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彼女と僕の奇妙な日常【小説家になろう!】  作者: MOH
4月 突然の来訪者

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19/30

一休さん

 彼女は握りこぶしをおでこに当てて、何かを思い出そうとしている。

 一休さんの「このはし渡るべからず」みたいに、何かを考える時のポーズなのだろうか。

 どうでも良いことを考えていると、彼女がおもむろに口を開いた。


「歳は私たちと同じくらい、小柄で身長は150cmちょっと。細身だけど胸は大きかったわ」

 そこまで覚えているの?

「髪はストレートで肩に掛かる長さ。少し癖っ毛だったわ。顔は雨に濡れて化粧が落ちて、目を閉じていたからよく分からないけど、丸顔で鼻はあまり高くなくて…でも、よく喋りそうな口元だった」


 彼女はあの一瞬で、よくそこまで覚えているなぁ。女性って、そんなに相手のことをよく見ているものなのだろうか。


「なるほど、よく観察してるね。君はどうなの?」

 叔父さんがいきなり、僕に振ってくる。


「えっと……彼女と同じかな?」


「オイオイ、人物観察は小説を書く以前の話だぞ。人の出てこない小説なんてある? 目の前にいる人物を言葉で説明できないと、文字にできないだろう?」


 おっしゃるとおりですが、一瞬のことで覚えていません。

 言い訳だけど、雨でずぶ濡れになった女の子が目の前で倒れてきたんだから、顔をじっくり観察している余裕なんてありませんでした。


「地方から出て来たばかりだから仕方ないな。街に出て通りを行き交う人たちを観察をしてご覧。東京にはいろいろな人がいるから。容姿を観察してその人の仕事をイメージし、どんな生活をしているのか想像して書き出してみるんだ」

 叔父さんは、そこで一息ついた。

「じゃあ、おやすみ」


「えっ、もう寝るの?」

 僕が言うより先に、叔父さんは階段を上って行き、そのまま2階へ消えていった。


 結局、ソファで消えた女の子に心当たりがあるのかないのかも分からないまま。

 宙ぶらりんな気持ちで彼女の方に目を向けると、彼女は手帳を閉じて嬉しそうな顔をしている。

 高校生の頃は『叔父さんのアドバイスメモ』をノートに書いていたが、最近はシステム手帳に書いている。

 本人にノートを変えたのかと聞いてみると『常にアップデートは必要よ』と返ってきた。システム手帳を使うと、賢くなれるのだろうか。


「エムくん、良かったね。さっそく叔父さんから課題が出たよ。私もエムくんの投稿小説を読んで人物描写が少し足りないかな?と思っていたところなの」


 たった今まで消えた女の子に驚いていたのに、この変わり身の早さ。

 人物描写についてのご意見は、有り難く賜ります。

 ただ、それよりも、目の前から消えた女の子の方が気になるんだけど。 


「そうだ!」

 彼女が突然、顔を輝かせる。

「明日は天気が良くなるって天気予報が言っていたから、人物観察に出掛けようよ。どこにしようかな? 渋谷? 新宿? あの辺はいろいろな人が盛りだくさんだから…」

 彼女は少し考えてから、ポンと手を叩いた。

「スタートは銀座にしましょう。銀座四丁目の交差点、WAKO前。文豪を目指すスタートに、ふさわしい場所よ」


 去年、彼女は「大学生で文壇デビューを果たす」って言ってなかったっけ?

 東京に来て、さらにハードルを上げていますが、大丈夫?


「ここで消えた女の子は?」

 気になる僕は、濡れたままのソファを指さす。


「消えてしまったものは仕方がないわ、縁が無かったということで。それより引越し荷物を片付けましょう。明日は朝から人物観察だから今日中に片付けを終わらせないと」


 割り切りが良いというか、気持ちの切り替えが早いというか。

 さっきまで、目の前から人が一人消えたことに大騒ぎしていたのに。

 だからいつも、彼女に振り回されるんだ。


(つづく)

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