毒蝶、舞う
ファフナロッタはホールの入り口付近にいた。
「はじめます、いいですね」
ファフナロッタはイヤリングで通話をする。
誰も見ていない事を確認すると、古代語で呪文を唱えると印を結び、魔法陣を展開する。
魔法発動の瞬間、エルリンから通信が入る。
「情報収集というのは撤回するわ、乱暴な情報収集ね」
ファフナロッタは集中を切らしそうになったが、最後まで魔法を発動させる。
「ファイアボール!」
入り口は爆炎で燃え盛る。
「きゃああ!誰かぁ!火事よ!」
ファフナロッタが助けを呼ぶ、自作自演である。
燃え上がる光景を見て周囲がざわめき、人々が警備隊や消火隊を呼びに行く。
「こちらレミー、詰所から兵士がわんさか出てきて、そちらに向かってますわよ」
「こちらはあと、1分くらいかな」
エルリンは仮面を付けて顔を隠し、マントのフードで耳を隠すと、ホール裏口へと向かう。
ホール入口に警備隊や消火隊が駆けつけると、ファフナロッタは野次馬に紛れてその場を離れる。
「ファフナロッタ、東門詰所に移動します」
ファフナロッタは足を早める。
「こちらラファエラ、始めるわ」
エルリンが裏口に到着すると。
「火の精霊よ力を貸して、ファイアアロー!」
裏口の床に炎の槍を撃ち込むと、火が瞬く間に燃え広がる。
「ラファエラ、北門に向かいます」
妖精魔法を使うエルリンを見ていた人物が、警備隊に報告する。顔を隠したエルリンのトレードマークの毒蝶がはっきりと印象に残る。
「来たわ!追いかけっこね!」
エルリンは楽しそうに叫び、身体強化術を使うと、とてつもないスピードで通りを駆け抜ける。
「追いかけっこなんて、余裕ですわね」
レミーはエルリンを茶化した。
「あ、また詰所から大量に出てきましたわ、ゴキブリみたいですわ」
「リン、気をつけて、みんなそっちに向かってる」
ファフナロッタが、エルリンを心配しながら注意を促す。
「アハハハ!ラファエラ、あなた前世はネズミか何かですの?その身体強化術とやらは便利ですわね、ヴァンパイアには使えないのが若干口惜しいですわ!」
レミーは高みの見物を楽しんでいる様子だ。
「レミー様、本陣がガラ空きになってませんか?そろそろでは?」
ファフナロッタが少しイラッとした声で言う。
「言われなくてもやりますわ!主役は私ですわ!」
レミーはそう言うと、詰所本陣の屋根に飛び移った。
様子を伺いながら、2階の空いてる窓から中に忍び込む。
「潜入成功ですわ」
「こちらファフナロッタ、東門詰所に到着、かなり手薄に見えます」
ファフナロッタは詰所が見える位置から、忍び足で気配を消して接近する。
「はぁ、はぁ、こちら、ラファエラ、警備隊の数は、え〜、ざっと30くらい、増大中」
レミーはその通話を聞きながら、詰所の資料室を調べていた。
「そのまましばらく、ネズミをやってなさいな、捕まったら殺しますわよ!」
資料室似近づく足音が聞こえる。
レミーの手が止まる。
「ーー入って来たら殺すしかありませんわね」
ファフナロッタが詰所に近づくと、中から若い兵士が出てくる。
「あの〜すみません、ウリヤス様のホールで何かあったのですか?妹が働いてるんです!」
ファフナロッタはとっさに演技をした。
「こちらラファエラ、ヤバい!正面から数十人!奥の手を使う!」
身体強化術を一点に集中する。
「もう、奥の手ですの?」
レミーが小声で呆れる。
「一度も使ったことないのよ!・・・スカイフェザー!」
エルリンはそう叫ぶと、背中に天使のような大きな羽根が生える。
「飛べぇ!」
地面がみるみる遠ざかる。正面から来る兵士に捕まる寸前のところで、頭上を飛行して回避する。
「高いの苦手なのよね!」
エルリンはフラフラしながら宙を舞う。
前からの集団をやり過ごすと、翼が消えて地上に降り立った。
「低いところしか飛べないなら意味ないなぁ」
エルリンはため息をついて、再び走り出した。
詰所本陣の当直兵が、二階で物音を聞いて調べに来た。
ランタンを持って、一部屋づつ調べていく。
資料室からカサカサとした紙の音がする。
「誰かいるのか?」
当直兵が資料室のドアを開けて中を見渡す。ランタンの灯りが部屋の中を左から右へと順に照らす。
「ん!?」
部屋の奥に人影のような物を見つける。
「誰だ!」
腰のショートソードを抜いて構える。
暗闇にたたずむ人型の影が、ランタンの灯りで揺らめき、瞳だけが赤く光る。
「お気の毒・・・ですわ」
「う、動くな!」
当直兵は怯えながらも、影に向かって斬りかかった瞬間、目の前から影が姿を消す。
「え!?」
そう言ったのも束の間、当直兵は体の自由を失った後、首から血を噴き出しながら倒れた。
「遊びはここまでですわ・・・早く終わらせましょう」
レミーはナイフのように伸びた爪についた血を、ペロリと舐めた。
ファフナロッタは詰所から出て来た兵士を、見つめながら話をする。ファフナロッタの瞳が徐々に赤くなる、相手の呼吸と会話のリズムを合わせる。
兵士の警戒心が無くなっていく、そして、ファフナロッタを見る目が好意に変わる。
ーー誘惑
「あなたお名前は?」
「僕は・・・ジョルジュ」
「そう、いい名前ね、ジョルジュ、中に入っていいかしら?」
「ああ、問題ない、入っていいよ」
ジョルジュはこの短時間で、ファフナロッタに魅了されていた。
「ありがとう、ジョルジュ、中を案内してくれる?誰かが捕まえに来たら、私を守ってね」
「ああ、もちろんだよ、君のためなら何でもする」
ジョルジュはファフナロッタにメロメロである。
「ジョルジュ、この街の見取り図ってあるかしら?」
街中を逃げ回るエルリンに吉報が入る。
「こちらレミー、手に入りましてよ、これより撤収しますわ」
「ファフナロッタ、任務完了、合流地点に向かいます」
「ラファエラ、もうネズミはおしまいにして構いませんわよ」
レミーが半笑いなのがわかる。
「了解!締めにかかるわ!」
エルリンが逃げ回りながら応答する。
ヘトヘトの体にムチを打って、先程の身体強化術を使う。
「スカイフェザー!」
背中に羽根が生えて、エルリンが宙を舞う。
中央にそびえ立つ塔の外周に沿って飛行し、塔の頂上に立つ。
「いやぁ〜、何度も飛んでも慣れないわね〜」
エルリンは額の汗を拭いながら言う。
塔の周りを兵士が取り囲む。
エルリンは大きく深呼吸すると、ありったけの大声で叫ぶ。
「よく聞け!間もなくこの街の住人共に鉄槌が下るだろう!私腹を肥やし、弱きものを食い物にしてきた罰を受けるのだ!今日のボヤはプロローグに過ぎない!この毒蝶のラファエラが、お前達を決して許しはしない!恐れ、慄くがいい!腐りきった者ども!」
演説を終えると、エルリンはしぶしぶぎこちなく飛び去った。
「これのどこが情報収集ですの?」
レミーの呆れきった声が耳に飛び込んできた。




