やっちゃった桃花
涼音はコーヒーを啜りながら桃花に問う。
「桃花。」
「なに?」
「あんた、やらかしてるの理解してる?」
「?」
「あ~、その顔は理解してないって事だよね。」
「へっ?」
「私、なんかしちゃった?」
涼音はおでこに手を当てながら思う。
「フラグ立ったね。」涼音が言う。
「なんの?」
「死亡フラグ。」
「はぇ?」桃花が変な声をあげる。
「わ、わ、私、死んじゃうの?」
「うん、確実に。」
「な、なんで?」
「桃花ってさ、自分のレベル判る?」
「さっき、涼音が巫女レベル0って言ってたよね。」
「うん、で、「森」に入るのに必要なレベルはいくつ?」
「確か、どの職でも10以上?」
「うん。その位ないと始森で多分死ぬ。」
「怖いね。」
「桃花、キャラの「森」って境森の向こうだよ。」
「境森?」
「森は始森から、浅森、流森、逢森、深森、震森、黒森、境森の順に深くなるよ。」
「は、八番目?」
「因みに、あたしそこで一回死にかけた。」
「え?」
「まぁ、転職してからは何とか死なないで帰ってこれるけど。」
「え?レベル0の私だと?」
「始森でキュッ!」と言いながら、親指で自分の首を切る振りをする。
「やだ!」
「やだよねぇ。」
「そんな他人事みたいに。」
「食い物に釣られたキャラと、勢いで言った桃花が悪い。」
「わ、私は食べ物に釣られてないぞ。」口の周りをプリンで汚したキャラウェイが言う。
「キャラ、鏡見てみ、説得力皆無だよ。」そう言いながら、涼音がポケットから携帯用の鏡を出してキャラにウェイ渡す。
キャラはその鏡を手に取り、自分の顔を見ると真っ赤になりながらハンカチで口を拭いた。
「え、あ、あの。今から訂正は出来ないの?」桃花が涙目で言う。
「出来るの?キャラ。」涼音がキャラに問う。
しかしキャラウェイは、苦しそうな顔をして、横を向きながら言う。
「すまない、対価をかけた約束を違えるのは、掟により出来ない。」
「えぇ、そんな。」桃花が更に涙目になる。
「・・・。」キャラウェイは目を瞑る。
「違えたらどうなるの?」桃花はえぐえぐしながらキャラウェイに問う。
「私が族長に、父、に処刑される。」
「そんな。」桃花は真っ蒼になって頭を抱える。
「ってことで、桃花があっちの森に行くしかないねぇ。」涼音がコーヒーカップを置いて言う。
「わ、私、死んじゃうの?」
「そうならないようにしないとね。」涼音が席を立って言う。
「キャラ、連帯責任だよ。」
「え?あ、あぁ。任せろ。」
(いや、キャラのうかつな行動が全ての根源じゃん!)そう思いながら、涼音はやれやれと思いながら肩をすくめる。
「んじゃ、桃花が死なないように裏クエスト開始だね。」
「裏クエスト?」桃花が声をあげる。
「なんだそれ?聞いたことないぞ。」キャラウェイもそれに続く。
「そりゃそうでしょ、森の管理者限定、オリジナルクエストだから。」
「あたしには無理。しー姉が開いてくれたレアクエスト。」涼音が言う。
桃花がカウンターを見ると、詩織がカウンターに突っ伏しながら、左手でブイサインをしている。
「何をどうすれば良いの?」桃花が問う。
「とりあえず、キャラと桃花は森に行く。」涼音が面倒くさそうにいう。
「はい。」
「わ、わかった。」
二人は、道楽亭を出て森に向かう。
涼音も面倒くさそうに二人の後を追った。
「私、始めて来たよ。」桃花が森の入り口で言う。
「地獄の入り口にようこそ。」涼音が右手を胸に当てながら、左手を森の方に差し出してお辞儀をする。
「ちょ、やめてよ涼音。本当に怖いんだから。」
「その感覚は大切にね。真面目にやばい場所だから。」
桃花はずっと涙目のままだ。
「さ、行こうか。」そう言って、涼音が森に踏み込む。
桃花も意を決して、足を踏み入れる。
その途端、桃花は物凄い重圧を感じる。
「え?何これ?」自然と足が震え、進めなくなる。
「護壁、保護。」涼音が桃花に呪文を唱える。
桃花は、自分に向けられた重圧が無くなるのを感じる。
「す、涼音?」
「ん?」
「ありがと。」
「いえいえ、これからだよ。」
キャラウェイも二人に続く。
「キャラ、獣化は森のどこから可能?」
「え?いや、此処でも可能だが。」
「体に負担掛からない?」
「少し影響が有るが、森の加護があるから大丈夫だ。」
「ふ~ん、じゃ、お願い。」
「え?」
「獣化よろ。」
「あ~、桃花。」
「うん。」
「気をしっかり持って。」
「え?」
「キャラ、お願い。」
「解った。」そう言うと、キャラが下を向いて何かを唱える。
キャラウェイの身体が光に包まれる。
そして、光が膨れ上がると、身長4m程の銀毛の狼の姿になった。
「ひっ。」桃花が硬直する。
キャラウェイは両目を瞑ったまま、二人の前に立っている。
「桃花、しっかりね。」涼音が桃花の両肩を後ろから抱いて言う。
「キャラ、目を開けて、桃花を看破して。」
「え?いやそれは、いくら何でも。」
「お願い。」
「・・・、判った。」そう言うと、キャラウェイが目を開く。
途端に物凄い重圧がその身体から放たれる。
「ひぃ。」桃花がそれを感じて悲鳴に似た声をあげる。
「大丈夫。」涼音が桃花の身体を支えながら言う。
そして、キャラウェイは第3の眼をゆっくりと開けた。
「つぅ。」桃花が心の中を覗かれる感覚を味わう。
「いや、いや、いや、お願い入って来ないで。」桃花が自分の両肩を抱いていやいやをする。
「固護壁。」 涼音が上位の保護呪文を唱える。
桃花にかかっていた重圧が、ふっと軽くなる。
桃花はそれを感じて、目を開ける。
そして、見てしまった。
「守の王」の眼を。
キャラウェイは、その目を見て本能に任せて爪を振るった。
「遮断。」涼音が更に上位の保護魔法を唱える。
キャラウェイの爪は、桃花の数十センチ前で止まっていた。
しかし、桃花の意識を刈り取るのには充分な行為だった。
桃花はその場で気を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
桃花が、自分の額に当てられた暖かなものを感じて意識を取り戻す。
目を開けると、涼音が顔をのぞき込んでいた。
「桃花、大丈夫?」涼音が桃花に声をかける。
「え?あ、うん。」自分が涼音の膝枕で寝ている事に気付き、勢いよく飛び起きる。
「大丈夫ですか?」目の前にいた人の姿に戻ったキャラウェイを見て桃花が少しフリーズする。
「申し訳ありません。」キャラウェイはそう言って肩を落とす。
「え?いえ、大丈夫、何もなかったし。」桃花はそう言ってキャラウェイを触ろうとして、少し躊躇する。
しかし、持ち前の度胸の良さも相まって、キャラウェイに抱き着いた。
「え?」キャラウェイが驚愕する。
「えへへ、少し怖かったけど、かっこ良かったよ。」桃花が言う。
キャラウェイは少し躊躇した後、桃花を抱きしめる。
「ありがとうございます。桃花。」
「なんか妬けるねぇ。」涼音がそんな二人を見て言う。
桃花はその声で、ハッとなりキャラウェイから離れる。
「で、どう?桃花。」
「え?何が?」
「おかしなところない?」
桃花は自身の身体を動かしながら言う。
「別に何とも。」
「そう、ならよかった。」
「え?」
「んじゃ、あと5回ほど繰り返そうか?」
「え?え~~~~~?」
「いやぁ~~~~。」
森に桃花の悲鳴が響き渡った。
車を運転していて、確認しようと横を向いたときに、「コキン」と首が鳴るようになってしまった。
ググったら関節に問題があるとかないとか。。
う、うぅ、十数年前のむち打ちの後遺症か?
医者は神経科?整骨?整体? どこに診てもらえばいいんだろう?




