道楽亭(愚者の頂)2
(何で気付かなかったんだろう。天才僧侶って私が自分で言ったのに。)愛華が思う。
言われてみれば確かに、最上級の5人の中にその名前があった。
愛華は頭の中が真っ白になっている。
げしっ!
「痛った~い。」涼音がシュワに拳骨を喰らわせながら言う。
「一応って何よ。一応って!」
「いや、涼姉、言葉の綾ですよー。」シュワが涙目で答える。
そのやり取りを見て愛華は我に返る。
愛華はまた直立不動の姿勢をとる。
「涼音様、数々のご無礼、ぶっ!」
愛華が腰を曲げて礼をしようとしたとき、涼音がその顔を掌で抑えた。
そしていやいやと首を振りながら言う。
「本当にいい加減にしないと、理沙姉が怖くなるよ。」
はっと愛華が気づく。
カウンターの向こうの殺気を。
「わかりました。」愛華が言うと、
「「あっ?」」理沙と涼音の疑問形の声が聞こえた。
「いえ、分かった。」愛華の言葉を聞き二人の殺気が消える。
「ふぅ。」天井を見ながら愛華が席に着く。
「涼音。」愛華が言う。「この店は何なんだ。」
「何って、道楽亭「愚者の頂」って言う理沙姉が趣味でやってる喫茶店だよ。」
涼音がしれっと答える。
「いや、もう何処から突っ込んでいいか。」愛華が言う。
「そこの猫耳娘は何故ここにいる?」
「数年前にしー姉が森で拾ってきたんだ。」涼音が答える。
「数年でここまで育っちゃたから、もう森に返せないんだよ。」
確かに人の暮らす側の森では自然の結界が強い為、普通の妖魔は入れない。
(っていうか、妖魔の子を拾わないでしょ普通。)愛華が思う。
「この店って普通の人来ないの?」愛華が言う。
「こんな街中に妖魔がいたら大問題じゃないの?」
「えー?だって最上級の5人の一人がやってる店だよぉ。」涼音が言う。
「シュワもこの町では有名だし。誰も不思議に思ってる人はいないんじゃないかなぁ。」
「えへへ、あたしも街に出るときには猫被ってますから~。猫族だけに~」シュワが言う。
しかし、涼音も理沙もスルーする。
「ちょ、突っ込んでください。」シュワが真っ赤になって言う。
「コレが街中で害をなすなら」
コレ呼ばわりされたシュワが騒いでいるが、それを無視して涼音が言う。
「あたし達が瞬殺するから大丈夫。」
「はい?」
(つまりこの店には妖魔がいて、この近所、というかこの町がその存在を許してるってこと?)
それだけ最上級の5人が信頼されているってことだ。
愛華はそう理解する。
すると理沙が口を開く。
「で、愛華って言ったっけ?」
「はいそうです。」愛華が答える。
「低レベルの侍さんが今後この町でどうするか聞いていいかなぁ?」
(え?え?はい?て、低レベル?侍レベル20ですよ私。)と愛華が思ったが
(待てよ、涼音が見かけ忍者レベル2で実は司祭レベル48っていうとんでもない化け物だったよね。)
(いや待て待て、理沙様も、しー姉様も私にはレベル鑑定なんてできない。)
愛華は気持ちを抑えて理沙に聞く。
「あの、侍はどの位のレベルから実践に力を発揮できるのでしょうか?」
理沙は普通に答える。
「どの職業でも50レベル以下のものは単なる足手まとい。」
「はい?」
全否定を喰らった。
「あう~。」と愛華が落ち込んでいるとしー姉と呼ばれた人がカウンターから顔を上げて愛華に言う。
「貴方の刀、凄く嫌!」
「え、あ、は、これは妖刀で、対妖魔にはこの方が。」
愛華の声を遮るようにしー姉と言われた詩織が動く。
「この刀は駄目!」詩織が愛華から刀をひったくると刀を鞘から抜く。
「うおぉぉぉん」と
悲鳴に似た音がする。
詩織はその刀をカウンターに置くと両手をその上に置き念を込める。
「滅!」
詩織が言うと同時に愛華の刀が真っ二つにポキリと折れる。
「え、あれ。え?」愛華の思考が追い付かない。
詩織は意に介さず刀の周りにまたコップの水で何かの陣を書き、もごもごと呪文を唱えた。
刀の周りがまばゆい光に包まれ、詩織の髪を揺らす。
カウンターには違う刀が存在していた。
「一応「神刀」にしておいたから。」詩織が刀を鞘に納めながら言う。
愛華は訳が分からない顔でその刀を受け取った。
「おぉー草薙の剣クラスの刀だよ。」
涼音がコーヒーを飲みながら言う。「前の妖刀より愛華の剣質に合ってると思うよ。」
「え?えっ?」愛華が戸惑う。
(本当にどういう人間の集団なのよ。愛刀を別の刀にされて、その刀の性質を持ち主よりも早く見極めるって。)
愛華は刀を鞘から抜いてみた。
悲鳴に似た音はせず、神々しい光がほとばしる。
確かに重心の具合もしっくりくる刀だ。
何より、すごい気が身体に流れ込んでくる。
「ありがとうございます。」愛華が詩織に礼を言うが、詩織はすでにカウンターに突っ伏して寝息を立てていた。
あれ、いや、どうしたら。と愛華が慌てると涼音がぽつりと言う。
「コーヒー一杯奢ればいいと思うよ。」
(え?そんなもんで良い訳ないよね。)
「良いんじゃないのそんなもんで。」涼音が言う。
「後は身体で払うってことで。」
(なんですとぉ!)愛華が両肩を抱いて身構える。
そんな愛華の様子を見て涼音が言う。
「違うよぉ、何かの形でこの店か、しー姉のお手伝いをするってことだよぅ。」
(あぁそう言う事か。)と愛華が思ったとき理沙が口を開く。
「貴方たちレベル上げに森のダンジョンに行ってくれば良いんじゃない?」
「丁度欲しい素材も有る事だし。」




