↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女と僕の奇妙な日常【小説家になろう!】  作者: MOH
4月 突然の来訪者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/39

段ボール箱

 居なくなった女の子と、2階に上がってしまった叔父さんのことはさておき、彼女と僕は玄関前のフロアに積み上げられた引越し荷物の段ボール箱を、それぞれの部屋へ運び始めた。

 正確には、僕が彼女の荷物を1階から5階まで運び、彼女は部屋の掃除。

 何となく役割分担が決まっていた。


 上京して、このビルに辿り着いた日。

 玄関扉に叔父さんの字で「海外出張中」と書かれた張り紙を見つけた時は、彼女も僕も驚いた。


「今日、どこに泊まろう?」


 そう話しながら玄関扉に寄りかかったら、突然、扉が内側に開き始めて、二度驚いた。


「叔父さん、戸締まりしないの?」


 そんなことを言いながら、僕たちはビルの中へ入り、使える部屋を探した。

 そして5階の部屋を開けた瞬間、さらに驚くこと…

 蜘蛛の巣が張っているくらいなら驚かないけど、あれは魔窟だった。

 5階の部屋の扉を順に開けていくと「それらしきもの」まで出てきたので、本当に魔窟だったのかもしれない。

 身の危険を感じるモノは何とか追い出したけど、部屋の汚れはそのまま。

 そんな部屋だから、掃除を買って出てくれた彼女には感謝している。


 ただし……

 僕が2人分の段ボール箱を運ぶ役になったことに気がついた時には、もう遅かった。

 とにかく彼女の荷物が重い。

 一箱持ち上げるたびに、腕と腰にズシッとくる。

 気をつけて運ばないと、段ボール箱の底が抜けそうだ。

 運送会社の人たちは、よくこの箱を壊さずにここまで運んできたなと感心するほどだった。

 あとで段ボール箱に何が入っているのか聞いてみよう。

 いや……聞かない方が良いのかもしれない。


 彼女が自分の部屋を5階に決めた理由は、彼女なりの蘊蓄(うんちく)を聞かされたけどココでは省略。

 5階まで何度も往復することになった時点で、その理由を聞いたことを後悔している。


 段ボール箱を彼女と自分の部屋に全部運び終わると、朝から降り続いた小糠雨(こぬかあめ)はいつの間にか止んでいた。

 開け放った窓から春先の冷たい風が吹きすさび、窓外の雑木林が薄暮れの景色に浮かび上がる。


 彼女も僕も疲れ果てていた。

 これから段ボール箱の荷ほどきまで待っていると思うと、それだけで気が滅入る。

 僕たちは1階のソファでダラッとしていた。

 正確に言えば「荷ほどきを始める前の休憩」という名目で、何もしていなかった。


 その時、ひと寝してサッパリした叔父さんがホールに降りてきた。

 色付きセルフレームを掛けているから表情は分からないけど、足取りは軽く、鼻歌まで歌っている。


「荷物は片付いたみたいだな、腹減らない?」


「おなかは空いたけど、疲れて動けません。部屋の片付けも残っているし」

 彼女は寝そべったソファから起きる気配もない。


「じゃあ、ピザでも取るか? ささやかな歓迎会をしてあげるよ」

 叔父さんはスマートフォンでピザ屋にオーダーを入れると、バスルームに入り、シャワーを浴び始めた。


 その間、彼女と僕はボーッとしたまま。

 歓迎会と言われても、今はピザを食べるために立ち上がる体力すら残っていない。


 しばらくするとバイクの排気音がして、玄関の呼び鈴が鳴った。

 ピザ屋のデリバリーが届いたようだ。

 叔父さんがバスルームから出てこないので、僕が重い腰を上げて玄関へ向かう。


「お待たせしました。量が多いので、この箱でお渡しします」

 配達員が渡してきたのは、ピザの箱ではなかった。

 ピザ屋のロゴが入った、今まで僕が格闘していた段ボール箱と同じくらいの大きさの箱だった。


「合計で2万円になります」


「エエッ!」

 叔父さんは何をオーダーしたの?


 とはいえ、「いりません」と言うわけにもいかず、東京に出てくるとき餞別にもらったお小遣いから、1万円札2枚を配達員に渡した。

 叔父さんは、払ってくれるよね?


 ピザの入った大きな箱をホールに持ち込むと、バスローブを羽織り、タオルを頭に被った叔父さんがバスルームから出てきた。

 もちろん、色付きセルフレームを掛けている。

 あれは、もう叔父さんの身体の一部なのでは?


「ピザ、届いたの? じゃあ、始めるか!」


「ピザ代、立て替えておきました」


「じゃあ、あとでね」

 本当に払ってくれるのかな? 悪い予感しかしない。


「君たちの部屋も決まり、合宿所のスタートだ。入所おめでとう!」


 叔父さんは、僕が立て替えたピザ屋の箱からビールを取り出し、プルタブを引き起こして飲み始めた。

 アルコールもオーダーしたから、支払いが多かったのか……

 疲れ果てた彼女と僕、そして、ひと寝してすっかり元気になった叔父さん。

 三人で合宿所の歓迎会が始まった。


 叔父さんは次々にビールを開け、ワインまで箱から取り出してボトルごと飲み始める。

 時々、彼女がホールから居なくなるのが気になり、どうしたのか聞いてみると「ちょっとね」と答えるだけ。

 3人には多すぎる量のピザとサイドオーダーを、僕はウーロン茶で流し込む。


 途中から疲れと満腹感で眠気が増して朦朧(もうろう)となり、何とか3階の部屋までたどり着いたところまでは覚えているけど、そこから先は、夢の中。

 荷ほどきをしないまま、段ボール箱の上で寝てしまったらしい。

 段ボール箱運びの疲れで、朝まで熟睡したみたいだけど……


 夜中に、誰かが階段を上り下りする足音が聞こえたり、人の話し声がしたのは、夢だったのかな?


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。