候補生!(とある受験生のつぶやき)
タバコを咥えながら彼女の話を聞いていた叔父さんが、ポケット灰皿を取り出してタバコを揉み消して口を開く。
「大体のところは彼女が言った通りだけど、君を候補生にする前に確認したいことがあってココに来てもらったわけ。質問に答えてくれる?」
候補生にエントリーをしていませんが? それに確認したいことって何? 身辺調査でもするの?
思わず身構えるのを感じたのか、叔父さんは微笑んだつもりでニヤッとして(スキンヘッドにサングラスだと余計に怖いんですけど)質問を始めた。
「そんなに緊張しなくていいから。さっき彼女が話した、投稿している長編SF小説のことだけど」
あの物語のこと? だったらいくらでも聞いて下さい、著者ですから。
「あの小説ですか? これからのあらすじとか?」
「違う違う。ざっと読ませてもらったけど、長く書いているね。手を替え品を替えて。主人公たちは変えないまま」
この叔父さんという人も僕の小説を読んでくれていて嬉しいけど『手を替え品を替えて』とは、どういうこと?
「まず確認するけど、アレは全部、君が書いたの?」
『小説家になろう』にゴーストライターを使って投稿する人とかいるの?
「はい、自分で考えてスマートフォンやパソコンで打ち込んで投稿しています」
「なるほど、でも話の中に出てくる主人公たちが通う会社のことや東京の街の様子が詳しく書かれているよね? 地方の高校生がよく書けるなと思ってさ」
ハハーッ、この叔父さんって人は、僕が投稿している小説には元ネタがあると勘ぐっているのかな?
「ええ、東京や会社の様子は、東京で働いているチョット年上(そう言わないと怒られる)の従姉妹から聞いた話を元に書いています」
「フーン、海外の話も出てくるよね?『ミッション』だっけ? 突然、上海やオアフ島へ行く話。アレも現地の街並みとか詳しいけど、行ったことがあるの?」
やっぱり疑われてる。取材能力を舐めないで欲しい、身内限定だけど。
「まだ海外に行ったことはありません。上海は父が出張でよく行っていたので話を聞きました。オアフ島はハワイが大好きな姉が何回も行っているので、何回も話を聞かされています」
説明を聞いていた叔父さんは、納得してくれたのかどうかも分からないまま、天井を向いてジッとしている。
僕の返事が何かおかしかったのかな? それとも寝ている?
「叔父さん、起きてる?」
声を掛ける彼女も同じことを考えていたようだ。叔父さんはソファに腰掛けて上を向いたまま口を半開きにしてビクともしない。
彼女はスクッと立ち上がり、テーブルにある飲み掛けのペットボトルを持ち、叔父さんの半開きの口に注ぎ込んだ。大人にそんなことをするとは、彼女は見かけによらず大胆。
「ブフェ! 何するんだ! お母さんに言いつけるぞ」
叔父さんは居眠りをしていた様だ。
「言ったら、私だって叔父さんのこと言っちゃうもの」
彼女が負けずに言い返す。叔父さんの弱みを何か握っているようだ。
叔父さんは背筋を伸ばして座り直し、僕の方を向いて話し始める。
「高校生で長く文章を書けることは確かなようだな。そこそこ読者もいるみたいだし。書く気はあるみたいだから、候補生にしてあげよう。彼女の推薦もあるしな。ただし……」
(つづく)




