恩人
蝶々が目の前をひらひらと飛んでいる。
「綺麗・・・」
エルリンは手を伸ばし、蝶々を捕まえる。
強く握りすぎて蝶々は死んでしまう。
次の瞬間、エルリンは震えが止まらなくなる。
「・・毒!」
エルリンは激しい嘔吐と目眩に襲われる。
「死ぬのかな・・・」
そう思った瞬間、誰かの駆け寄る音がした。
「エルリン!しっかり!」
故郷にいた頃の幼馴染、ミルトリアである。
「ミルトリア・・・なぜ・・ここに・・・」
エルリンは忘れていた。故郷で唯一同性の中の良い友人がいた事を。
「ミル・・トリア・・・」
エルリンは目を覚ますと、柔らかいベッドの上にいた。
「こ、ここは?」
見たところ、どこかの家の中のようだ。顔を右に向けると、少女がじっとこちらを見ていた。
「あ・・・」
エルリンは何が起きているのかわからない。
「あ!起きた!」
少女はそう言うと、部屋から出ていった。
「ママ〜!目が覚めたよ〜!」
廊下から少女が叫んでいるのが聞こえる。
少女は恐らく6〜8歳くらいで、茶色く短い髪、口元に特徴的なホクロがある可愛らしい子供だった。
しばらくすると母親らしき女性がやって来た。少女と似た顔つきの優しい雰囲気の女性であり、牧場の仕事中に駆けつけてくれたようだ。
「目が覚めて良かった!ご気分はいかがですか?」
「あ、はい、その、少しダルいですが、大丈夫です」
少しボーッとした頭で言葉を絞り出した。
「3日も寝てたんですよ。あり合わせでしたが、解毒作用のある薬草が効いて良かった!」
「なぜ、私を?」
「え!?理由が必要ですか?」
「あ、その、ごめんなさい、すぐに出ていきます」
エルリンはベッドから体を起こすと驚いた事に、寝巻きを着ていたのだ。
「ごめんなさい、鎧のままだと寝苦しいと思って、身につけてた物はちゃんと蔵に置いてあるから、安心してもう少し横になってて」
エルリンは言葉が出なかった。
「・・・お言葉に甘えます」
母親の言葉からは優しさ以外感じ取れなかった。ウトウトしながら、記憶をたどっていた。確かメニス村に向かっていて、畜舎に入って・・・そう、助けられたのだ。そうしてまた、眠りに落ちていく。
エルリンは少し眠っていたが、いい匂いがして目が覚めた。
ベッドから体を起こし、足を床につけてゆっくり立とうとする。フラつきはない、歩けそうだ。ゆっくり壁に手をつきながら歩き出す。灯りを頼りに匂いがする方に向かうと、先程の母親が夕飯の準備をしていた。
エルリンに気がついた母親が笑顔で話しかける。
「あら、大丈夫?良かったら椅子に座って」
「は、はい、失礼します」
テーブルの椅子に腰掛けると、向かい側に少女が座って本を読んでいた。少女は笑顔でエルリンに語りかけた。
「わたしシャロン、お姉ちゃんは?」
「あらあら、ごめんなさい、自己紹介まだでしたね、私はこの娘の母親でロゼッタ・ミリーと申します、その、無理に名乗らなくても大丈夫ですので」
ロゼッタはかなり気を使ってる様子だ。
「いえ、大丈夫です、わたしはエルリン、エルリン・ファリルと申します、この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「いえいえ、そんな、困った時はお互い様でしょ?」
「お姉ちゃんエルフなの?」
シャロンがあどけない表情で聞いた。
「こら!」
ロゼッタがズケズケと質問するシャロンを軽く叱った。
「大丈夫ですから、そうだよエルフだよ」
エルリンは優しく答える。
「うわぁぁ!凄く綺麗なお耳だね!」
「ありがとう、シャロン」
「エルリン、何か食べれそう?スープならあるけど」
ロゼッタは笑顔でエルリンに訊ねる。
「いいんですか?いただきます!」
ロゼッタはエルリンにスープを出した。
「お口に合うといいけど」
「いただきます」
エルリンはスープを一口すすった。素朴な味だが野菜の旨味とロゼッタの優しさが染み渡り、思わずエルリンは涙を流していた。
「あらら、美味しくなかった?」
「・・・いえ、違うんです・・おいしい・・・とても美味しいんです」
エルリンは涙が止まらず、余分な味付けを加えてしまった。
「お姉ちゃん泣き虫だね」
シャロンは微笑みながら、優しくエルリンを見つめた




