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星の降る道ⅰ 死者の星環  作者: 超魔王
山の向こうへ
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インチキババア

ハルザーン宿に、馬と荷物のほとんどを預けた。


山へ連れていくのはヴァルシャだけだった。


「三人なのに、一頭だけ?」


僕が聞くと、ダルガンはヴァルシャの腹帯を確かめながら答えた。


「三頭連れて山の婆さんの家へ行ったら目立つだろ」


「一頭なら?」


「薬を買いに来た旅人に見えるわ」


ナディラが答えた。


「それに、この子ならあなたも扱えるでしょう」


ヴァルシャが僕を見た。


たぶん、馬の中でも一番頼りない僕と、一番若いヴァルシャを組ませたのだ。


「よろしく」


鼻先を撫でると、ヴァルシャは僕の肩へ鼻を押しつけた。


山道はすぐに細くなった。


でも、道がなくなったわけではない。


石が敷かれた跡が残っている。


ところどころに古い道標もあった。


「昔はもっと人が通ったの?」


「ああ」


ダルガンが答えた。


「大王堰と新しい街道ができる前はな」


「父上が作った道のせいで、こっちが寂れたんだ」


「便利な道ができたら、みんな便利な方を使う。それだけだ」


しばらく歩くと、木々の向こうに一軒の家が現れた。


家の周りが妙だった。


畑はある。


けれど、野菜より草が多い。


細い葉。


丸い葉。


紫の花。


白い花。


軒下には、根や葉が束になって吊るされていた。


「薬草?」


「そうよ」


ナディラが少しうれしそうに言った。


「着いたわ」


庭で老婆が草をむしっていた。


こちらを見た。


「あらまあ!」


立ち上がった。


「まだ生きてたのかい!」


「久しぶりに会って最初にそれ?」


ナディラが笑った。


「ザフラ」


老婆はナディラを抱きしめ、それからダルガンを見た。


途端に顔が変わった。


「クソ息子も来たのか」


「誰が息子だ」


ダルガンは僕を振り返った。


「おい、アシャン」


「なに?」


「インチキババアだ」


「誰がインチキババアだ!」


山中に声が響いた。


鳥が一羽飛び立った。


「婆さんにはザフラっていう洒落た名前があるんだよ!」


「紹介してんだろ」


「人を紹介するなら名前を言いな!」


僕は頭を下げた。


「僕はアシャンです。よろしく、ザフラさん」


老婆は僕を上から下まで眺めた。


「さんなんぞいらん。ザフラ婆でいいよ」


それからダルガンを見る。


「で、この坊主はなんだい」


「いろいろあってな」


「お前の説明はいつもそれだね」


ダルガンは荷物から包みを出した。


「ほら」


「なんだい」


「土産」


ザフラが包みを開く。


青い石の首飾りだった。


北門へ向かう途中、ナディラが選んだものだ。


ザフラは急に静かになった。


日に透かして見る。


「……わしみたいな婆に、ずいぶん洒落たものを」


「ナディラに選んでもらった」


「だろうね。お前にこんなもの選べるわけがない」


「返せ」


「もらったものは返さないよ」


首飾りを握ったまま、ザフラが二人を見比べた。


「なんだ。結婚の報告か」


「違うわよ」


「まだしてないのかい」


今度は僕を見る。


「ああ」


何か納得した。


「結婚より先に子供作ったのか」


「違う!」


二人が同時に叫んだ。


「僕、十六歳です」


「ずいぶん大きな子供だね」


「だから違うって言ってるだろ」


家の中は、外以上に薬草だらけだった。


壺。


瓶。


小袋。


乾かした葉。


何だか分からない根。


壁際には大きな鍋まである。


僕は少し期待した。


「ザフラ婆って薬師なの?」


「違うね」


「違うの?」


ザフラは胸を張った。


「呪詛師だよ」


「婆さん」


ダルガンが言った。


「インチキが抜けてるぞ」


「うるさいね!」


僕は少し離れた。


「本当に呪うの?」


「もちろん」


「どうやって?」


「それは相手によるね」


「相手?」


「ザルカドの人間にカルバーブの祟りを売ってどうするんだい。生まれた土地、信じてる神、親父や爺さんが何やったか。それくらい調べてから呪うんだよ」


僕は感心した。


「呪いにも市場調査があるんだ」


「商売を舐めるんじゃないよ」


ダルガンが棚から薬袋を一つ取った。


「この婆さん、嘘つくために本当のことばっかり調べてんだ」


「嘘をつくならね」


ザフラが袋を取り返した。


「本当のことを百知って、一つ嘘を混ぜるんだよ」


「じゃあ、薬もインチキ?」


ザフラの顔が変わった。


「薬は本物だよ!」


「そこは怒るんだ」


「当たり前だ!」


「じゃあ、何がインチキなの?」


ザフラは黙った。


「……」


「ザフラ婆?」


「世の中にはね、知らない方が幸せなこともあるんだよ」


「ごまかした」


「うるさい坊主だね!」


そのときだった。


外でヴァルシャが鳴いた。


ザフラの顔から笑いが消えた。


窓へ近づく。


「どうした?」


ダルガンが聞いた。


「人だ」


「客?」


「わしの客は、あんな歩き方しないよ」


ナディラはもう立っていた。


「何人?」


「四人見える」


僕も窓へ寄ろうとした。


首根っこを掴まれた。


「坊主は見るんじゃない」


「なんで」


「顔を見られたくないんだろ」


そうだった。


ザフラが裏口を指した。


「山へ入りな」


「婆さんは?」


「ここはわしの家だよ」


ダルガンが少し迷った。


ザフラが怒鳴った。


「早く行け、クソ息子!」


僕たちは裏へ出た。


「そうだ!」


背後から声がした。


振り返る。


「なんですか?」


「坊主!」


ザフラが叫んだ。


「お前は三日前に来た!」


「今日だよ?」


「知ってるよ!」


意味が分からないまま、僕はダルガンに引っ張られて山へ入った。

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