開演
軽快なリュートやパーカッション等のリズムが会場中に響き渡り、3人の美女がステージの上をところ狭しと、華麗に踊っていた。
エルリンは軽やかにショールをヒラヒラとさせながら、華やかさを演出している。
レミーとファフナロッタはベールで耳を隠しながら、体の柔軟さを活かした舞を見せていた。
ただ一人、レミーだけが笑顔ではなかったが・・・
パーティーの参加者は大いに盛り上がっていた。
下品な男達は、妾にするにはどの娘がいいかと話をし、酒場の店主は、いくら出せば雇えるか等の話もチラホラ聞こえてくる。
3人は聞こえてくる会話に眉一つ動かさず、踊り続けた。
しかし、その指先には自然と力が入っていた。
酒に酔い、踊り子を品定めする貴族たち。
その光景を見つめるエルリンの胸に、静かな怒りが燃え上がる。
ーー私腹を肥やした罰を与えてやる
声には出さない誓いが、心の奥で静かに燃え続けていた。
演舞が終わり、拍手喝采の中、3人はステージを降りた。下賤な貴族達が群がる中、レミーだけが会場を後にする。
「やあやあ、君たち、見事なダンスだったね、いい体をしている、うん実にいい!」
太った偉そうな中年の男が、エルリンとファフナロッタに言い寄ってくる。
「お気に召していただけて、光栄に存じます」
エルリンは丁寧にお辞儀をしながら応えた。
それに合わせるかのようにファフナロッタもお辞儀をした。
その後、中年男が何やら自慢話を始めたが、そのタイミングで声が聞こえる。
演舞が始まる前のこと。
「これを2人に」
エルリンが小さなイヤリングを渡す。
「これは"通話のイヤリング"ですか?結構高級だったかと」
ファフナロッタが驚いてエルリンに尋ねる。
「必要だと思ってね、用意させたの」
「ほう、なかなかやりますわね、エルフの割には用意周到ですわ」
レミーが久しぶりにエルリンを褒める。
「この作戦の鍵はレミーさんだから、ちゃんと連絡が取れるようにしておきましょう」
エルリンは2人の手を強く握りしめた。
そして演舞の後、中年の話を半分も聞いていないエルリンに、通話のイヤリングを通して声が聞こえた。
「聞こえる?ラファエラ、ファフナロッタ」
エルリンとファフナロッタは中年の話に合わせて返事をした。
「ええ」
「これより潜入しますわ、配置についてくださいまし!」
レミーは最上階である3階の屋根の上にいた。
今日は幸い、雲が多く月明かりもない。暗闇でレミーは黒く威圧感のある羽根を広げていた。
闇の中には、レミーの赤い瞳だけが映える。
「ヴァンパイアの力、思い知るがいいですわ!」
レミーが目指すのは見下ろす位置にある、詰所の本陣である。
そのころエルリンは中年との会話に何とか合わせようと必死だった。
「ええ、そうですわね、お時間ちょっといただけますかしら、あ、ファフナロッタ先に着替えてらっしゃい」
「では、お先に失礼いたします」
ファフナロッタはお辞儀すると、続けてリンに小声で話す。
「リン、先に行ってますよ」
ファフナロッタはその場から離れた。
エルリンは心の中で呟く。
ーーこの役回り、嫌すぎる
「あら、私としたことが、いつまでもこんな格好では失礼にあたりますわ、失礼して着替えさせていただきます」
かなり遅れてエルリンが会場を後にする。
通話のイヤリングでエルリンが2人に告げる。
「もうすぐ次の演物が始まる、作戦開始よ!」
「私に失敗などあり得ませんわ!」
レミーが自信満々に吠える。
「ファフナロッタ、ホール入口、配置良し!」
ファフナロッタがきちんとした報告をする。
エルリンは荷捌き場の倉庫に来た。
奥に置かれた木の箱を開けると、エルリンの装備一式が入っている。
「いい仕事するじゃないダネル!」
エルリンは通話のイヤリングで報告する。
「ラファエラ、準備よし!」
エルリンはギフトヴィントミューレにそっと口づけた。
「――行きましょう、もう一人の私」




