一つ目の願い
神社境内のヤギの石像からルビー色の宝石を拾った樹希。帰り道で奇妙な声と背後に気配を感じ振り返ると、それは人型のヤギ頭の〈何か〉であった。
「うわああああ」
前に向き直ると同時に自宅めがけて一心不乱に駆け出した。
「おばけ?おばけぇ」
霊的なものを見てしまったのではないかと思うと残暑の効果も相まって汗が噴き出した。
ようやく自宅までたどり着き、勢いよく扉を開け入るとエプロン姿の母が迎えてくれた。
「おかえりなさい。お父さんから樹希ひとりで先に帰るって聞いているわ。あらあら、どうしたのそんなに慌てて」
息を切らしてうまく話せない樹希を尻目に母が思いがけないことを話し始めた。
「そうそう今日、商店街でくじ引きやっていてね。なんとお母さん一等賞当てちゃったのよ。ほらなんとかってゲーム欲しがっていたでしょう」
母が指さした玄関の隅に目を向けると、そこには〈ゲームプラス・スクエア〉の箱があった、ご丁寧に最新のゲームソフト付らしい。
「え……ええー」
驚きのあまり思わず再度扉を開け外へ出た。あの不気味な〈ヤギ頭の何か〉は言っていた「その望み叶えよう」と。
「なんで?偶然?」
石垣に背もたれ、荒くなった呼吸を整えようとしているところにまたあのしゃがれた低い声が聞こえてきた。
「お前が望んだからだろう」
すぐ隣に突然の気配を感じそちらに目を向けると再度〈ヤギ頭の何か〉は姿を現した。
「ひいっ」
一度ならず二度も異形のものを見てしまうと「決して見間違いではなかった」そう思うと余計に恐怖がこみあげてくる。ヤギ頭はそんな樹希を見下ろし嘲笑い話し始めた。
「フォフォフォ。よかったではないか、望みが叶ったのだろう?」
唾を飲み込み、ようやく震えながらではあるが声がだせるようになった。
「な……何なんだよ、お前?」
「我はお前が拾い上げた〈宝石〉に一時的に宿った……そうだな、人間の言葉を借りれば〈悪魔〉さ」
樹希は慌ててポケットのルビー色の〈宝石〉を取り出した。
「そう、それよ。それとだな、先ほどは突然お前が走り出したから伝え忘れたが、一つ願いを叶えるごとに《お前の持つ何か》を頂く。今回であれば……ほれ」
頭の処理がまったく追い付かないことに加えて悪魔が人差し指を振ると突然、右足に違和感が走った。このざらついた何かに足が触れている感覚は知っている。見ると右の靴下が消えていた。
「ひゃっ、消えた?」
次々と奇妙なことが起こるが、目の前の悪魔は樹希に危害を加えるつもりはないようだ、そのことだけははっきりとわかった。悪魔は毅然として話し続ける。
「それとだな、お前には我を認識して〈三つの願い〉をする権利がある。残り二つだ。それは本日を入れて七日間有効となる」
「次の土曜日までってことか。過ぎたらどうなるんだ」
「フォフォフォ、我がお前の前から姿を消すだけよ。無論、三つ目の願いを叶え終えても姿を消すがな。これは我とその宝石を持つお前との契約よ」
こうして、宝石を拾った樹希と宝石の悪魔との奇妙な一週間が始まった。




