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星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
王弟から王へ
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カンチャーン城にて

ヴァルダーン公爵は、僕たち全員を城の中へ入れた。

案内されたのは大広間ではなく、城の奥にある公爵の居室だった。

寝台がある。

薬もある。

卓の上には書類が積まれ、壁には西部の地図が掛けられていた。

門前ではあまり気づかなかったけれど、ここへ来ると、公爵が本当に病人なのだと分かった。

僕の記憶にある公爵より、ずっと痩せている。

杖をついて歩いていたし、椅子に座ると少し息を整えていた。

従者が心配そうに聞いた。

「閣下。寝台へお戻りにならなくてよろしいのですか」

「今はそんなときではない」

「ですが――」

「死ぬかというくらい驚いたら、元気が出たわい」

僕は思わず笑った。

従者は笑わなかった。

「閣下。そのようなことをおっしゃらないでください」

「本当だ。さっきより調子がいい」

「先ほどまで寝ておられたのです」

「だから寝飽きた」

「そういう問題ではございません」

ファルハドが僕の後ろで小さく言った。

「怒られてるな」

公爵には聞こえたらしい。

「病人は寝ていても起きても怒られる」

「寝ていてくだされば怒りません」

従者がすぐに答えた。

公爵は黙った。

僕はなんだか安心した。

門前で泣いていた公爵を見たときは、どうしていいか分からなかった。

でも、こうしていると少しだけ、昔会ったことのある人に戻った気がした。

温かい飲み物が運ばれてきた。

僕たちは卓を囲んだ。

公爵は僕の向かいに座った。

「さて」

さっきまでとは声が違った。

「殿下。何があったのか、お聞かせください」

僕はうなずいた。

「長くなります」

「構いません」

「たぶん、かなり長いです」

「三年近く死んでおられた方の話です。それくらいは覚悟しております」

「僕、死んでないですよ」

公爵が少し笑った。

「そうでしたな」

それから僕は、話し始めた。

---

あの夜、宮殿を出たところから話した。

ミーラと公爵たちに逃がされたあと、どうやって王都を離れたのか。

ダルガンとナディラに出会ったこと。

二人の子供ということにして旅をしたこと。

カルバーブを離れたこと。

それから、長い旅のこと。

サルマンドへ行ったこと。

大図書館に入ったこと。

そこで僕が何を調べたのか。

父上のことも調べた。

兄上のことも。

カルバーブ王家のことも。

そして、アルダーンについても。

公爵はほとんど口を挟まなかった。

ただ、僕がサルマンドの大図書館に住んでいたと言ったところで、

「殿下らしい」

とだけ言った。

「そうですか?」

「昔から、本を与えておけば静かでしたからな」

「僕だって外で遊びましたよ」

「ラシャン陛下に引っ張り出されれば」

言い返せなかった。

話を戻した。

大図書館にも分からないことがあった。

星環だった。

僕は腕の星環を見せた。

「僕はずっと、これだけだと思っていました」

公爵もうなずいた。

「私もです」

「でも、違った」

僕は話した。

古い記録。

壁の中から出てきた、太陽教より古い神殿。

生者が輪を作る儀式。

死者を輪の中へ迎える儀式。

そして、対になるもう一つの星環。

「死の星環です」

公爵が僕を見た。

「そのようなものが?」

「ありました」

僕は少し迷ってから言った。

「それを、僕たちは使ってみました」

「使った?」

「はい」

公爵の顔が険しくなった。

「殿下御自身で?」

「はい」

「何をするものかも分からぬものを?」

「だいたいは分かっていました」

「だいたいで古代の聖具を使わないでいただきたい」

怒られた。

「僕もそう思います」

ファルハドが言った。

「ファルハドも一緒だったじゃないか」

「一緒だったから言ってんだよ」

公爵がファルハドを見た。

「あなたも?」

「二人目です」

「二人目?」

「こいつが一人目で、俺が二人目」

公爵はしばらくファルハドを見ていた。

「……なるほど」

何がなるほどなのかは分からなかった。

僕たちは、あの夜に見たものを説明した。

誰か特定の死者ではない。

名前を呼ばずに行ったため、見えたものも曖昧だった。

死者。

輪。

その中心に座る者。

葬送。

昔の人々が死者を王として扱った、何かの記憶。

僕だけではない。

ファルハドも同じものを見た。

だから単なる僕の夢ではない。

少なくとも、僕たちはそう考えた。

「それで、ラシャン陛下には?」

公爵が聞いた。

「使っていません」

「なぜです?」

「兄上は、もう待っていますから」

公爵が僕を見る。

「死んだ人は逃げません」

自分で言うと少し変だった。

でも、それがサルマンドを出た理由だった。

「生きている人から聞けることまで、死んだ兄上に聞くのは違うと思ったんです」

僕は公爵を見た。

「だから、あなたに会いに来ました」

公爵は長い間、何も言わなかった。

やがて、ゆっくりうなずいた。

「では」

公爵が言った。

「私が知っていることを、お話しいたしましょう」

---

「まず、火災のあとです」

僕は姿勢を直した。

「ラシャン陛下の御遺体は見つかりました」

分かっていた。

大図書館でも読んだ。

それでも胸が痛んだ。

「兄上だったんですね」

「はい」

公爵は迷わなかった。

「これは私だけの判断ではありません。宮廷の者、近習、医師。複数の者が確認しております。ラシャン陛下であったことは間違いありません」

僕はうなずいた。

「でも、僕は?」

「見つかっておりません」

「一度も?」

「一度もです」

それも知っていた。

でも、公爵は続けた。

「もっとも」

少し不思議そうな顔をした。

「私にしてみれば、当然なのですが」

「当然?」

「殿下を火災から逃がしたのは、私とミーラ殿です」

僕は黙った。

そうだった。

「少なくとも、あの火災で殿下が亡くなったはずはない」

公爵ははっきり言った。

「私どもは、殿下が生きて宮殿を出たことを知っております」

「でも、そのあと僕がどこへ行ったかは?」

「分からなくなりました」

公爵は首を振った。

「混乱の中で消息が途絶えた。ですから、その後も殿下が無事であったとは断言できませんでした」

そこは違う。

公爵は僕がずっと生きていると信じていたわけではなかった。

宮殿からは生きて出た。

そこまでは知っている。

その先は知らない。

「だから私は、殿下の生存を証明することもできなかった」

「でも、死んだとも?」

「認められません」

公爵は即答した。

「証拠がありませんからな」

---

火災についても調査された。

出火した場所。

燃え広がった経路。

そのとき宮殿にいた者。

出入りした者。

けれど、結局はっきりしなかったという。

「分からなかったんですか?」

「分かりませんでした」

「なのに終わった?」

公爵は少し考えた。

「終わった、というより、次へ進められました」

「次?」

「国を動かすことです」

王が死んだ。

王弟は行方不明。

宮殿が焼けた。

都は混乱している。

役所を動かさなければならない。

治安を戻さなければならない。

兵を配置しなければならない。

税も集めなければならない。

そして王位をどうするのかも決めなければならない。

「ナジャール殿下が、混乱を早く収めようとしたこと自体は理解できます」

僕は公爵を見た。

「叔父上を疑っているのに?」

「疑うことと、何もかも悪意と考えることは別です」

公爵は静かに答えた。

「あのとき王都を安定させる必要があったことは事実です」

それから少し黙った。

「ただ」

「ただ?」

「妙に用意がよかった」

---

ナジャール叔父上だけではなかった。

叔父上を支持する南部の諸侯も、次々と声を上げた。

悲しいことである。

ラシャン陛下とアシャン殿下はともに亡くなられた。

王家の悲劇を乗り越え、国を安定させなければならない。

「待って」

僕は言った。

「僕の死体はないんですよね」

「ありません」

「公爵とミーラは、僕が宮殿から逃げたことまで知ってる」

「はい」

「なのに、みんな僕が死んだって?」

「それが、私には理解できなかった」

公爵は言った。

「殿下を逃がしたことを、すべての諸侯が知っていたわけではありません」

「だったら、勘違いしただけじゃないですか?」

「知らないのであれば」

公爵は僕を見た。

「普通は確かめます」

僕は黙った。

「御遺体がない。死亡を見届けた者もいない。それならば『アシャン殿下は亡くなられた』ではなく、『アシャン殿下の行方は分からない』となるはずです」

確かにそうだった。

「ところが、ナジャール殿下を支持する南部諸侯から出てくる言葉は、奇妙なほど揃っていた」

公爵の指が卓を軽く叩いた。

「殿下の生死を確かめようとする声ではない」

「僕が死んだっていう声?」

「はい」

公爵はうなずいた。

「事実を確認する者ではなく、まだ確認されていない事実を肯定する者ばかりが現れた」

ナディラが聞いた。

「示し合わせていたのでしょうか」

「分かりません」

公爵はすぐに答えた。

そこだけは、はっきりしていた。

「ナジャール殿下が命じたのかもしれない。南部諸侯がそれぞれ自分の利益を考えて同調したのかもしれない。あるいは本当に、一刻も早く王位を安定させるべきだと考えただけかもしれない」

公爵は首を振った。

「私には証拠がない」

ダルガンが聞いた。

「それで、あんたは?」

「認めませんでした」

「アシャンの死を?」

「はい」

公爵は僕を見た。

「私は頑なに、死亡を確認できる証拠が出るまでは、アシャン殿下を死者として扱うべきではないと主張しました」

「叔父上は?」

「捜索は続ける、と」

「続けたんですか?」

「形の上では」

公爵はそう答えた。

「しかし政治は、殿下が亡くなったものとして進んでいきました」

僕は何も言えなかった。

探している。

でも死んだことにしている。

変な話だった。

「私は都に残り、何度も異議を申し立てました。しかし、やがて病を得ましてな」

公爵が自分の胸に手を当てた。

「都に居続けることが難しくなり、カンチャーンへ戻りました」

「それで、ここに?」

「はい」

「僕を探すのは?」

「探させました」

公爵は答えた。

「ですが、手掛かりがないものを永遠に探し続けることはできません」

少しだけ目を伏せた。

「正直に申し上げれば、年月が経つほど、生きておられる可能性は低いとも思いました」

僕はうなずいた。

当然だと思う。

三年近く、何の知らせもなかったのだから。

「それでも?」

「死亡したとは認めませんでした」

公爵は顔を上げた。

「私が知っているのは、あの日、アシャン殿下が生きて宮殿を出たというところまでです」

「その先は知らない」

「はい」

「だから、生きているとも言えない」

「はい」

「でも、死んだとも言えない」

「その通りです」

僕は少し笑った。

「頑固ですね」

「よく言われました」

公爵も笑った。

「だから門前で僕を見て、死ぬほど驚いた?」

「死ぬほど驚きました」

横にいた従者が口を挟んだ。

「閣下」

「なんだ」

「その言い方はおやめください」

「なぜだ」

「洒落になっておりません」

ファルハドが吹き出した。

公爵も笑った。

少し咳をした。

すると従者がすぐ公爵を見る。

「……大丈夫だ」

「先ほどよりお元気なのは認めます」

「ほら見ろ」

「それと病気が治ったことは別です」

「細かい奴だな」

「それが仕事でございます」

公爵は諦めたように飲み物を口にした。

僕も少し飲んだ。

温かかった。

---

ここまで聞いて、分かったことがある。

兄上の遺体は確かにあった。

僕の遺体はなかった。

それどころか、ヴァルダーン公爵とミーラは、僕が生きて宮殿を出たことを知っていた。

火災の原因は分からなかった。

それなのに、叔父上と南部諸侯は妙に早く、僕たち二人が死んだあとの話を始めた。

怪しい。

そう思う。

でも、それだけだった。

叔父上が兄上を殺した証拠ではない。

火をつけた証拠でもない。

南部諸侯が最初から何かを知っていた証拠でもない。

分からないことは、まだ分からない。

サルマンドの大図書館でも分からなかった。

ヴァルダーン公爵に聞いても、そこまでは分からなかった。

僕は自分の腕を見た。

生者の星環がある。

そして荷物の中には、もう一つある。

死者の星環。

兄上は、もう待っている。

生きている人から聞けることは、聞いた。

僕は顔を上げた。

「公爵」

「はい」

「今夜、兄上に会ってみます」

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