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彼女と僕の奇妙な日常【小説家になろう!】  作者: MOH
4月 突然の来訪者

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煉獄亭

「なんだか、物騒な名前のお店だね」


「『煉獄亭(れんごくてい)』が?」


「だって、お店のなかで焼かれそうでしょう?」


 訝(いぶか)しげな顔をする僕を見て、彼女は顎をクイッと上げ、得意げな笑みを浮かべた。

 右手の人差し指を左右に振りながら、

「チッチッチ」

 と、効果音まで付け加える。


「エムくんは、キリスト教のことを知らないの?」


 うちは代々、仏教徒ですが、何か?

 自分の家がどこの宗派なのかも知らない、いわゆる葬式仏教だけど。


 僕が何と答えようか考えていると、彼女は胸をそらしながら僕の方を向いた。

 去年の秋から彼女と一緒にいる時間が増えて、彼女の癖も分かるようになってきた。

 この一連の動作は、彼女の講義が始まる合図だ。

 お店の予約時間を過ぎているんだけど、大丈夫?

 こんな路地裏で講義を聞かされるとは…


「では、エムくんの後学のためにも、お話ししましょう」

 やっぱり始まった。

「そもそも煉獄とは、カトリック教では、天国には行けなかったけど、地獄にも落ちなかった人が行く、中間的な場所とされています。苦罰によって罪を清められた後、天国に入る手前のところ、という位置づけです」


「ふーん。要するに、中途半端なカトリック教徒が亡くなったら、天国に行く手前で足止めされているところ?」


「中途半端っていうのは、どうなのかなぁ?」

 彼女は少し考えてから続ける。

「とにかく、天国でも地獄でもないところよ」


 どうやら彼女も、それほど詳しく知っているわけではないらしい。

 意地悪な質問を思いついて、口を開きかけた、その時…


 『煉獄亭』のドアが開いた。


 中から出てきたのは、小柄な女の子。

 カールした赤い髪、大きめの赤いセルフレーム、赤い厚底のストラップパンプス、そして、赤いストライプ柄のメイド服。全身、赤尽くしだ。

 パリッとしたブラウスの胸元は少し窮屈そうで、生地がパツパツになっている。

 このお店の制服なのだろうか?

 彼女は洋食屋さんに行くと言っていたよね。

 まさか、メイドカフェではないよな?




「失礼ですが、ご予約のエム様でしょうか?」

 メイド服姿の女の子が、彼女に尋ねた。


「はい、エムの名前で予約した2名です」

 僕の名前を使ったの? なぜ、自分の名前を使わなかったのだろう。


「お待ちしておりました。よろしければ、お入りください」


 彼女とメイド服姿の女の子を交互に見ていると、彼女に腕を引っ張られた。

「エムくん入ろうよ。私、朝が早かったから、お腹が空いたわ」


 そう言えば彼女は今朝(けさ)、どこかから帰ってきたみたいだったけど、出掛けていたのだろうか?


「エムくんの名前で予約したから、今日はエムくんが主役よ。遠慮せずに入って、入って」


 主役と言っても、彼女と僕の2人だから、主役も何もないと思うけど。

 そこを突っ込むと、彼女からまた『細かい』と言われそうなので、引っ張られた腕をそのままに、『煉獄亭』へ入っていった。


(つづく)

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