本題?(とある受験生のつぶやき)
「いつだったかな? 一年の3学期が始まって直ぐの頃、お昼休みに机に突っ伏している横を通った時、机に置いてあるスマートフォンの画面が見えたの。投稿用の原稿画面が」
エッ! チョット、チョット、ビックリが続きすぎて、もう1回ビックリしたら心臓が止まる自信があるから。
「『小説家になろう』は、私もIDを持っているから検索してみたの。そうしたら文化祭のシナリオが物語になっていたから、すぐにブックマークしました」
数万PVの読者がいるとはいえ、ネットの世界だし周りには話していないからバレないと思っていたら、まさか同じクラスに読者さんがいたとは。
「それから、ずっと読んでいます」
ご愛読ありがとうございます。でも、どうして?
「それでね、叔父さんに『高校に長編SF小説を書いている子がいるよ』って、教えてあげたの」
彼女はなぜ、叔父さんに僕の小説のことを教えた?
『叔父さん』と呼ばれる男性が、痺れを切らせて彼女の話を遮る。
「おまえさぁ、相手を驚かせるのも物語を書く練習にはなるけど、物事には何事も限度があるだろう。このままだといつまで経っても本題に入れないぞ」
そう言って叔父さんはポケットから名刺入れを出し、1枚抜いて渡してくる。
受け取っていいんだよね?
名刺には『SPACE PLANNING LTD. Editor-in-chief』という知らない会社の名前と肩書き。他には、X と instagram のアドレスが印刷されているだけ。名刺なのに名前がないんですけど。
「来年の春から会社で合宿所を作ろうと思っているわけ。物書きの」
合宿所? 物書きの? そもそも、その『SPACE PLANNING』って何の会社なの? 聞いた事ないんですけど。
「叔父さんは話を端折りすぎよ。私から説明するわ」
うん、彼女の説明も乱暴だけど、叔父さんよりマシかもしれない。
「日本の漫画は世界レベルでしょう?(「僕「否定しません」)でね、漫画があれほど世界を席巻しているのに、日本の小説はマイナーでしょう?」
それも否定しません。でも彼女は何故ここでカルチャー論を展開するわけ?
「叔父さんはそこで考えたの。日本の漫画家と小説家との環境の違いを」
「環境の違い?」
「漫画家さんは、デビューするまで有名な漫画家のアシスタントをやったりして経験を積むでしょう?」
「そんな漫画を何冊も読んだことがある気がする」
「でしょう? 小説家も昔は書生といって、高名な小説家のところでお世話になってモノを書く勉強をしたそうじゃない」
「書生? それって昭和初期ごろまでのお話では?」
「時代はいつでもいいの。あなたに書生になれとは言いませんから」
いえ、こちらからもお願いしていません。受験生だし。
「それでね、小説家を志す若者を集めて切磋琢磨して、良い物語が作れる環境を用意しようと、叔父さんは考えているの。私は候補生の一人目よ」
彼女は小説家を目指しているの? 彼女の物語は読んだことないけど。
怪訝そうな顔をするのを読み取ったのか、すかさず彼女が話を続ける。
「私だって、受験勉強の合間に小説は書いています。時間がないから短編を monogatary や pixiv に投稿しているだけだけど…『小説家になろう』は長編の異世界転生ものばかりでしょう? 私には、あんな変な世界は書けません」
その発言は『小説家になろう』の投稿者と読者を敵に回したと思う。
「話が逸れたけど、合宿所に入れば大学に通いながら物書きの勉強も出来て、おまけに住居光熱費は無料よ。こんなに至れり尽くせりの話はないと思わない?」
それはとても良いお話だと思いますが、美味しい話には裏があるよね?
(つづく)




