3人目
「では、しばしのお別れですね、報告が済み次第戻ります」
ファフナロッタはエルリンに、シュナイゼルへの報告を頼まれた。
「ええ、淋しいから早く戻って来てね、シュナイゼル様ならきっと分かってくれる、問題はレミーかな」
エルリンは少し引き攣った笑いを見せる。
「私が必ず説得しますよ、リン、無茶しないでください、私が戻るまで少しは大人しくしてて下さいね」
そう言うとファフナロッタは、いつもの真面目な表情をほんの少しだけ和らげた。
エルリンも苦笑して頷く。
「約束は……努力するわ、ファフ」
「いってきます、リン」
エルリンはファフナロッタが見えなくなるまで手を振っていた。
その後のエルリンは多忙だった。ダネルとの協定の取り決めや、今後の活動方針についての話し合いが、毎日行われた。
ダネルはゼルギアの経済を立て直すには、元凶のウリヤス公爵を失脚させる事が出来れば、経済を立て直せるという。
だが、問題は皇帝を含む上位貴族が民衆から搾取する事しか考えていない。
一方でエルリンの希望は、ヴァンパイアの食事の用意と、ブラッドサッカーを増やすこと。
「貧民と犯罪者をふるいにかけて、劣悪な者を収容所に集め、そこをあなたの言う人間牧場にするというのはどうだろう」
ダネルが一つ案を出す。
「スタートとしては上出来ですね、将来的には他国から拐ったり、敵軍の捕虜も対象にしたいわね。出来れば外界と隔絶した環境を作って、繁殖させた方が効率的かもしれないわ」
エルリンは口に手を当てて、考えながら言った。
「面白いね・・・だけど、ウリヤスを何とかしないとね」
「引きずり下ろす方法はないの?」
「力技になるが、一つだけ・・・」
ダネルは険しい表情をした。
「オードリック皇帝の故郷、ゼルギアの西方の都市マドリッグに住む皇帝の両親を殺す」
「それでウリヤスは失脚するの?」
エルリンは身を乗り出して訊ねた。
「マドリッグの領主はウリヤスで、オードリック皇帝の溺愛する両親の警護任務も任されている、そこで大失態を起こせば・・・」
「かなりの賭けね」
エルリンは椅子の背もたれに体を預けた。
「勝算はどれくらい?」
エルリンは目を瞑って聞いた。
「我々の後ろ盾に力を借りても、マグリッドにいる兵力には到底敵わない・・・あんたらの力が必要だ」
「なるほど、そこに繋がるわけね」
エルリンは天井を仰いだ。
「情報戦なら引けは取らない、だが、軍事力は・・・」
「わかった、言いたいことは伝わったわ、でもね、ヴァンパイアは見返りがハッキリしない状況で、人族に戦争を仕掛けたりしない」
そうだろうなと言わんばかりに、ダネルはうなだれた。
「私とファフナロッタで、ウリヤスの戦力を削る・・・」
「なに!?」
ダネルはあまりの発言に目を見開いた。
「冗談を言っているようには見えんな……」
「正面から勝負を挑む気はない、戦力を削る方法はいくらでもあるわ、もちろん、あなたたちの協力は必要よ」
「なるほど、やはり君は面白い、もう少し詰めて話す必要があるな、よし、飯を食おう!リン!」
「やったぁ!腹ペコだったのよ〜」
2人の表情が緩み、笑顔が戻った。
数日後の夜、エルリンは驚愕した。
戻ったファフナロッタの前にいたのは・・・。
「ラファエラ!ずいぶん好き勝手やってるそうね!」
まさかのレミーだった。
ファフナロッタはレミーの後ろで、見えないように手を合わせてエルリンに謝っている。
エルリンは慌ててへりくだった。
「あ、レミーさん、遠いところをわざわざ・・・」
「社交辞令なんてどうでもいいわ、あなた何様なの!?ファフナロッタを顎で使って状況を報告させるなんて!」
「私の付き人のファフナロッタを奪った上、顎で使うなんて!」
エルリンはレミーが様々な理由でキレているという事は理解できた。ただし、内容についてはよく分からない。
「レミーさん、よろしければ、おいしいワインでも飲みながらお話するというのはいかがでしょう?」
エルリンは何とか突破口を開きたかった。
レミーのマシンガンのような激昂が止まった。
「おいしくなかったら、その長い耳が欠けることになるわよ」
エルリンは胸をなで下ろした。
レミーが無類のワイン好きだと知っていたので、何とか切り抜けることができた。
「そうです!レミー様、この街には、それはもうおいしいワインがあるんですよ!アハハハ!」
ファフナロッタのナイスフォローがトドメとなった。
「ごめんね、リン」
ファフナロッタは小声でエルリンに謝った。
「少し驚いたけど、うまくいけば戦力が1人増える」
エルリンはそう考えていた。




