水を遡る
商人たちと別れ、僕たちは再びダルシャン王堰に立った。
「じゃあな、ダルガン!」
「次はもう少しましな道で会おうぜ!」
「おう」
荷車の列が遠ざかっていった。
数日前にここへ来たとき、僕は父のことばかり考えていた。
今日は違った。
「東は厳しい」
ナディラが言った。
「南も」
ダルガンが続ける。
「北にはサラーフがいる」
僕が言った。
三人とも黙り込んだ。
「西は?」
「ヴァルダーン領だ」
ダルガンが答えた。
「今どうなっているかは分からねえ。サルマーンとは逆方向だ」
「では……」
行くべき道がなくなった。
そう思った。
ダルガンは王堰を見ていた。
いや。
堰ではなかった。
その向こう。
水が流れてくる方を見ていた。
「川を辿るぞ」
「川を?」
「上流へ行く」
「道があるの?」
「ある」
ナディラが答えた。
「正確には、かつてあった道、かしら」
「なくなったの?」
「なくなったわけではないわ。使う人が減ったの」
ダルガンが上流を指した。
「この堰ができる前は、川沿いの古い道がもっと使われていた。山仕事をする者や羊飼い、小さな荷を運ぶ商人なんかは、今でも通っている」
「ダルガンも通ったことがある?」
「ある」
「私も」
ナディラまで答えた。
「宝石のような小さな荷なら、大きな街道だけを使う必要はないもの」
「では、最初からそちらを通ればよかったのでは?」
二人が僕を見た。
「なぜ、わざわざ歩きにくい道を使うんだ?」
ダルガンに言われた。
「……確かに」
「道というのはな、古い方が優れているわけでも、面白い方がいいわけでもねえ。楽で安全なら、新しい道を使う」
「今日は?」
「新しい道が安全ではなくなった」
分かりやすかった。
ダルガンは水を見た。
「門を通るから面倒なんだ」
「だから川を?」
「ああ」
僕も上流を見た。
父が作った堰へ、水は山から流れてきている。
「水と逆だね」
「そりゃそうだ」
ダルガンは、もう歩き始めていた。
「俺たちは上へ行くんだからな」
僕たちは川を遡った。
道は少しずつ細くなっていった。
やがて、荷車とすれ違うこともなくなった。
そのうち、道端に立っていた新しい里程標も見かけなくなった。
それでも、道は残っていた。
古くても。




