もう一度、頼む
ダルシャン王堰を出る前に、ダルガンが僕に聞いた。
「それで、お前はどうしたい?」
「どうしたいって?」
「兄貴の仇を討ちたいのか?」
水門の向こうで、水が白く砕けていた。
僕はすぐには答えられなかった。
兄の仇を討つ。
叔父上と戦う。
国を取り戻す。
どれも、口に出してしまえば簡単そうだった。
でも、僕にはまだ、何が起きたのかさえ分からない。
「……分からない」
ダルガンは何も言わなかった。
「兄が宮殿に火をつけたっていうのも、僕には分からない。兄はあの日の昼まで普通に仕事をしてたんだ。報告を読んで、明日の予定の話もしてた」
あの夜の兄の顔を思い出そうとした。
うまく思い出せなかった。
「それに、僕まで死んだことになってる」
「それは間違いなく嘘ね」
ナディラが言った。
「うん。僕、生きてるから」
自分で言って、少し変な気分になった。
「なのに、まだ誰かを探してる。王宮から何かがなくなったって噂まである。アルダーンの印だとか、騎士団の印だとか、聞くたびに話が違うけど」
僕は二人を見た。
「このまま、兄がおかしくなって宮殿を焼きました、僕も死にました、で終わるのは嫌だ」
仇討ちをしたいのかは分からない。
王になりたいのかも分からない。
でも。
「何が起きたのか知りたい」
ダルガンが頷いた。
「なら?」
僕は姿勢を正した。
最初に頼んだときとは、もう事情が違う。
僕が何者なのか、二人は知っている。
それでも頼むなら、もう一度ちゃんと言うべきだと思った。
「ダルガン。ナディラ」
二人を見る。
「改めてお願いします。僕をサルマーンまで連れていってください。大図書館へ行きたい」
しばらく二人とも黙っていた。
先に口を開いたのはダルガンだった。
「何を今さら」
「え?」
「最初からそのつもりだ」
ナディラも笑った。
「途中で捨てるつもりなら、こんなところまで連れてきてないわ」
「……ありがとう」
「ただし」
ナディラが指を一本立てた。
「今までより面倒な旅になるわよ」
「分かってる」
ダルガンが僕を見た。
「本当に?」
「……たぶん」
「なら、まだ分かってねえな」
そう言って歩き出した。
僕もそのあとを追った。
堰では、何事もなかったように水が流れていた。
僕たちは、その水とは違う方角へ向かった。
サルマーンへ行くために。




