勝利の合図
エルリンのいる路地の周りには、100人を超える兵士が集まっていた。
ギフトヴィントミューレは真っ赤に染まり、エルリンはそれを杖のようにして立っていた。
「ーーーさすがに体力も魔力も限界ね」
はぁはぁと、大きく荒い息をする満身創痍のエルリンの足元には、大きな血溜まりが出来ていている。
「奴はもう限界だ、怯まずかかれ!」
「あいつはスカイフェザーを使う、飛びそうになったら羽根を狙え!」
兵士達があと一息と確信して、士気を高める。
その時、エルリンのイヤリングに通信が入る。
「こちらレミー、任務完了」
「こちらファフナロッタ、全てのポイントを攻略、任務完了!」
ほぼ同時に入った通信を聞いて、エルリンはほくそ笑む。
「私達の勝ちよ・・・・」
兵士達がエルリンにとどめを刺そうとにじり寄る。
「ここをきり抜けられたら、ワインフェチもさすがに褒めるでしょう」
「ーー土の精霊よ、力を貸して!ロックウォール!」
兵士達の前に突如岩の壁が立ち上がる。
「なに!妖精魔法だと!?」
兵士達はたじろぐ。
「最後の力よ!身体強化術、タイタンズアーム!ハァァァ!」
エルリンの両腕の籠手を結ぶ紐がちぎれて、腕の筋肉が膨れ上がる。僅かな時間しか効果はないが、この状況では充分である。
ーーー左の塀を壊せば逃げ道があるはず!
「壊れるかどうかじゃない。壊す!」
エルリンは塀にめがけてギフトヴィントミューレを力一杯叩きつける。
ーーこんなのワインフェチに見られたら、またゴリラって言われるわね
ギフトヴィントミューレが塀の脆い部分を突き抜けて大きな穴を開ける。
穴からひび割れが伸びて、穴の上の塀が重みで崩れ落ちる。
「今の音はなんだ!」
ロックウォールで視界を塞がれた兵士達が、轟音に反応して驚きの声を上げる。
エルリンは崩れた塀から、隣の民家へと移り、人通りの少ない通りに出る。
後方から追っ手は来ていない。
しかし、警備兵だらけなのは変わりない。
ーー合流地点に向かわないと
「こちらラファエラ、合流地点に向かう」
合流地点へと急ぐ途中、タイミング悪く角から出て来た兵士2人と鉢合わせする。
「貴様は!ラファエラ!」
「ちっ!うっとおしい!」
ギシッ!
「なに?腕が・・・」
ギフトヴィントミューレが倍以上の重さに感じた。
ーーー身体強化術の使い過ぎ!?
動きの止まったエルリンの肩に、兵士のショートソードが刺さる。
「ぐあ!」
エルリンは激痛にうめき声を上げ、思わず膝をつく。
「やったぁ!ラファエラの動きを封じたぞ!」
「今だ!捕らえろ!」
ーーー「ここまでか・・・」
エルリンはこの状況に諦めざるを得なかった。
その時だった。
「無様にへたり込んでるんじゃありませんわ!」
2人の兵士が声のする方に向いたとたん、首から血を噴き出して倒れた。
そして、そこには、月明かりに照らされた、真っ赤な瞳のレミーが立っていた。
「・・・レ、レミー」
エルリンは疲れと出血で朦朧としていた。
「情けないですわね、ゴリラのくせにヘロヘロじゃあありませんの、フフフフ」
レミーは呪文を詠唱しながら、エルリンに手をかざす。
「アースヒール・・・」
レミーがエルリンに回復魔法を掛ける。
エルリンの体の痛みが和らいでいき、体が軽くなる。
「あ・・・はぁ・・ありがとう!」
エルリンは素直に礼を言った。
「さあ、いつまでものんびりしていられませんわ、行きますわよ」
レミーはエルリンを見下しながらも、少し優しい目をしているように見えた。
「そうね、行きましょう」
エルリンは立ち上がり、レミーと共に走り出した。
「籠手はどうしましたの?」
「ちょっと、身体強化術のときに・・・」
「ゴリラの次はオーガにでもなりましたの?フフフフ」
エルリンは思わず笑った。
ゴリラだのオーガだのと言われ続けるのも、不思議と悪い気はしなかった。




