アストリッド
街を脱出した3人は、黒い翼が用意していた馬車に乗って揺られていた。
「あれだけ騒ぎを起こして、上皇と皇太后も殺した、これで任務完了ですよね」
ファフナロッタは晴々した顔で言った。
「あなたは脳天気でいいですわね〜、慌てて街を出たおかげで、ワインはこの一本しかありませんのよ!」
「アルバに着いたら、浴びるほど飲ませてあげますよ」
エルリンが笑顔で応える。
「で、今後はどうなりますの?」
レミーが真顔で言った。
「マグリッドは、黒い翼が後片付けをしてくれる・・・らしい」
エルリンは少し不安気に話す。
「うさんくさいですわね」
レミーが虎の子の一本の蓋を開ける。
「黒い翼が後押ししている貴族がウリヤス公爵を糾弾し、失脚すれば、後は黒い翼の思い通り・・・と言っていましたね」
ファフナロッタはレミーにすかさずグラスを差し出す。
「とにかく、アルバに着いたらダネルに・・・」
エルリンが言いかけたが、何かに気付いた。
「馬車を止めて!」
「はぁ!?」
レミーとファフナロッタが同時に、意味がわからないといった表情をする。
馬車が止まると、エルリンは飛び出した。
「全く!変態エルフの考える事は分かりませんわ!」
「心配なので私も行きます!」
ファフナロッタも馬車を飛び出す。
「わたくしは待ってますわ」
そう言うとワインを流し込んだ。
エルリンは街道横の草原の中に走って入っていく。
「リン!どうしたのですか!?」
ファフナロッタがエルリンを追いかける。
「この先に、炎が見える!それにこの気配!」
エルリンがファフナロッタに説明する。
「・・・!魔物の気配!?」
「村が襲われてる!」
「だけどリン!人を助けてどうするんですか?」
「アルバに一旦連れて行けば、後に牧場で囲うのもありでしょう?」
「ーーーさすがリン!わかりました、手伝います!」
ファフナロッタは疑いもせず、ただ感心した。
「こちらに逃げてくる人がいる、確保して馬車に乗せて!」
2人はこちらに向かってくる人影に近づいていった。
「ファフナロッタ、もし魔物だったら、仲間を呼ばれる前に瞬殺して!」
「まかせてください!」
2人は逃げてくる人を馬車に誘導し、追いかけてくる魔物を次々と撃退した。
「そろそろいいわね、深入りしすぎると、魔物の群と戦うことになる、撤収しましょう!」
エルリンはファフナロッタに引き上げの指示を出す。
その時、エルリンは草原に座り込んでいる人影に気がつき、ゆっくり近づいていく。
「リン!」
「先に行ってて!」
エルリンが近づくと、その人影が子供であることがわかった。
「キミ・・・大丈夫?もう怖くないよ」
三角座りをしていた子供が顔を上げる。
女の子のようだ。
10歳くらい?
凄く怯えた目をしている。
この娘・・・ティンテッド。
片角のティンテッドで前髪が長く、額から伸びた角のある方の目と逆の目が前髪で隠れている。
ティンテッドは人族から生まれる突然変異種で、魔物のように穢れを持ち、頭に角が生えている。
人族から忌み嫌われる事が多い。
気になったのは、服や顔がとても汚れていて、顔に殴られたような跡がある。
「私はリン、リン・ファー、あなた、お名前は?」
少女は怯えながら口を開く。
「・・・アストリッド」
か細く、ギリギリ聞こえるくらいの小さな声だった。
「ここにいたら危ないよ、私と一緒に行こう」
エルリンは優しく微笑む。
「・・・痛いことしない?」
アストリッドは震えている。
「もちろん、しないよ」
エルリンはアストリッドを優しく抱き上げる。
「大丈夫、お姉さんが守ってあげる」
エルリンが馬車に戻ると、馬車の中はギュウギュウになっていた。
「変態エルフ!あなたなんてことしてくれますの!?」
レミーがすごい剣幕でエルリンに詰め寄る。
「あはは、ごめんなさいこれも計画の一旦と思って、納めてもらえませんか?」
「ファフナロッタから聞きましたわ!なぜひと言わたくしに相談しませんの!?ゴリラ語だからですの?どうですの!?」
エルリンは必死で頭を下げてレミーを説得した。
何とかレミーを説得した後、飽和状態の馬車の中、レミーはずっと殺意に満ちた目をしていた。
「お姉ちゃん、あの人怖い・・・」
アストリッドはレミーを指差した。
「ゴリリン!その子供は何ですので!?」
レミーは今にも誰かを殺しそうな顔で言った。
「ゴリリン?次から次へと、すごい才能ですね」
「舐めてますの?」
「いえいえ!心の底から褒めてます!」
クスクス
アストリッドが初めて笑顔を見せた。
「ほらね、レミーお姉ちゃんは怖くないよ」
「フン!」
レミーは残り少ないワインをラッパ飲みした。




