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星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
本の外へ
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ヴァルダーン公爵

タラートは、山を下りた先にあった。

高い山と山の間を川が削り、その両側に町が細長く伸びている。

ハルザーンとは違った。

山の町ではあるけれど、閉じ込められている感じがしない。

谷に沿って道が続き、人も荷も流れている。

久しぶりに、大きな市場も見えた。

僕はそれだけで少し安心した。

「着いた……」

ファルハドが馬の上で呟いた。

「宿だ」

ダルガンが言った。

僕も賛成だった。

馬から降りたら、そのまま眠れる気がする。

「明日は休み?」

「三日休め」

「三日?」

僕は聞き返した。

「一日の予定じゃなかった?」

「予定はな」

ダルガンは自分の馬の首を撫でた。

「馬も人も疲れてる。ここから先でへばるより安い」

ファルハドが言った。

「俺は賛成」

「聞いてない」

「でも賛成」

空気も変わっていた。

山を越えている間に、秋がずいぶん進んだ気がする。

朝晩はもう寒い。

山の上では、冬がすぐそこまで来ていた。

タラートでも、冬支度を始めている店が目についた。

僕たちは宿を取った。

その日は、何もしなかった。

本当に何もしなかった。

馬を預けて、身体を洗って、飯を食べた。

そして寝た。

---

翌日、ダルガンは市場へ出ていった。

僕も行こうとしたら、

「寝てろ」

と言われた。

「もう元気だよ」

「寝てろ」

「ファルハドは?」

「寝てろ」

ファルハドも追い返された。

ナディラだけは笑っていた。

「今日は言うこと聞きましょう」

結局、二日目もほとんど休んだ。

ダルガンが戻ってきたのは夕方だった。

「ラクダを買う」

開口一番、それだった。

「ラクダ?」

「ここからはパルキアだ。ラクダの方が使いやすい」

ファルハドが聞いた。

「何を積むんだ?」

「ラクダを買う」

「だから、ラクダに何を積むんだ?」

「明日買う」

「何を?」

ダルガンはナディラを見た。

「金属器」

ナディラが少し考えた。

「この辺のものを?」

「ああ。ヴァルダーン領までなら近い。向こうで売れる」

「宝石じゃないの?」

僕が聞いた。

「今回は金属器の方がいい」

ナディラが説明してくれた。

「鍋や器、金具、装飾品。嵩はあるけど、ここからなら遠くないもの」

「儲かる?」

「大儲けはしないわね」

ダルガンが言った。

「それでいい」

僕は少し分かってきた。

僕たちはヴァルダーン公爵に会いに行く。

でも、道を歩いている間は商人でもある。

商人の格好をするために商品を持つのではない。

本当に買って、本当に売る。

その方が怪しまれないし、旅の金も減らない。

「じゃあ明日は買い物?」

「お前とファルハドは休み」

「また?」

「三日休めと言っただろ」

ダルガンはナディラに言った。

「三日目、頼めるか」

「いいわよ」

「俺はラクダを見る」

役割が決まった。

---

三日目。

ナディラは市場へ出た。

ダルガンも別の方向へ行った。

僕とファルハドは宿に残された。

「暇だな」

ファルハドが言った。

「休めって言われたから」

「身体はもう休んだ」

「じゃあ料理でもしてれば?」

「宿で料理長やったら怒られるだろ」

夕方になると、二人とも戻ってきた。

ナディラは金属器を買っていた。

日用品だけではない。

細工の入った器や、小さな装飾金具もある。

ダルガンはラクダを連れてきた。

「何頭?」

僕が聞いた。

「三頭」

「三頭だけ?」

「今回はな」

三頭なら、僕たちだけでも扱える。

商品を積む。

食料も分ける。

それぞれの馬は残した。

ダルガンが先頭。

その後ろに僕たちと馬。

ラクダ三頭には金属器を積んだ。

小さなキャラバンだった。

でも、ハルザーンを出たときとは違う。

今度は本当に商品がある。

「商人に戻ったな」

ファルハドが言った。

ダルガンが振り返った。

「俺は最初から商人だ」

「俺は?」

「料理長」

「やっと認めたな」

「解体屋のな」

「余計なもん足すなよ」

タラートを出た。

---

ヴァルダーン公爵領へ入る道には、憲兵がいた。

僕は少し緊張した。

ところが僕たちの番になると、荷をざっと見られただけだった。

「タラートから?」

ダルガンが答えた。

「ああ」

「金属器か」

「そうだ」

「通れ」

それだけだった。

僕は拍子抜けした。

少し進んでから振り返る。

僕たちの後ろに、一人旅の男がいた。

その人は止められている。

「名は?」

「どこから来た?」

「何の用だ?」

僕たちより細かく聞かれていた。

「僕たちはいいの?」

小声で聞いた。

ナディラが答えた。

「四人で、馬とラクダを連れて、タラートの商品を積んでるでしょう」

「商人にしか見えない?」

「少なくとも、一人で何も持たずに来る人より説明しやすいわ」

国境を閉じているわけではない。

でも、誰でも同じように通すわけでもない。

ダルガンたちが聞いてきた話の意味が、少し分かった。

---

まず市場へ行った。

宿より先だった。

「城に行かないの?」

僕が聞くと、ダルガンが言った。

「商品積んだまま公爵に会いに行く馬鹿がいるか」

荷を預ける。

売却は後でもいい。

馬とラクダも預けた。

身軽になってから、僕たちは町の奥へ向かった。

そこから、城が見えた。

山に挟まれた高い場所にある。

「カンチャーン城だ」

僕が言った。

ファルハドが顔を上げた。

「カンチャーンってなんだ?」

「カンはアンゴル人の言葉で王」

「うん」

「チャーンはパルキア人の言葉で王」

ファルハドが僕を見た。

「王王?」

「たぶん」

「なんで二回言ったんだよ」

「僕に聞かれても知らないよ」

「でも詳しいな」

「こういうのは勉強したから」

「よく分かんねえけど、詳しいな」

褒められているのか分からなかった。

城が近づく。

僕はだんだん喋らなくなった。

ヴァルダーン公爵。

父上の古い友人。

兄上の時代にも、西を治め続けた人。

そして今、生きている人。

兄上に聞く前に、僕はこの人に聞くと決めた。

---

カンチャーン城の門前に着いた。

門兵が僕たちを見る。

ダルガンが前へ出るのかと思った。

でも僕は、その前に歩いた。

「誰だ?」

門兵が聞いた。

僕は答えた。

「カルバーブ王弟、アシャンです」

門兵の顔が止まった。

もう一人がこちらを見る。

僕は続けた。

「ヴァルダーン公爵に会いに来ました。通してください」

誰も動かなかった。

「……何?」

「王弟アシャンです」

「アシャン殿下は――」

そこで言葉が止まった。

死んだ。

そう言おうとしたのだと思う。

奥から別の兵が来た。

話を聞く。

僕を見る。

また奥へ走っていく。

急に門の周りが騒がしくなった。

「お前」

ダルガンが後ろから小さな声で言った。

「もう少しやり方なかったのか」

「これが一番早いと思って」

「早いのは間違いない」

門兵たちは僕たちを通さなかった。

でも追い返しもしなかった。

僕たちは門の外で待たされた。

「本当にこれでいいのか?」

ファルハドが聞いた。

「分からない」

「分からないのかよ」

「王弟ですって城門で名乗ったの、僕も初めてだから」

「そりゃそうか」

そのときだった。

城の奥が騒がしくなった。

人が来る。

何人もの家臣がいた。

その真ん中に、一人の老人がいた。

僕の記憶より、小さかった。

いや。

痩せたのだ。

杖をついていた。

歩くのも速くない。

それなのに周りの人たちが止めるのを振り切るように、こちらへ来ていた。

僕はすぐに分かった。

「ヴァルダーン公……」

老人が止まった。

僕を見る。

ずっと見る。

僕も何を言えばいいのか分からなかった。

公爵の顔が歪んだ。

涙が落ちた。

一滴ではなかった。

老人は杖を握ったまま、泣いていた。

門兵たちも黙っている。

ダルガンも。

ナディラも。

ファルハドさえ何も言わなかった。

「……公爵?」

僕が呼んだ。

ヴァルダーン公爵は、ようやく口を開いた。

「殿下」

声が震えていた。

「立派になられましたな」

それだけだった。

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