メイド服の女の子
お店に入ると、築数十年は経っていそうな、クラシックな雰囲気の洋食屋さんだった。
赤いチェック柄のビニールクロスが敷かれたテーブルが、フロアにゆったりと配置されている。
普通ではないのは、店内にメイド服姿の女の子以外、誰もいないこと。
ランチタイムが終わった後だからかもしれない。
入口で店内を眺めていると、メイド服姿の女の子に、
「どこでもお好きなお席へどうぞ」
と促され、僕は窓際のテーブルを選び、彼女に確認してから腰を下ろす。
「エムくんは窓際が好きね」
「初めて、そんなことを言われたけど」
ゴルゴ13じゃあるまいし、レストランの席なんて、その時の気分で決める。
この店が狭い路地にあるから、本能的に外に近い場所を選んだのかもしれない。
古い造りの店だから、火事になったら、すぐに逃げられるからね。
「そう? あの時だって、窓際の席を選んだでしょう?」
あの時って、どの時?
うーん……思い出せない。
彼女と、どこへ行った時のことだろう?
記憶の糸から、いくつか候補を引っ張り出していると、メイド服姿の女の子がこちらへ歩いてきた。
左手には、グラスと氷水の入ったデキャンタを載せたトレイ。
右手には、厚いメニュー。
でも、フロアを歩く姿は、どこかぎこちない。
ここでトレイをひっくり返したら、ドジっ子メイドに認定できそうだ。
そんなことを考えていると、僕たちのテーブルにたどり着いた。
メニューを置き、グラスを並べ、デキャンタから冷たい水を注ぐ。
デキャンタをテーブルに置くと、お辞儀をして、そのまま離れていった。
残念ながら、ドジっ子メイドには認定できなかった。
でも、近くで見ると、初めて会ったはずなのに、妙な既視感がある。
どこかで会ったことがあるのかな?
「エムくん、あの子が気になる?」
彼女の目線が鋭い。
僕が女の子をじっと見ていたから、そう感じたのかもしれない。
「見たことのある子みたいだな、と思ってさ」
「エムくんは、ああいうタイプの子が好みなの?」
ちょっと見ていただけで、そんなふうに見える?
「全然。あの赤い装飾品と一緒に歩く自信はありません」
真っ赤に染めた赤毛と赤いセルフレームを差別しているわけではなく、好みの問題。
「フーン……」
彼女は少しだけ口を尖らせた。
「メニューを決めましょう。お腹が空きすぎて倒れそう。このお店のお薦めはカツレツとオムライス。せっかくだから、両方頼もうかな」
「カツレツとオムライスを両方?」
その細い身体のどこに、そんなに入るの?
そう思いつつ、彼女が見かけによらず健啖家であることを思い出した。
昨日も、叔父さんがオーダーした有り余るほどのピザを、ためらうことなく何切れも食べていた。
でも、細いんだよね。
裸を見たことはないけれど……当然です。
高校の体育祭で見かけた体操服姿は、細くてしなやかな感じだった。
対抗リレーにも出ていたから、足も速かったと思う。
食べたものが、どこかにワープしているのかもしれない。
「じゃあ、頼んじゃうね。すみませーん。オーダーお願いしまーす」
アレ?
主役は僕じゃなかったっけ?
フロアの隅で控えていた、ドジっ子にはならなかったメイド服姿の女の子が、こちらへ歩いてくる。
「カツレツとオムライスを2つずつ。それと、私はチキンサラダ。エムくんは?」
「何でも」
「じゃあ、カニサラダにして、サラダはシェアしましょう。スープは?」
「スープも頼むの?」
「そうね。これにスープは多いかな。以上です」
メイド服姿の女の子は、注文を書き留めるとメニューを持って下がっていった。
それから彼女は、午前中の課題だった『人物観察』の反省会を始めた。
(つづく)




