ラファエラとしての覚悟
エルリンは戦場にいた。今ではエルリン・ファリルではなく、毒蝶のラファエラとして。
白い魔法の革鎧を身につけ、毒蝶の刺繍が施されたマントを翻し、そして、ラファエラ専用のウォーハンマー「ギフトヴィントミューレ」を握りしめていた。
アンデッドの大群が押し寄せてくる。
それを迎え撃つヴァンパイア軍、指揮するのは6元始の1人、奇知のシュナイゼル。
「ラグ隊、レミー隊、カミュ隊、ラファエラ隊、前進!死に損ない共を蹴散らせ!」
地鳴りと共に両軍がぶつかる。
ブラッドサッカーがスケルトンを砕き、グールの爪がブラッドサッカーの翼を切り裂く。
「ラファエラ嬢、楽勝ですね〜」
少し脳天気だが、エルリンと唯一まともに接するのがカミュである。
かわいい男子系の見た目も相まって、エルリンは少し親しみが湧いている。
「油断は駄目よ、あいつらはしぶといし、数では負けてる」
エルリンはギフトヴィントミューレを構える。
「私も前に出る!」
「お供しますよ〜ラファエラ嬢」
カミュが笑顔で走り出す。
エルリンの一撃は、これまでと比べものにならない威力だった。それはまるで衝撃波のように、アンデッド達が粉砕されていく。
「僕も負けてられませんよ〜」
カミュが鋭い爪でゾンビを引き裂き、雷魔法のライトニングがアンデッドを次々に貫いていく。
後方でそれを見ていたレミーが呟く。
「カミュ!薄汚いエルフと仲良くするなんて!」
アンデッド軍との戦いが終わった。数で負けていても、ヴァンパイア軍の力は圧倒的だった。
エルリンは思った。
「人族がケンカを売らないわけね」
城に戻ると、レミーがカミュに詰め寄る。
「エルフなんかの肩を持つのはおやめなさい!」
カミュはクスクスと笑った。
「レミーさんは堅いなぁ、シュナイゼル様が仲間だと言うなら、それに従うのは当然でしょう」
カミュは納得いかないレミーの顔を覗き込んで、更に続けた。
「見てください、ラファエラ嬢はシュナイゼル様のお気に入りですよ、仲良くした方が好印象かと」
レミーはシュナイゼルとラファエラが話しているのを見て舌打ちをする。
数年の月日が流れた。
その日はシュナイゼルから召集を受けてヴァンパイア達が集まっていた。
「そろそろ食料と仲間集めをしなければならん」
シュナイゼルが議題を突きつける。
「人族をさらって、ブラッドサッカーも増やさないと」
ラグが補足をする。
「いつものように、私達が数人の部下と人族の国に潜入しますわ!」
レミーがシュナイゼルをまっすぐ見て発言する。
「ふむ、いつものやり方で、手分けして集めるか」
シュナイゼルが腕組みして、天井を見上げて言った。
「まってください」
エルリンが纏まりかけた空気を一変させた。
「恐れながら申し上げます、私に考えがあります」
「フン!エルフの意見なんて聞いていませんわ!」
レミーがテーブルを叩きながらがなり立てる。
「待て!ラファエラ、話を聞こう」
シュナイゼルがその場を制した。
「恐縮です」
エルリンは咳払いをすると、ゆっくり話始めた。
「結論から申し上げます。ゼルギア帝国を我々のファームにするんです」
場がざわつき、様々な言葉が飛び交う。
「そんなこと!出来るはずがないでしょう!」
レミーがエルリンに噛み付く。
「ゼルギアは戦争も満足にできないほど、内部から崩れ始めています。力で奪うより、支配層をこちら側に引き込めば、国そのものを我々の人間牧場にできます。」
そこからしばらくエルリンのプレゼンは続いた。
「なるほど、面白い・・・」
シュナイゼルが不敵な笑みを浮かべる。
「いいじゃない!楽しそう!」
カミュが笑顔で手を叩く。
「今のままでは、どのみちジリ貧かも知れんしな・・・」
ラグは無表情で頷く。
「こいつの言うことを簡単に信じてはいけませんわ!」
レミーは初志貫徹のようだ。
結局、シュナイゼルがエルリンの案を通す形となった。
ただし、今まで通りのやり方も同時進行し、エルリンの案は単独で調査をして情報収集してから最終決定となる。
「ファフナロッタ!」
シュナイゼルが部屋の隅に立っている、メイド姿の女プロトヴァンパイアに声をかける。
「はっ!」
ファフナロッタがシュナイゼルの前に来て膝をつく。
ファフナロッタはエルリンの世話役であり、赤い長髪を綺麗にまとめたプロトヴァンパイア。真面目で鋭い目付きをしており、立ち姿ひとつ取っても隙を感じさせない女である。
「お前はラファエラに同行しろ」
「御意!」
シュナイゼルが命令すると、ファフナロッタは大きな声で承諾した。
「え〜と、ファフナロッタ、よろしくね」
エルリンは突然のことに困惑しながら、ファフナロッタに言った。
「ラファエラ様、何なりとお申し付け下さい」
会議が終わると、部屋を出たところでレミーが腕を組んでエルリンを待ち伏せしていた。
「ラファエラ、裏切って逃げるなんて真似をしたら、私が必ずお前を見つけ出して殺す!」
そう吐き捨てると、背中を向けて去っていった。
エルリンは背中に冷たいものを感じていた。
レッサーヴァンパイア、名前に「下位」とついてはいるが、その恐ろしさはシュトラーダ王国にいた時から噂に聞いている。
小規模な都市の戦力と戦える程の戦闘力と、知略を持つ恐ろしい存在だと。
先程エルリンに向けられたレミーの目は、その噂を真実にできる程の威圧感があった。




