赤い戦鬼
「いいわ……やってやるわ、魔物共……皆殺しにしてやる!」
そう吐き捨てると、エルリンは魔物の群れへ向かって駆け出した。
「リュイ、ユーゴー……見てて!」
先程まで全身を支配していた疲労感が、嘘のように消えていた。
体が軽い。
まるで風そのものになったかのように、エルリンは戦場を駆け抜ける。
「ハァァァァッ!」
身体強化術を発動させる。
直後、近づいてきたゴブリンの集団に向けてロングソードを振るった。
一振りで四匹。
剣を切り返してさらに三匹。
身を沈め、横薙ぎに払い、二匹をまとめて串刺しにする。
次の群れへ踏み込む。
勢いを殺さず、身体ごと回転させながらロングソードを振り抜くと、五匹のゴブリンがまとめて真っ二つになった。
その動きは、もはや常人の目では追えなかった。
瞬間移動でもしているかのように、エルリンは戦場のあちこちに現れ、魔物を斬り裂いていく。
だが、エルリンの速度に武器がついてこなかった。
バキンッ!
ロングソードが根元から折れる。
それでもエルリンは止まらない。
足元に転がる亡骸から片手剣を二本奪い取ると、そのまま二刀流の構えを取った。
正面から迫る下級魔物の群れ。
エルリンはその中へ自ら飛び込み、回転しながら両手の剣を振るった。
一匹。
二匹。
三匹。
数える意味など、もうなかった。
いつの間にか、エルリンの全身は返り血で真っ赤に染まっていた。
金色だった髪も、白い肌も、革鎧も、すべて血の色に塗り潰されている。
それを遠くから見ていた友軍の兵士は、後にこう語った。
「あれは……間違いなく、戦鬼だった。赤い戦鬼だ」
「魔物共は皆殺しにしてやる!」
血塗れの剣を握りしめ、エルリンは叫ぶ。
「私は希望なんかじゃない……お前たちにとっての絶望だ!」
エルリンが通った後には、魔物の死体だけが積み重なっていた。
やがて、長い一日が終わった。
魔物軍は一時撤退し、態勢を立て直しているようだった。
人族の合同部隊もまた、部隊の再編と休憩を余儀なくされる。
この時点で、魔物軍の死者は約一万。
人族軍の死者は約一万九千。
それは勝利などではなかった。
ただ、滅亡が少しだけ先延ばしになったに過ぎなかった。




