赤色魔眼
路地を入った建物と建物の間に、小さな祠がある。
レミーはその周辺を念入りに調べる。
「この辺りのはずですわ・・・ここですわ」
石像の右手がレバーになっていて、祠がスライドする。
祠の下に隠し階段が現れる。
「フフ、ゴリネズミなら、石像ごと叩き割っていたかもしれませんわね」
レミーは階段を用心深く降りていく。
階段を降りると、真っ直ぐに伸びた石造りの廊下が長く伸びている。
「ん?この気配・・・」
レミーの前方から何かがやってくる。
「この私が気付かない程の探知魔法・・・やりますわね」
「侵入者、何者だ・・・」
武装し、ランタンを持った人族が数人、レミーに向かってくる。
「なんだ?人間じゃない?」
戦士風の男が言う。
「あれは・・・まさか、ブラッドナイト!」
魔法使いの女が驚愕する。
「こんなところにどうして!」
軽戦士の男が構える。
「ゴチャゴチャうるさいですわね・・・」
レミーが冒険者パーティーの話に苛ついて、思わず口を挟む。
「私がブラッドナイトですってぇ!黙って聞いていれば、バカにするのも大概になさい!」
「なに!ブラッドナイトじゃないの!?」
魔法使いが更に驚愕する。
「冥土の土産に教えて差し上げますわ」
レミーの瞳が真っ赤に染まり、空気が震える。
「まさか、ブラッドナイトじゃない・・・ノーブルヴァンパイア!」
冒険者達が一斉に悲鳴のようの声を上げる。
手の赤い爪がナイフのように伸びる。
牙がゆっくりと覗く。
真紅の瞳だけが闇に浮かぶ。
「――わたくしの名は、赤色魔眼のレミリーナ・ゼルドア・アレクサンドラ。」
「うそ!」
魔法使いでもあり、賢者でもある女が震え上がる。
「どうしたんだ!シーア!」
「赤色魔眼のレミリーナ・・・確か、100年程前に姿を消した、六元始にも匹敵すると言われた、ヴァンパイア」
「昔の話ですわ、さあ、死ぬ時間ですわよ」
「みんな!逃げるぞ!」
リーダーらしき戦士がメンバーに警鐘を鳴らす。
「逃がすわけありませんわ・・・」
レミーは微動だにせず。
指一本動かさない。
発声もしていない。
次の瞬間、冒険者達の足元から紫色の霧が噴き出した。
「・・・無詠唱?」
シーアの顔から血の気が引く。
「しかも、魔法陣も・・・ない、これは、ヴェノムクラウド!」
「魔力の収束すら感じなかった・・・化け物!駄目だ!全滅する!」
シーアは死が確実になったことを悟る。
「・・し、死にたくない・・・」
次の瞬間、冒険者達が断末魔の悲鳴を上げると、金属鎧だけ残して溶解した。
「ゴリネズミにも知られたくない奥の手ですわ、フフフ!」
レミーは何事も無かったかのように、通路を先に進む。
先程の冒険者は何者かが入って来たのを気付いて、この先からやって来たようだ。
通路の行き止まりに上に昇る階段がある。
レミーは警戒しながら階段を上がり、小さな扉を開けると、どこかの部屋出た。
レミーは周囲を見渡すと、兵士らしき男が、品のある老夫婦を守っていた。
「なに!」
兵士がレミーを見て驚く。
「私の仲間はどうした!?」
兵士は最悪の事を頭に思い浮かべる。
「ああ、跡形もなく消えましたわ」
レミーは不敵な笑みを浮かべる。
「うわぁぁぁ!」
兵士がレミーにバスタードソードで斬りかかる。
カキン!
レミーが人差し指の爪で難なく受け止める。
兵士の目の前には、真っ赤な瞳をした得体のしれない女。
兵士の震えが止まらない。
「お前は、わたくしの人形ですわ、わかったら首を縦に振りなさい」
兵士が魔眼に凝視されると、力が抜けて首を縦に振る。
「後ろの老夫婦は上皇と皇太后ですの?」
兵士が、また首を縦に振る。
その状況を見ている上皇と皇太后も震えている。
「君は何者だ!何の目的があってこのような事をする?」
上皇がレミーに毅然とした声で質問する。
「・・・下賤な人族が・・・気安く話しかけるんじゃありませんわ!」
レミー本人が何十年振りかと思うほどにキレる。
「お前、あいつらを殺せ!」
レミーは兵士に命令すると、背を向けてその場を後にする。
降りる階段の途中で、老夫婦の悲鳴が階段に反響する。
レミーは一度も振り返らなかった。
「ーーーこちらレミー、任務完了」




