表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

第十四討伐部隊

ランディル地方の空は、いつも灰色だった。


戦火で焼かれた森。

魔物に踏み荒らされた畑。

城壁の外には、明日も生きられる保証のない人々。


その中を、一人のエルフが大剣を背負って歩いていた。


長い金髪が風に揺れ、美しいオッドアイは決して希望を失わない。

しかし彼女の名を呼ぶ者は、敬意ではなく恐怖を込めてこう囁いた。


「死神エルリンだ……」


死神


二度の斥候任務。


二度とも任務は失敗し、共に出撃した仲間は負傷した一人を除いて生きて帰れなかった。


「エルリンと組めば死ぬ。」


そんな噂は王国中に広がり、彼女は斥候任務から外され、討伐部隊へ配属された。


だが状況は変わらない。


新しい部隊でも誰も彼女と組みたがらず、単独討伐を命じられることも少なくなかった。


巨大なオーガを一人で倒し、

狼型魔物の群れを切り抜け、

満身創痍で帰還する。


鎧は裂け、剣は欠け、体中が血で赤く染まる。


誰も労わる者はいない。


「また生きて帰ってきたのか。」


そんな声だけが耳に残った。


武器屋の青年


唯一、彼女を普通の一人の女性として迎えてくれる場所があった。


シュトラーダ王国の武器屋。


店主はフレッド・ライスター、二十七歳。


無口だが穏やかな青年だった。


彼は何も聞かず、傷だらけのロングソードを受け取る。


「刃こぼれがひどいな。また無茶しただろ。」


「……仕事だから。」


「ポーションも追加しておくよ。」


そんな何気ない会話が、エルリンにとって唯一心を休められる時間だった。


ある夜、店を閉めた後。


エルリンは静かに呟いた。


「こんな私が、ランディルの希望になろうなんて……笑っちゃうよね。」


フレッドは剣を磨く手を止めた。


「エルリンのせいじゃない。」


「……」


「この国は病んでるんだ。」


窓の外には、遠く燃える村の炎が見えた。


「いつ滅ぼされるかわからない不安で、みんな心まで壊れてる。」


彼は優しく笑う。


「希望を捨てちゃダメだよ、エルリン。」


その言葉だけが、彼女を何度も立ち上がらせた。


十年


来る日も来る日も戦った。


ゴブリン。

オーク。

ワイバーン。

森を埋め尽くすアンデッド。


剣は何本も折れ、防具は何度も新調した。


血まみれになりながら戦い続けるうちに、十年という歳月が流れていた。


二十一歳だったエルリンは三十一歳になり、

武器屋の青年は三十七歳になっていた。


そして二人は、恋人になっていた。


任務から帰るたびに店を訪れ、

温かい食事を囲み、

他愛もない話をする。


それだけで十分幸せだった。


ある雨の日。


フレッドは勇気を振り絞って言った。


「エルリン。」


「なに?」


「ランディル地方を出よう。」


「……」


「平和な町で暮らさないか?」


エルリンは静かに笑った。


その笑顔は、少し寂しかった。


「そうね……それもいいわね。」


少し沈黙した後、小さく首を振る。


「でも、ごめんなさい。」


「……」


「もう少しだけ、頑張ってみてもいいかな?」


フレッドは目を閉じ、ゆっくり頷いた。


「わかった。」


そして笑った。


「いつまでも待つよ。」


その約束が、エルリンの帰る場所になった。


第十四討伐部隊


討伐隊に配属されて八年。


彼女は数え切れないほど仲間の死を見送った。


最初は「死神」と罵っていた兵士たちも、今では違う目で見るようになっていた。


誰よりも前に立ち、

誰よりも最後まで戦い、

必ず仲間を守る。


その姿を知っていたからだ。


そして王国は彼女に部隊を任せた。


第十四討伐部隊。


隊員は八名。


前衛アタッカー 三名(隊長エルリンを含む)


後衛ヒーラー 一名


後衛アタッカー 二名


後衛サポーター 二名


部隊名は――


「エルヴェン・ソード」


彼らは襲われた村を救い、

滅びかけた町を守り抜き、

数々の功績を残してきた。


そして何より、


一人も死者を出していなかった。


ある日、王国軍本部から緊急召集がかかる。


作戦室には重苦しい空気が漂っていた。


参謀が地図を指し示す。


「確認された魔物軍は二万を超える。」


兵士たちがざわめく。


「迎え撃つ我々は一万二千。」


誰もが数字の差に息を呑んだ。


そして参謀はエルリンを見る。


「第十四討伐部隊には陽動部隊を任せる。」


敵の注意を引きつけ、

本隊が勝機を掴むための役目。


最も危険で、生還率の低い任務だった。


部隊の誰もが緊張で震えていた。


名誉は得られる。


だが命を落とす可能性は、これまでとは比べものにならない。


静まり返る中、エルリンは仲間たちを見渡した。


そして、大剣を肩に担ぎ、力強く笑う。


「全員で、生きて帰るわよ!」


その言葉に、


震えていた戦士たちは静かに剣を握り直し、


魔法使いは杖を構え、


神官は祈りを捧げた。


死神と呼ばれたエルフは、


いつしか誰よりも頼られる隊長となっていた。


そして運命の戦場で、


「ランディルの希望」への憧れが試される戦いが、まさに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ