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星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
隊商の道
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28/65

八人

「荷だけない」

ハミドさんはそう言って、自分たちの馬を見た。

五人。

馬も五頭以上いる。

旅の道具もある。

でも、商人なのに運ぶものがほとんどない。

僕には、それがずいぶんもったいなく見えた。

隣では、ダルガンが少し笑っていた。

「で、どこまで行く」

いきなり聞いた。

ハミドさんも笑った。

「お前、相変わらず話が早いな」

「荷がない奴と世間話してどうする」

「ひどい言い方だ」

「どこまでだ」

「サルマーン」

僕はダルガンを見た。

ダルガンはナディラを見た。

ナディラはハミドさんたちの馬を見た。

誰も驚かなかった。

「僕たちもサルマーンだよ」

僕が言った。

「だろうな」

ハミドさんが答えた。

「そっちの荷を見りゃ分かる」

「分かるの?」

「ナーヴァンの絨毯を積んで、東へ来てるんだ。メルヴァーンで全部売るんじゃなきゃ、その先だろ」

そういうものらしい。

僕は十三枚の絨毯を見た。

僕には絨毯にしか見えない。

商人が見ると、行き先まで見えるらしい。

「で」

ダルガンが言った。

「何が欲しい」

ハミドさんが笑った。

「仕事」

「やっぱりか」

「北門で時間を食った。仕入れもろくにできなかった。ここから空荷で帰ったら、旅しただけだ」

「旅は楽しいよ」

僕が言うと、ハミドさんが笑った。

「坊主はいいこと言うな」

「金にならねえ旅は商人には仕事じゃねえ」

ダルガンが言った。

「お前は黙って食い歩いてろ」

「今日はもう食べたよ」

「そういう意味じゃねえ」

ナディラが五人を見た。

「自分の馬は?」

「ある」

「飼葉は?」

「こっち持ち」

「道中の宿は?」

「自分たちで払う」

「サルマーンまで?」

「ああ」

「荷を見る?」

ハミドさんは少し考えた。

「物による」

ナディラも笑った。

「そう言うと思った」

「宝石百箱なら断る」

「そんなに持ってたら、私だって断るわよ」

僕はナディラを見た。

「宝石って百箱もあるの?」

「例えよ」

「そもそも百箱積んだら目立ちすぎる」

ダルガンが言った。

「そういうもんなの?」

「そういうもんだ」

話が戻った。

ハミドさんたちは、ただ一緒に歩きたいわけではなかった。

自分たちの馬でサルマーンへ向かう。

その途中で、僕たちの荷も見る。

夜番もする。

町では積み下ろしを手伝う。

何かあれば人手になる。

その代わり、ダルガンとナディラが護衛と荷役の分の金を払う。

「護衛?」

僕は五人を見た。

剣は持っている。

でも、騎士には見えない。

「この人たち、強いの?」

「普通」

ダルガンが答えた。

ハミドさんが嫌な顔をした。

「もう少し言い方があるだろ」

「五人で軍隊と戦えるか?」

「逃げる」

「盗賊二人なら?」

「追い払う」

「十人なら?」

「荷を捨てる準備をする」

「ほら、普通だ」

僕は納得した。

「普通だね」

「坊主まで納得するな」

でも、それでいいらしい。

ダルガンが言った。

「隊商で必要なのは、戦争する奴じゃねえ」

「じゃあ何するの?」

「見張る。気づく。声を出す。荷を守る。危なきゃ逃げる」

ハミドさんが頷いた。

「それと、寝る」

「寝るの?」

「交代でな。八人いれば、ちゃんと寝られる」

それは分かった。

三人のときは、野営するといつも誰かが起きていた。

僕も番をすると言ったことがある。

最初のころは断られた。

最近は少しだけやらせてもらえる。

でも僕が一人で全部を任されたことはない。

八人なら。

夜がずいぶん楽になるのかもしれない。

「八人か」

口に出した。

「そうなるわね」

ナディラが言った。

三人だった。

僕とダルガンとナディラ。

そこへ五人。

八人。

急に多く感じる。

「大きな隊商だ」

僕が言うと。

全員が黙った。

「……違うの?」

ハミドさんが吹き出した。

「かわいいな」

「何が?」

「サルマーンへ行けば分かる」

ダルガンも笑っている。

「八人なんて小さい方だ」

「でも三人より多いよ」

「そりゃそうだ」

「じゃあ僕にとっては大きい」

誰も反論しなかった。

ナディラが話を戻した。

「料金を決めましょう」

そこから先は長かった。

僕はすぐ終わると思っていた。

一緒に行く。

荷物を見る。

お金を払う。

それだけだ。

全然違った。

何日分なのか。

町に滞在している日はどうするのか。

夜番は仕事に入るのか。

積み下ろしはどこまでやるのか。

馬が怪我をしたら誰が払うのか。

荷が壊れたら。

盗まれたら。

道が閉じたら。

予定より日数が延びたら。

途中で別れることになったら。

「そんなことまで決めるの?」

僕が聞いた。

ナディラが僕を見た。

「決めてないところで揉めるのよ」

「決めたところでは?」

「決めた通りにするの」

簡単だった。

ハミドさんも慣れている。

ナディラが条件を出す。

ハミドさんが変える。

ダルガンが口を挟む。

また変える。

残りの四人も、ときどき何か言った。

僕は途中から分からなくなった。

「まだ?」

「まだ」

「長いね」

「お金の話は長くていいのよ」

やっと決まった。

ナディラが紙を出した。

「書くの?」

「書くわよ」

「知り合いなのに?」

今度はハミドさんが笑った。

「知り合いだから書くんだ」

「どうして?」

「あとで嫌いにならないためだ」

それは、少し分かった。

ナディラが条件を書いていく。

ハミドさんが読む。

ほかの四人も確認する。

最後に印をつけた。

僕も横から読んだ。

読める。

でも、こういう文書を自分で作れと言われたら、たぶん作れない。

僕が神官として習った文書とは違った。

誓いでもない。

儀礼でもない。

ただ、人と人が一緒に仕事をするための約束だった。

「これで?」

僕が聞いた。

ナディラが紙を畳んだ。

「契約成立」

「じゃあ八人?」

「まだだ」

ダルガンが言った。

「まだ何かあるの?」

「ラクダ買うぞ」

そうだった。

僕たちは市場へ向かった。

ハミドさんたちもついてきた。

さっきまで三人だったのに、後ろから五人分の足音がする。

変な感じだった。

家畜市場には馬もいた。

牛もいた。

そしてラクダがいた。

たくさんいた。

座っているもの。

立っているもの。

鳴いているもの。

ものすごく機嫌の悪そうな顔をしているもの。

「ラクダって、みんな怒ってるみたいな顔するね」

「偏見だ」

ダルガンが言った。

「じゃあ、あれは?」

一頭がこちらを見ていた。

明らかに機嫌が悪そうだった。

「……あれは怒ってる」

近づかなかった。

ダルガンは一頭ずつ見た。

歯。

脚。

蹄。

背。

荷を載せるところ。

歩かせる。

止める。

また歩かせる。

僕には全部同じラクダに見えた。

「これは?」

「いらん」

「なんで?」

「右前」

見ても分からない。

別のラクダ。

「これは?」

「悪くない」

「何が違うの?」

「歩き方」

また分からない。

ハミドさんが僕の横に来た。

「諦めろ」

「ハミドさんは分かる?」

「少し」

「ダルガンは?」

「気持ち悪いくらい分かる」

本人に聞こえた。

「誰が気持ち悪い」

「褒めてるんだよ」

何頭かを見て。

値段を聞いて。

また戻って。

別の店へ行って。

また最初の店へ戻った。

「さっきのでいいじゃん」

「よくねえ」

「何が?」

「値段」

僕はもう黙った。

ナディラはその間、ラクダをほとんど見ていなかった。

人を見ていた。

荷を見ていた。

市場の奥に並ぶ店を見ていた。

ときどき誰かと話す。

値段を聞く。

産地を聞く。

また別の人と話す。

「ナディラはラクダ選ばないの?」

「選ばないわよ」

「分からない?」

「分からないものはダルガンに任せるの」

「ダルガンは商品を選ばないの?」

「物による」

二人とも何でもできるわけじゃない。

できる方がやる。

それだけだった。

やがてダルガンが決めた。

ラクダが加わった。

僕たちの荷馬もいる。

ハミドさんたちは自分の馬を持っている。

厩へ戻るころには、朝よりずっと人数も動物も増えていた。

僕は門のところで立ち止まった。

数える。

「一、二、三……」

「何数えてんだ?」

「人」

「見りゃ分かるだろ」

「確認」

僕。

ダルガン。

ナディラ。

ハミドさん。

それから四人。

八人。

本当に八人だった。

「よし」

「何がよしなんだ」

「八人いる」

「そりゃいるだろ」

僕は少し嬉しかった。

理由はよく分からない。

三人の旅が嫌だったわけではない。

むしろ好きだった。

でも、ナーヴァンを出たときより。

何かが始まっている感じがした。

逃げるために集まった人たちではない。

一緒にサルマーンへ行くために集まった。

その日の夕方。

ナディラが宿の部屋へ戻ってきた。

何枚かの紙を持っていた。

市場で書き留めた値段らしい。

床に広げる。

僕も覗き込んだ。

「何買うか決まった?」

「だいたいね」

「何?」

ナディラは一枚を指で叩いた。

「カルバーブのもの」

僕は顔を上げた。

「カルバーブ?」

「ええ」

少しだけ笑った。

「ルビーとサファイア」

ダルガンが壁にもたれた。

「高いぞ」

「今はね」

「もっと上がると思ってんのか」

「分からない」

ナディラはすぐに答えた。

「でも、北門であれだけ荷を止めてる。東門も厳しい。これからカルバーブの品が外へ出にくくなるなら――」

紙を指で弾いた。

「今の値段が、あとで安かったことになるかもしれない」

「外れたら?」

僕が聞いた。

ナディラは僕を見た。

「損するわ」

あっさりしていた。

「いいの?」

「よくはないわよ」

「じゃあ、どうして買うの?」

「商売だから」

ダルガンが笑った。

「図書館代、稼ぐんだろ」

僕は紙の上の数字を見た。

急に大図書館が遠くなった気がした。

「……ちゃんと選んでね」

ナディラが眉を上げた。

「誰に言ってるの?」

「ごめんなさい」

すぐ謝った。

ダルガンが笑った。

外から声がした。

ハミドさんたちだった。

厩で馬を見ているらしい。

五人の声がする。

僕たち三人。

合わせて八人。

その八人で。

今度は、サルマーンへ行く。

僕はもう一度、床の紙を見た。

赤い宝石。

青い宝石。

まだ買ってもいないのに。

それが大図書館へ続く道に見えた。

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