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道楽亭(愚者の頂)

森からの帰り道、愛華は自分のことを話し始めた。

一昨日この町に越してきたこと。

元の町ではかなり優秀だと言われていたこと。

その優秀だといわれていた自分の能力ちからがまったく通用しないことにショックを受けたこと。

そして一通り自分のことを語り終えるとポツリとつぶやいた。

「しかし。」

「ん?」口を猫口にした涼音がハテナ顔をする。

「あの天才僧侶がまさかこんな町にいるとは思わなかったよ。」


「こんな町」とはひどい物言いだと思いながら、涼音は自分のことを言われているのだとしばらく気づかなかった。


数歩歩いて「あぁ。」と気づき、「あたし天才じゃないよ。」と答える。

「姉さんたちに比べたら、あたし、駄目っ娘だし・・」


「はぁ?」愛華はきょとんとした。


(この娘何言ってるんだろう?)

(この歳で忍者になってること自体が既に理解を超えてるんだけど?)

(もっと凄い姉さんたちって何よ?)


(涼音の家族って何者の集団??)

愛華の想像が物凄く悪いものになりそうなとき、街の入り口に着いた。


「ここからは、武器の生持ち禁止ね。」

涼音が自分の忍者刀を刀袋にしまいながら愛華に言う。

「あぁ。」そう言いながら愛華も腰から妖刀を抜くと刀袋に入れ、術式を施した紐で封印をし、右肩に担いだ。

いかに魔法や武器が普通に存在するとはいえ、街中でそれを行使することが常識的にありえないのはどこの世界でも同じだ。

まぁ、甲冑の着用については大目に見られているが。


しばらく歩くと二人は涼音の隠れ家、「道楽亭(愚者の頂)」へとたどり着いた。


涼音は素早く入り口の前に行き「いらっしゃいませ。」と言いながら扉を開いた。

「は、はぁ?」この店のシステムを理解しない愛華が戸惑いながら店に入った。


其の刹那、店の奥から黒い影が二人に飛び掛った。


「妖魔!」愛華がその気を感じ取り、腰の刀に手を伸ばす。

「ない!」刀を袋に入れていることを思い出す。

「何でこんな街中に妖魔がいるんだ?」と思う間もなく影が迫る。

愛華は手刀を影に向けて打ち込んだ。

しかし、影はそれ以上の速さで空中で回転すると、愛華の手刀を交わし飛び掛ってきた。

「駄目だ!」愛華が諦めかけたが、影は愛華をすり抜け涼音に向かって飛び掛かった。


「す、涼音!妖魔が。」と愛華が涼音に言うと同時に、その影が「はぅ」と言いながらまるでスローモーションのように顔から床に向かって突っ伏した。


「え?」愛華が怪訝に思う。

空中で身体にかかる重力を無視した行動を出来る「もの」が顔から床に落ちた事に驚いた。


「あううう。」

ぺっぺっと土を吐きながらその妖魔が地面から顔を起こして言った。

「グラビ(重力魔法)とスタン(麻痺魔法)のコンボはひどくね?」

「はぁ?」涼音が困った顔で答える。

「マジで殺しに来てる奴にそれで済んでることをありがたく思いなさいよ。」


メイド服に身を包んだ猫耳少女は服の埃を払いながら立ち上がる。

「はぁ、、また失敗したかぁ。」

猫耳妖魔がつぶやく。


「毎度毎度来る都度に攻撃してくるのいい加減に止めてくんないかなぁ」

涼音がうんざりとした顔で言う。

「あんたの親殺しは私じゃないって何回言ったら納得してくれるのかな?」


「いやぁ、それは分かってるんですけどぉ。」猫耳妖魔が口にする。

「涼姉を屠ればあたしのレベルが格段に上がるって言われれば、ねぇ(破顔の笑顔)。」」


涼音は理沙をきっと睨む。

理沙は「あたし知らないよーっ」て顔して紅茶を煎れている。


シー姉(詩織)は相変わらずカウンターに突っ伏してるし。


「はぁ。」とため息をつきながら涼音は詩織の隣の席に座り今回の獲物をカウンターにごろごろと出す。


「おー、守の王。」猫耳妖魔が目ざとく見つけて声に出す。


しかし理沙は「鼠」と「振え狐」を数個持つとそのまま店の奥に引っ込んだ。


(あー。やっぱり偽物の守の王じゃダメかぁ。)涼音が思う。


詩織がそんな涼音を見て言う。

「そんな外道持ってきても何にもならない。」

「はうぅ。」涼音は落胆する。

釣りで言うところの「外道」を獲ってきても役に立たないってことだ。


「シュワ、食べていいよ。」

涼音が猫耳妖魔に言う。

「マジで、やた!」と言いながらシュワと呼ばれた猫耳妖魔が「守の王」が封印された封魔石を手に取る。

「いただきまーす。」と言いシュワと呼ばれた妖魔が封魔石を口に入れ奥歯でかみ砕く。


「うぐぅ。」シュワが顔をしかめる。

「まっずーい。」

「なにこれ、苦い。」

「しかも舌が痺れるよー」


偽物の証拠だ。

しかしシュワの身体が変化する。


明らかに上位種になった事をシュワは感じる。


「おー、何これ何これ。」、シュワが言う。


猫族のシュワが山猫族に進化していた。


「これなら涼姉も狩れるんじゃね。」

そう言った瞬間に涼音が拳骨をシュワに見舞まう。

ボクッ!


「痛った~い。」

涙目になりながらシュワが言う。


「おすわり」涼音が言う。

条件反射でシュワが正座をする。


「誰が誰を狩るって?」


すごい笑顔で涼音がシュワに問う。

「いえ、何でもないです。すみませんでしたぁぁ。」

正座の姿勢から凄く綺麗な土下座をするシュワ。


何なんだろうこの不思議人たち。

愛華が身の不安を感じて思う。


「んー、侍レベル20?」カウンターに突っ伏した詩織が愛華を見て言う。

愛華はぎょっとする。

「こんな街中でなんで鑑定できるのこの人?」

識別された気配は全く感じられなかった。


愛華は保護系の魔法やスキルをほぼ取得していない。

しかし、職業の特性から鑑定に対する抵抗レジストが自分にあることは知っていた。


今更ながら気付く。さっき涼音も私のレベルアップを看破していたと。


「涼音?」愛華が疑問を涼音に投げかける。

「何かなぁ?」涼音が問う。

「カンターに突っ伏している人って。」愛華が疑問を問うと、

「しー姉って言って。「最上級の5人」の一人だよ。」

涼音がケロッと答える。


まじかぁ!

「伝説の人」が目の前にいる。

愛華は居住まいを正して声をかける。

「あの、私、愛華と申します。お目に書かれて光栄です。」


(何その対応。)

涼音が不満げに思う

あたしへの対応とダンチじゃん。


しかし、詩織は普段と変わらずカウンターに突っ伏したまま返事をする。

「んー」

いや、返事ですらないよ。と涼音は思う。

しかし愛華は感極まって涼音に言う。

「感動だ。伝説の人に返事をして頂いた。」

「おいおい。」涼音はため息をつく。


脱力感を感じながらカウンターに散らばった封魔石を集め始めると猫耳妖魔のシュワがコーヒーを二人分カウンターに置いた。


「侍さんにあたしのおごり。」

「涼姉もどうぞ。」


「さんきゅ。」

涼音が当然のようにカップを持ちコーヒーを飲む。

(美味いじゃないか。)

「シュワ、また腕を上げたね、マジで美味しい。」涼音が言う。

「へへへ、ありがと。」ほほを染めながらシュワが答える。

え~っと、さっきこの二人命のやり取りをしてなかったっけ?

愛華が考える。(何で和やかに話してるのかなぁ?)


「質問していいかな。」愛華が問う。

「「何?」」涼音とシュワが同時に答えた。

(仲が良いなこいつら。)と思いながら愛華が言う。

「貴方達さっきまで命のやり取りしていなかった?」

涼音とシュワがお互いの顔を見て答える。

「「してたけど?」」

それが何なのって顔で二人が愛華を見る。


「このコーヒーに毒とか入ってないのか?」

「いや~、それはあかんですよ。」シュワが答える。

「この店の飲食物にそんなことしたら、理沙様の逆鱗に触れますから。」


「理沙様?」愛華が疑問に思う。

「理沙姉はこの店のオーナーで、さっき店の奥に引っ込んだ人だよ。」

涼音が言う。

「ちなみに理沙姉も「最上級の5人」の一人ね。」


「はい?」

愛華が少しきょどる。

「さ、さ、さ最上級の5人が二人もこの店にいらっしゃる?」

なんだろうここは天国なのか?

この世界で憧れない者がいないと言われる「最上級の5人」が目の前にいる。

愛華の顔が真っ赤になった時。


「あー、やっと安定したよ~。」と言いながら理沙が出てきた。

愛華が椅子から立ち上がり直立不動の姿勢をとる。

そして腰を90度曲げながら理沙に挨拶をする。

「あ、あ、あの、初めまして。私、愛華と言います。お目にかかれて光栄に存じます。」


「あー、そんなにかしこまらなくてもいいから。」

理沙はにこにこしながら答える。

「この店でははそう言うの無しでお願いできるかな?」


「え、でもそう言う訳にも。」と愛華が言ったとき、理沙が更ににっこりとして言った。


「無しで!」優しく言っているのに何故だろう魂に触れられたように感じる。

愛華がそう思っていると

「郷に入っては郷に従えだよ。」と涼音がコーヒーを飲みながら言う。


「そんな、伝説の方々を前に普通な対応なんて。」愛華が言うと、涼音が

「ふぅ。」とため息をつきながら言う。

「愛華、あたしにはタメ口じゃん。」


(何言いだした、この娘?)愛華が疑問に思うと、猫耳娘のシュワが口を開く。

「涼姉も一応「最上級の5人」の一人ですよ。」


今度は愛華の顔が青くなる。

「な、な、な、あ、ああ、へえ?」愛華が壊れた。

(まるで信号機だな)と涼音が思う。


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