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星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
本の外へ
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ナーヴァンへ急行

ダルガンは、ファルハドを上から下まで見た。

ファルハドも、ダルガンを上から下まで見た。

二人とも大きかった。

ただ、種類が違った。

ファルハドは石を運ぶために大きくなったような体をしている。

ダルガンはもっと細い。

それでも、立っているだけで妙に隙がなかった。

「こいつか?」

ダルガンが僕に聞いた。

「ファルハド」

「解体屋だ」

ファルハドが自分で言った。

「それと二号」

ナディラが首を傾げた。

「二号?」

「説明すると長い」

僕が言った。

「俺もよく分からん」

「自分で言ったのに?」

「一号、黙ってろ」

ダルガンは僕とファルハドを交互に見た。

「何の話だ」

「あとで話す」

「嫌な予感しかしねえな」

その予感はたぶん正しかった。

僕たちはナディラの兄の店の裏で、旅支度を広げていた。

最初、僕はファルハドも一緒に行くと言えば、ダルガンが嫌がると思っていた。

でも、そうでもなかった。

「馬には乗れるか」

「乗れる」

「どのくらい」

「普通に」

「山は?」

ファルハドが少し黙った。

「……たぶん」

ダルガンも黙った。

「自分の馬だけ見ろ」

「それでいい」

「荷馬は触るな」

「なんでだよ。力ならあるぞ」

「お前の力の話じゃない」

ファルハドが僕を見た。

「こいつ、ずっとこうなのか?」

「だいたい」

「そうか」

納得するのが早かった。

ダルガンは今度は僕を見た。

「お前は一頭持て」

「荷馬?」

「ああ」

僕は少し驚いた。

「いいの?」

「何がだ」

「僕が持って」

「今さら何言ってんだ」

それだけ言って、ダルガンは次の荷物を確認し始めた。

僕は少し嬉しかった。

言わなかった。

ナディラが僕を見て笑っていたので、たぶん顔には出ていた。

荷馬は二頭だった。

一頭をナディラ。

もう一頭を僕が受け持つ。

ダルガンが先頭。

ファルハドは自分の馬だけ。

六頭。

四人。

小さな隊だった。

「商品は?」

僕が聞いた。

「ない」

ダルガンが言った。

「何も?」

「何も」

「商人なのに?」

「今回は儲けに行くんじゃない」

ナディラが荷物を指で数えていた。

食料。

水袋。

薬。

防寒具。

野営具。

馬の道具。

飼料。

調理道具。

ファルハドの工具は、本人がずいぶん減らしたらしい。

それでも重そうだった。

「これは?」

ダルガンが鉄の道具を持ち上げた。

「要る」

「何に」

「分からん」

「置いてけ」

「待て。これは要る」

「さっき分からんって言っただろ」

「建物があれば要る」

「山を越えるんだぞ」

「山にも建物くらいあるだろ」

結局、置いていった。

ファルハドは最後まで名残惜しそうだった。

僕も自分の荷物を減らした。

本を二冊入れようとして、一冊にされた。

「一冊はいいの?」

僕が聞くと、ダルガンは嫌そうな顔をした。

「全部置いていけって言ったら、お前がうるさいだろ」

「うん」

「だから一冊」

三か月前なら、何冊持っていこうか悩んだと思う。

今回は一冊でよかった。

---

金についても話した。

僕は持っていた金を出した。

「これ、使って」

ダルガンが受け取った。

普通に受け取った。

「……遠慮しないんだ」

「なんで俺がお前の金に遠慮するんだ」

「王子だよ」

「知ってる」

「もう少し何かないの?」

「王子だろうが何だろうが、旅には金が要る」

ナディラが金額を確認した。

「全部は使わないわよ」

「うん」

「あなたの分として帳面につけておく」

「僕の分?」

「そう」

ダルガンが言った。

「馬の世話もする。荷も持つ。帳面も書ける。働いた分はお前の取り分だ」

「僕も商人なの?」

「まだ違う」

「まだ?」

「まず働け」

厳しかった。

ファルハドが横から言った。

「俺は?」

「飯を作れるって聞いた」

「作れる」

「荷も運べる」

「運べる」

「じゃあ働け」

「雑だな」

「四人しかいねえからな」

ファルハドは少し考えてから、胸を張った。

「じゃあ俺がこの小さなキャラバンの料理長になる」

「四人しかいないよ」

「だから俺が料理長だ」

「部下は?」

「いない」

「それ、料理当番じゃない?」

「料理長だ」

ナディラが帳面から顔を上げた。

「食料の管理は私がするわよ」

「料理長なのに?」

「あなたに財布まで渡すとは言ってないわ」

「料理長の権限が弱い」

まだ出発していないのに、少し心配になった。

---

サルマンドを出たのは朝だった。

大図書館の塔が遠くなっていった。

僕は何度か振り返った。

三か月いた。

最初に来たときは、一枚の金貨を払うだけでも緊張した。

宝石屋で働いた。

石を運んだ。

馬にも乗った。

古い壁を見つけた。

アルダーンについて読んだ。

星環について調べた。

死者の記憶かもしれないものを見た。

それでも、兄上のことは分からなかった。

「まだ見るのか」

前からダルガンの声がした。

「もう見ない」

僕は前を向いた。

道は東へ続いていた。

まずナーヴァン。

そこからハルザーン。

その先はタラート。

さらに西へ進めば、ヴァルダーン公爵領。

地図で見れば線だった。

実際に進むと、一日ではほとんど動かない。

本とは違った。

---

最初の二日は、ファルハドが意外なくらい普通だった。

馬にも乗れた。

落ちなかった。

朝も起きた。

「なんで驚いてんだ」

「もっと大変かと思ってた」

「俺だって旅くらいしたことある」

「山も?」

「山は知らん」

そこだけは正直だった。

料理も本当にできた。

最初の夜、ファルハドは残った平焼きパンをちぎり、干し肉と豆を煮た鍋へ入れた。

「昨日のパンだよ」

僕が言った。

「だから入れてんだ」

「硬いよ」

「だから煮るんだよ」

食べてみた。

柔らかかった。

「おいしい」

「だろ」

「食堂で何してたの?」

「皿洗い」

「料理人じゃないじゃん」

「玉ねぎも切った」

「急に弱くなったね」

「薪も割った」

「もっと弱くなった」

ファルハドが僕の皿から肉を一つ取った。

「あっ」

「料理長権限だ」

「そんな権限ないよ」

ナディラが言った。

「ないわね」

ファルハドは肉を返した。

ダルガンだけは黙って食べていた。

「どうだ?」

ファルハドが聞いた。

「食える」

「褒めろよ」

「明日も作れ」

ファルハドは少し嬉しそうだった。

---

急いではいた。

でも、ダルガンは馬を急がせ続けなかった。

朝は早い。

昼の暑い時間には休ませる。

水場では必ず止まる。

蹄を見る。

荷を締め直す。

僕の荷馬も毎日見られた。

「擦れてる」

ある朝、ダルガンが言った。

「どこ?」

「ここ」

荷を外してみると、毛が少し乱れていた。

僕には分からなかった。

「痛いの?」

「このままならな」

「どうする?」

「荷をずらす」

それだけだった。

でも、それから僕は毎朝そこを見るようになった。

ファルハドが横で見ていた。

「細けえな」

「お前も見ろ」

「俺の馬?」

「他に誰の馬がいる」

ファルハドは自分の馬を見た。

「元気そうだぞ」

「そういう見方してるうちは荷馬は持たせん」

「厳しいな」

「山で荷馬に倒れられる方が面倒だ」

ダルガンは先へ行った。

ファルハドが僕に小声で聞いた。

「どこ見ればいい?」

僕は少し得意になった。

「まず背中」

「お前が教えるのかよ」

「僕は荷馬任されてるからね」

「偉くなったな、坊主」

その日は少し気分がよかった。

---

ナーヴァンが近づくにつれて、山が大きくなった。

サルマンドからも遠くに山は見えた。

でも、見えるのと、その中へ入っていくのは違った。

道の先を山が塞いでいる。

その向こうに、さらに山がある。

ダルガンは空を見る回数が増えた。

「寒くなる?」

僕が聞いた。

「なる」

「どのくらい?」

「お前が思ってるより」

「それじゃ分からないよ」

「だから服を買っただろ」

ナディラが笑った。

ファルハドは山を見上げた。

「俺、あれ越えるのか?」

「全部じゃない」

ダルガンが言った。

「よかった」

「もっと南を回る」

「それなら――」

「それでも高いところはある」

ファルハドが黙った。

「大丈夫?」

僕が聞いた。

「たぶん」

また言った。

---

ナーヴァンへ着いたのは、午後だった。

山へ向かう道が集まる町だった。

馬。

荷車。

商人。

郵便の騎手。

山から下りてきたらしい人たち。

サルマンドとは匂いまで違った。

ダルガンは宿へ向かわなかった。

まず馬を見た。

次に水と食料。

そのあと防寒具。

「泊まらないの?」

僕が聞いた。

「まだ分からん」

「もう午後だよ」

「だから聞く」

何を、と聞く前に、ダルガンは街道脇にいた男へ声をかけた。

「ハルザーン行きは?」

男は山の方を指した。

「さっき出たぞ」

「どのくらい前だ」

「半刻も経ってないんじゃないか」

ダルガンが道を見た。

僕も見た。

当然、もう姿は見えない。

「次は?」

「明日だな。なけりゃ明後日」

僕はダルガンを見た。

ダルガンはナディラを見た。

ナディラは空を見た。

「今日なら、まだ行けるわね」

「行く」

決まるのが早かった。

ファルハドが驚いた。

「泊まらねえの?」

「先に行った連中に追いつく」

ダルガンが言った。

「追いつけるのか?」

「向こうは荷を積んでる」

ダルガンは僕たちの馬を見た。

「こっちは軽い」

確かに、僕たちは商品を持っていなかった。

必要なものしか積んでいない。

「案内人は?」

僕が聞いた。

「ハルザーンまではいらん」

「道、知ってるの?」

「知ってる」

「今の道も?」

ダルガンが僕を見た。

少し考えた。

「だから前の連中に追いつく」

なるほど。

知っているから一人で何でもできる、とは言わなかった。

そこがダルガンだった。

水を足した。

食料を少し買った。

馬にも水を飲ませた。

荷を締め直した。

それだけだった。

ナーヴァンへ着いてから、まだそれほど経っていない。

「行くぞ」

ダルガンが馬に乗った。

ナディラが続く。

僕も荷馬の手綱を持った。

最後にファルハドが乗る。

「なあ」

「何?」

「急行って、着いた町で休まねえって意味なのか?」

「僕に聞かないでよ」

前からダルガンが言った。

「喋ってる暇があるなら来い」

「料理長への扱いが雑だな!」

僕たちは、着いたばかりのナーヴァンを出た。

山へ向かう道のずっと先に、小さな土煙が見えた。

先に出た一行だった。

ダルガンが少しだけ笑った。

「見えた」

僕たちは、その背中を追った。

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