表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水滸綺伝  作者: 一條茈
第十四回 赤髪鬼、泥酔して廟に伏し 晁天王、東渓村にて義を結ぶ
106/109

(四)

 「さて……事の真相を話してもらおうか。確か、儲け話とか言っていたな?」

 とりあえず汗と酒の匂いを風呂で洗い流させ、着物を着せ替えてやれば、赤い髪の鬼はようやく一端の男らしい堂々とした姿に戻り、ばつが悪そうに頭を掻いた。

 奥の間には数名の下男たちが立ち働き、この男が万一にも主を傷つけようとすればいつでも刀を抜けるよう、気を張り詰めさせている。

 「俺の姓は劉、名は唐。東潞州から来ました」

 その語り口は相変わらずぶっきらぼうだったが、荒削りの顔には、探し求めていた人物に出会えた喜びと、尊敬の念が滲んでいる。どう見ても、その辺の押し入りとはわけが違う。

 「髪も赤けりゃ、額の痣も赤いんで、赤髪鬼なんて呼ばれてますが、兄貴の耳に入るほどの者じゃありません。ここを訪ねてきたのは……」

 劉唐は一瞬、部屋の中の下男たちに視線を巡らせ、そして唇をぺろりと舐めてから、言葉を続けた。

 「……ものすげえ大金が手に入る話を聞きつけ、知らせようと思ったんです」

 「ほう?」

 劉唐が晁蓋の人となりを多少でも知っているならば、ただの金もうけの話など持ってこようはずがない。となれば、これは、よほど大ごとになりそうな話なのだ。

 江湖を騒がせるような、大ごとに。

 「昨日は夜も更けちまって、ああ、それに確かに酔っぱらっていた。だから廟を一晩、寝床にさせてもらって、日が昇ってからあらためて兄貴に会いに行こうと、そう思って寝ていただけなのに、思いもかけずあの雷とかいう男にふん縛られちまいました。でもまさか、あの男が兄貴のところに立ち寄るとは。こうしてここでお会いできたのも何かの縁。どうか俺の拝礼をお受けください」

 がさつな成りに似合わず生真面目に四拝した男が顔をあげたところで、晁蓋はにやりと笑って口を開いた。

 「それで……その大金が手に入るというのは、どういうことなんだ?」

 晁蓋が興味を持ったことに安堵したのか、劉唐は、さきほどよりも幾分大きな声で話し始めた。

 「俺は家族もなく、幼いころから江湖を転々と渡り歩き、いろんな好漢に出会ってきたが、どこに行っても晁兄貴の名前が出ないことはなかった。だから兄貴のことはずっと前から知ってはいたんだが、なかなかお目にかかれずにいたところ、山東や河北で出会った闇商人どもが兄貴のところでお世話になったっていう話をしていたんで、やつらに兄貴の居場所を聞いて、こうして訪ねてきました。まさか兄貴を悪いほうへと陥れようなんて考えちゃいないが、そこにいるお仲間は俺を信用していないらしい。二人きりで話をさせてくれ」

 「……安心しろ、ここにいるのは気心が知れた俺の弟分たちだ。お前たち、聞いただろう。劉唐は俺を慕ってこうしてはるばる訪ねてきてくれた。そう警戒するな」

 こちらを見守っていた下男たちのひりひりとした眼差しが、主の一言ですっと和らいだのを感じたのだろう、劉唐はひとつうなずくと、話を続けた。

 「俺が江湖で聞き込んだ話によると、北京大名府の梁中書、あの偉ぶったちびが、舅の蔡京への誕生祝いに、十万貫の金銀財宝を開封東京へと送るらしい。去年も同じように十万貫の金銀財宝を運んだようだが、これを道中、どこかの賊が奪ったそうで、今も手掛かりがなく行方もわからねえとか。まあ、それなのに懲りもせずに今年もまた金銀財宝を買い込んで、六月十五日の誕生日に間に合わせるよう準備を進めているってことなんですが……俺が思うに、これは贈る方も贈られる方も、民を苦しめ私腹を肥やしてばかりのくそ野郎。この財宝は、全部不義の財に決まってる。それをたとえ……奪ったところで、お天道さまだって俺たちを咎めやしねえ」

 「奪う」という、その言葉をことさらはっきり口にした劉唐の切れ長の目が、ぎらりと光った。

 「それで、晁兄貴、あんたを訪ねてきたんです。江湖に名をはせる好漢である兄貴と手はずを決め、力をあわせてこの財宝をかっさらってやろうって。兄貴は男の中の男、武芸の腕も並外れているってのは知ってます。俺も兄貴ほどじゃあないが、腕には多少覚えがある。四人や五人のやくざ者どころか、千や二千の軍馬相手だろうと、槍一本、刀一本あればびくともしない。もし……もし、兄貴が一緒にやろうと言ってくれたら、財宝も、俺の命も、兄貴のものだ」

 劉唐の興奮したような息遣いが、ぎらぎらとした瞳が、宝塔を引っこ抜いて以来、晁蓋の中でくすぶり続けていた獣の背中をゆるりと撫でる。

 だがこの獣は、一度目を覚ませば、際限なく暴れまわる――大ごとに首を突っ込むならば、先導してくれる理性が必要なのは、さすがの向こう見ずな晁蓋でも理解できた。

 「なんとも、勇ましい話だ」

 ゆっくりと頷いた晁蓋の声に、明らかな期待と興奮が透けて見えたらしい劉唐が、そうでしょうとばかりに顎をあげる。

 「だが、ことをしでかすには一度、相談をしなければな。なにせ十万貫の財宝だ、しくじるわけにはいかん。どうだ、お前は道中難儀したろうから、いったん客間で休むといい。明日にでも、本格的に策を練ろうじゃないか」

 「じゃ、じゃあ兄貴、この話……」

 「乗らなければ、晁蓋でない」

 大きな笑い声に肩を震わせた劉唐が再び四拝するのを止め、晁蓋は彼の肩を抱いて立ち上がらせた。

 「もうすぐ、江湖の誰もが知ることになるぞ。赤髪鬼劉唐の大義をな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ