↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
隊商の道
PR
24/65

東口

山を下りるにつれて、道は少しずつ広くなっていった。

最初は馬が一頭通るだけでいっぱいだった道が、いつの間にか二頭並べるようになっている。

人ともすれ違うようになった。

荷を背負った人。

馬を引いた人。

大きな袋をいくつも積んだ荷馬。

僕たちとは反対に、これから山へ登っていくらしい旅人もいた。

そして、道の向こうに建物が見えてきた。

一軒ではない。

何十軒もある。

「町?」

僕が聞くと、バフラムさんが頷いた。

「ナーヴァン」

「ナーヴァン?」

「町の名前だよ」

バフラムさんは前を指した。

「天空騎士団ナーヴァン東口基地。俺たちがずっと東口って呼んでたのは、ここだ」

僕は前を見た。

「ここが東口なんだ」

「そういうこと」

ハルザーンから山を越えて、ずっと目指してきた東口。

てっきり門でもあるのかと思っていた。

でも、そこにあったのは町だった。

山へ続く道の入口には石造りの建物が並び、その少し上には壁と塔も見える。

けれど、近づいて最初に目についたのは塔ではなかった。

洗濯物だった。

家と家の間に縄が渡され、服や布が風に揺れている。

その下を郵便袋を積んだ馬が歩いていた。

馬糞の匂いもした。

宿屋がある。

食堂がある。

馬屋がある。

鍛冶屋がある。

倉庫も並んでいる。

荷を下ろしている人がいて、その横では子供が走り回っていた。

「……騎士団の基地なんだよね?」

「そうだよ」

「普通の町みたい」

バフラムさんが笑った。

「人が暮らしてるからね」

僕が想像していた騎士団とは、やっぱり何かが違う。

もっとこう、鎧を着た人がずらっと並んでいるものだと思っていた。

もちろん、武器を持った人もいる。

坂の上にはちゃんと砦らしいものもある。

でも、それより多いのは、荷物を運んだり、馬を洗ったり、帳面を持って走ったりしている人だった。

ダルガンはそんな僕を見て言った。

「まだ騎士を探してんのか」

「だって天空騎士団だよ」

「郵便屋だったろ」

バフラムさんが振り返った。

「聞こえてるぞ」

僕たちはまず、東口基地の郵便所へ向かった。

そこも、思っていたより普通だった。

人が並んでいる。

手紙を渡す人。

荷物を量ってもらっている人。

お金を預けているらしい商人もいる。

奥では大きな郵便袋が次々と運ばれていた。

バフラムさんは背負っていた袋を下ろした。

「ハルザーン便、戻りました」

受け取った人が中身を確認する。

これで終わりかと思った。

終わらなかった。

「沢が一つ崩れてる」

バフラムさんが言った。

係の人が帳面を開いた。

「場所は?」

バフラムさんが説明する。

「馬は通さない方がいい。人だけなら行けると思うけど、しばらく北回りにした方がいい」

係の人が書き留めた。

「北回りは?」

「問題なし。水場も使える。鐘も全部確認した」

次々と書かれていく。

僕は横で聞いていた。

郵便を運んできただけじゃなかったんだ。

「旅客は?」

「三人」

バフラムさんが僕たちを指した。

「馬三頭。全員無事」

僕は自分を指さした。

「僕たちも報告するの?」

「するよ」

「どうして?」

「無事だったから」

「それだけ?」

「それが一番大事だからね」

バフラムさんは笑った。

係の人も、ちゃんとそれを書いた。

旅客三人。

馬三頭。

全員無事。

山を越えたことが、帳面の一行になった。

僕にとっては、ものすごく長い旅だったのに。

それからバフラムさんは何かに署名して、確認の印をもらった。

帳面が閉じられた。

「じゃ、終わり」

「何が?」

「仕事」

「これから?」

「風呂」

僕は少し待った。

本当に、それだけだった。

「もう案内しないの?」

「ここから先は街道だよ。俺の仕事は山」

バフラムさんは肩を回した。

「三日余計に歩いたからな。風呂入って、飯食って、寝る」

「そのあとは?」

「休み」

「そのあとは?」

「またハルザーン」

僕は山の方を振り返った。

「あそこ、また行くの?」

「行くよ」

「また戻ってくる?」

「戻ってくる」

「それをずっと?」

「三十年くらい」

やっぱり、よく分からない人だった。

僕にとっては、生まれて初めて越えた山だった。

雪を見た。

鐘を鳴らした。

山小屋で火を囲んだ。

道が崩れて、遠回りをした。

山の上からインドゥーラを見た。

たぶん、一生忘れない。

でもバフラムさんにとっては。

郵便を運んで。

人を連れて。

道を見て。

帰って報告する。

今日も、それだけだったらしい。

「じゃあな、代表」

バフラムさんが手を上げた。

「待って」

「なんだ?」

「結局、僕は何の代表だったの?」

「一同の代表」

「だから一同って誰なの?」

ダルガンが笑った。

ナディラも笑った。

バフラムさんは答えないまま、風呂のある方へ歩いていった。

「……最後まで教えてくれなかった」

「次に会ったら聞け」

ダルガンが言った。

「また会えるかな」

「道があるんだ。歩いてりゃそのうち会うだろ」

僕はもう一度、山を振り返った。

ずっと遠くまで来たような気がした。

それから前を見る。

ナーヴァンの通りには、人と馬と荷物が行き交っていた。

僕たちは東口へ着いた。

そしてここから先には、もうバフラムさんはいない。

三人で歩く旅が、また始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。