相場
途中の町で、ナディラは宝石屋へ入った。
僕もついていった。
ダルガンたちは外で待った。
もう驚かなかった。
ナディラはどこの町でも同じことをした。
赤い石を見る。
青い石を見る。
値段を聞く。
ひっくり返す。
光に透かす。
戻す。
買うこともある。
買わないことの方が多い。
その日は、一つも買わなかった。
店を出てから僕は聞いた。
「なかったの?」
「あるわよ」
「じゃあ、なんで買わないの?」
「高いから」
次の町でも買わなかった。
その次でも買わなかった。
「また高い?」
「また高い」
ナディラは少し機嫌が悪そうだった。
僕は自分の青い石を思い出した。
「僕のは?」
「何?」
「高くなった?」
「たぶんね」
「じゃあ、もっと買おうよ」
ナディラが僕を見た。
「どうして?」
「もっと高くなるんでしょう?」
「なるかもしれない」
「じゃあ――」
「もう高いのよ」
僕にはよく分からなかった。
「高くなるものを買うんじゃないの?」
「安いと思ったものを買うの」
「同じじゃない?」
「違うわ」
違うらしい。
宿へ戻る途中、ナディラはもう一軒だけ店を覗いた。
値段を聞いた。
何も買わなかった。
「早いわね」
店を出たところで、ナディラが言った。
「何が?」
「上がるのが」
メルヴァーンを出るとき、ナディラはカルバーブから石が来にくくなれば、サルマンドでは値段が上がるかもしれないと言っていた。
でも、まだサルマンドには着いていない。
それなのに途中の町でも上がり始めている。
「ナディラの予想が当たったんじゃないの?」
「それにしては早いのよ」
「じゃあ、外れた?」
「上がってるでしょう」
「じゃあ当たった」
「そう簡単じゃないの」
宝石商は難しい。
その夜、隊商宿でハミドさんが妙な話を拾ってきた。
「東から来た連中が言ってたぞ」
火のそばで、みんなが食事をしていた。
僕はパンをちぎりながら聞いた。
「何を?」
「少し前、サルマンドにとんでもない隊商が来たらしい」
「どのくらい?」
「知らん」
「八人より大きい?」
ハミドさんが笑った。
「比べるな」
「じゃあ二十人?」
「だから知らん。ただ、そいつはこう言ってた」
ハミドさんは羊肉を口に入れた。
噛んで、飲み込む。
「街が来たみたいだった、ってな」
「街?」
「そう言ってた」
僕はダルガンを見た。
「街って歩く?」
「歩かねえ」
「じゃあ嘘?」
「たとえだ」
それは分かる。
たぶん。
「どこから来たの?」
ナディラが聞いた。
「トゥランらしい」
ナディラの手が止まった。
「何を運んできたの?」
「そこまでは聞いてない」
「何を買ったかは?」
「知らん」
ナディラは少し考えた。
それから、また食べ始めた。
「明日から、石は買わないわ」
僕は驚いた。
「なんで?」
「分からないから」
「でも高くなってるよ」
「だからよ」
僕にはまだ分からない。
ナディラは僕の顔を見て笑った。
「いちばん高いところで売って、いちばん安いところで買える人なんていないの」
「でも、できたらすごいよね」
「できたらね」
翌日も僕たちは東へ進んだ。
乾いた高地を越えた。
石だらけの土地を通った。
水場では木陰で休んだ。
街道はさらに太くなった。
別の道が合流するたびに、人と馬とラクダが増えた。
そして午後。
僕は道の脇に水が流れているのを見つけた。
細い水路だった。
その先に畑がある。
もう少し進むと、また水路があった。
さらに先にもあった。
木も増えた。
「緑が増えたね」
「水があるからな」
ダルガンが言った。
「サルマンド?」
「まだだ」
「じゃあ、あの畑は?」
「サルマンドに食わせる畑だ」
僕は前を見た。
畑の向こうにも道があった。
その道にも隊商がいた。
もっと向こうにも、別の道があった。
みんな同じ方へ進んでいる。
まだ王都は見えない。
でも、サルマンドの外側には、もう入っているような気がした。




