器用にコーヒーを啜る。

(うわぁ、器用な人。)桃花が思う。

「はい、桃花。」カウンター越しに、涼音がカウンターに桃花用のコーヒーを置く。

「あ、ありがとう。」そう言うと桃花はカウンターに座る。

 涼音は、レジ横に置いてある、自分のストック金から代金をとり、レジに入れる。

「え?私、払うよ。」

「今回はお祝いって事で、良いよ。」

「悪いよ。」

「桃花も、此処の常連になれば良いんじゃない?」

「へ?」

「そうすれば、そのうち返せるよ。」

 そう言いながら、キャラウェイの前にもう一つのコーヒーと、先程桃花が買って来た「モンブラン」を置く。

 キャラウェイが桃花を見ると、「どうぞ。」と桃花が言う。

「ありがとう桃花様。」

「キャラさん、様は要らない、呼び捨てで良いよ。」

「では、私の事も呼び捨てで。」

「わかった、キャラ。」

 キャラウェイはにっこり微笑むと、目の前の「モンブラン」を一口食べて、幸せそうな顔になっている。

 涼音は詩織の横で、そのやり取りをニコニコ見ていたシャイナの前にもキャラウェイと同じものを置く。

「あら、私もよろしいので?」

「お祝いだから、良いよ。」

「では、いただきます。」

 しかし、シャイナは涼音に顔を寄せるとこっそりと小声で言う。

「こんなに急がなくても良かったのでは?」

「おー、シャイナは気付いてたかぁ。」

「えぇ、先程のお二人の契約には「期限」が入っていませんでしたから。」

「うん、そう。何年先でも問題は無かったんだけどね。」

「桃花様の成長をさせたかったと?」

「さっき言っていた、彼氏の手助けにもなるかなって。」

「お優しいのですね。」

「そんな事無いよ。」

 そう言うと、キャラウェイと楽しそうに話す桃花を見ながら、コーヒーを啜った。


 暫くすると、着替えたシュワが戻ってきた。

 桃花は、ふと何かを思い出して、涼音に言った。

「この店、最初は全然見つからなかったのに、急に見つかったんだけど、何で?」


「あー、この店は表通りに面しているけど、通りから奥にひっこんだ処にあるし、理沙姉やしー姉の華々しい結界の影響で、結界を破れる者、結界の影響を受けない者、純粋に道楽亭に来たい者、道楽亭に悪意を持った者を通過させるようになっているんだよ。」


「え?悪意を持った者?」桃花が驚いて言う。

「娯楽の対象ですよ。」シュワがくすくすと笑う。

「え?娯楽って何?」

「シュワ、人聞き悪いから娯楽って言うな。」

「え~。」

「こないだも来たんだけどさ、この店で悪意を持った行動をすると再起不能になるんだ。」

「何それ怖い。」

「森は誰でも入れるけど、ある程度の能力ちからが無いと奥まで行けないじゃない。」

「あ~、さっき身に染みた。」

「でも、この森で手に入る「アイテム」や「素材」は凄く価値があるじゃない。」

「うん、聞いたことがあるよ。」

「この店は、理沙姉の店だし、森の管理者がもう一人いるから、それを力づくで何とか出来ると思う阿呆がまだいるんだよね。」

「え?森のあの重圧を感じないほどの力の差がある人を、力づくで?」

「そういう奴に限って、森に入ったことが無いんだよ。」

「はえ?」

「しかも、みんな若い女の子だから、更に勘違いしちゃうんだろうねぇ。」

「此処にいる人たちは、皆さん歩く核爆弾です。」シュワが横から口を挟む。

 キャラウェイも、シャイナもそれを聞いて、無言で頷いている。

「核爆弾?」

「人聞き悪いな!」

「え~、でも涼姉が本気になれば、この町ぐらい一瞬で消せますよね。」

「出来るけど、やらないから。」

「出来るんだ。」桃花が少し引く。

「や、桃花、あたしは絶対そんなことしないから。」

「わ、判ってる、よ。」、桃花が少し引く。

「シュワ、あんた今日の晩御飯半分にするからね。」

「にゃ、それは無いですぅ。」

「桃花に余計な事言った罰だよ。」

「す、涼音、かわいそうだからちゃんと全部あげて。」

「桃花さん、マジ天使ですぅ。」



 そんな、漫才のような掛け合いをしていると、奥の部屋から理沙が出てきて言う。

「皆、大変な事になった。」

 その後ろから、セルフィーも続く。

「森に、魔族が現れました。」

「お母様。本当ですか?」シャイナが反応する。

「うわぁ、綺麗な人。」桃花が緊張感無く思う。

「獣魔の森と、エルフの森の間が、魔族の国と繋がったらしい。」理沙が言う。

「対話は出来ないの?」詩織がカウンターから起き上がって言う。

「私の森から調査に向かった者が、対話を試みましたが、瞬殺されました。」セルフィーが苦しそうに言う。

「キャラ、ハイベルト様に連絡を。」涼音がキャラに言う。

「解った。」 

キャラウェイはモンブランで汚れた口元をナプキンで拭いながら、奥の部屋に消える。

 奥の部屋からナーガが出てきて涼音に言う。

「主、戦か?我は何を殲滅すれば良いのじゃ?」

「魔族らしいよ。」

「なんと、久しい敵じゃの。」

「ナーガは魔族と戦ったことあるんだ?」

「数十年前にかの地と繋がった際に、撃破してやったのじゃ。」

 ナーガは鼻をふんと鳴らして言う。

「強かった?」

「我の前では児戯に等しかったのじゃ。」

「なんだ、それなら楽勝かな。」

 涼音が思った時、セルフィーが言う。

「今回出合ったのは、魔王クラスらしいのです。」

「魔王?」涼音が思う。

「ナーガの相手は魔王だったの?」

「おそらく違うのじゃ。」

「我のブレスで一瞬で消滅したから、下っ端じゃろう。」

「あー、それじゃぁ今回の敵は未知数かぁ。」


「理沙殿、魔族が攻めて来たのは本当か!」やはり奥の部屋から、ハイベルトが出てきた。

「な、か、かっこいい人。」桃花がハイベルトを見て思う。

「そのようです。」

「魔族か、昔会いまみえたが、話の通じない輩であった。」

「やはり、対話は無理ですか。」

「奴らは、自分より強い者に従う習性を持っている故、強さを証明すればそれに応じるかもしれん。」

「対話をするには、ボコらないと駄目かぁ。」理沙がぽつりと言う。

「今回現れた魔族は一人で、繋がった場所から動いていません。」セルフィーが言う。

「こっちの戦力を示せば対話出来そうだね。」理沙が言う。


「涼音、そこの女の子と一緒に様子を見てきて。」理沙が涼音に言う。

 涼音は、「判った。」と言いながら準備を始める。

「はぁ?」桃花が驚愕する。

「まさか、私じゃないよね?」

「理沙姉のご指名だから、間違いじゃないよ。」

「えぇ?」

「理沙姉の判断は絶対だから。」

「わ、私、普通の女の子だよ。」

「やだなぁ、巫女様じゃないですか。」

「あ、前に持ってた初級魔法の本ある?」

「え?鞄に入ってるけど。」

「保護を覚えておいて。」

「保護?」

「それと、ページを捲って頭に入る物全部覚えて。」

 涼音は、装備をしながら言う。

「判ったよ。」 

 桃花がその本をパラパラとめくると、頭の中に魔法が流れ込んできた。

(何これ、凄い。)

(うわぁ、今まで感じなかった世界だよ。)桃花は自分に起きた現象に感動した。

 

 詩織は、そんなやり取りを見て、おしぼりを数十個カウンターに置く。

 そして、いつものようにぶつぶつと呪文を唱えると、カウンターに巫女装束と、千早が存在する。

「これを身に付けなさい。」詩織は桃花に巫女装束と千早を渡しながら言う。

「これなら、神威をしても脱がないから。」

「え?」

「巫女なら、充分戦力になる。」詩織がにっこりと微笑んで言う。

「シュワ、桃花に着せてあげて。」涼音が言う。

「はいです。」

 シュワは、そう言うと桃花の制服を手慣れた様に脱がせ始める、

「え?」

「ふえ?」

「え~~~。」

 あっという間に下着姿になった桃花が、恥ずかしさを感じてしゃがみ込む。

「桃花さん、女の子しかいないので、そんなに気にしないでくださいなのですぅ。」

 シュワはそう言うと、器用にしゃがんだ桃花に巫女装束を着せる。

 そして、シュワが桃花を立たせると、千早を着せて、桃花の装備が完成する。

「おぉ、凄い。」涼音が鑑定して言う。

「魔法攻撃無効。物理攻撃無効。精神攻撃無効、毒麻痺石化無効って、ほぼ無敵じゃない。」

「え?そうなの?」桃花が言う。

「巫女って、最強だよね。」涼音が言う。

「え?じゃあ、私、無敵?」

「残念だけど、時空系は無理かな。」

「時空系?」

「スロウとかストップとかは効いちゃう。」

「そうなんだ。」

「油断しないで、ってことで良いかな。」涼音が桃花に言う。


「んじゃ、行こうか。」涼音が言う。

「え?今から?」

「晩御飯までには帰って来ようね。」涼音がにっこりと微笑んで言う。

「童もお供するのじゃ。」ナーガが言う。

「え?、え?、え~?」

 気持ちの整理が追い付かない桃花を引きづって、涼音は森に向かった。


「わ、私、普通の女の子だよね。」

「巫女適性開花は、数千人に一人だから、あきらめたほうが良いかな。」

「え?なんでそうなるの?」

「大丈夫、彼氏も保護対象になるから。」

「いや、彼氏じゃないし。」

「あ、そうなんだ。」

「じゃぁ、保護対象外だから、何かあっても見殺しだね。」

「なにそれ?」

「いや、これが現実と言うか。」

「酷いよ。」

「そう思うなら、思いを伝えて相思相愛になれ。」

「酷くない?」

「本来の巫女は純潔を求められるけど、スキルの巫女はそうじゃないから、随分緩いと思うけど。」

「う~。」

「告白する良い機会じゃない?」


「なんか嫌だからやめとく。」

「?」

「え~、そうなんだ、残念。」

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