【第36話 サン・タクロースからの贈り物】
「魔王ボンキュボン様、本日は我が国王サン・タクロース17世より贈り物を持って参りました」
魔王城謁見室。めったに使われないこの部屋で魔王ボンキュボンは真っ赤な鼻が目立つノレド・ノレフと面会していた。ノレフは今年60歳になるカクーノ国王室執事。毎日のように国王サン・タクロース17世の後始末に忙しい。ボンキュボンも何度か会ったことはあるが、正式な謁見は初めてだ。彼の後ろには勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者の勇者パーティが控えている。今回、彼らは魔王と対決するのではなく、ノレフの案内役として同行してきた。
「贈り物……?」
「ボンキュボン様。(嫌でしょうが)どうか(助けると思って)お納めを」
頭を下げるノレフを前に、ボンキュボンは珍しく嫌~な顔をする。タクロース17世は国王でありながら彼女を愛人にしようとこれまで散々ちょっかいをかけてきた。淫靡な呪いをかけようとしたこともある。根がおバカというか間抜けなのでたいした被害には遭っていないが「あれほど私の好みと正反対の男も珍しい」とボンキュボンに思わせるほどの男だ。その男が持ってきた贈り物とは豪華な装飾が施された椅子だった。椅子にしてはかなり大きく、背もたれなどはボンキュボンの背丈よりもずっと高い。
「陛下が言うには、ボンキュボン様の椅子は味気なさ過ぎると」
ちらとボンキュボンが座っている椅子を見る。確かにその椅子はシンプルで、パイプ椅子でないだけマシというレベルだ。そもそも魔王城自体シンプルで装飾が少ない。味気なさ過ぎて城と言うより役所みたいだ。
「私は実用性第1なのだが」
ボンキュボンは立ち上がると椅子を品定めするよう見ながら一周する。そして賢者を手招きし
「ちょっと座ってくれ」
と椅子を勧める。賢者が嫌な顔をしつつも仕方がないと座った途端、手すり、足、背もたれなどから拘束具が飛びだし、賢者を固定する。そのまま椅子が浮き上がり、賢者を座らせたまま開いた窓から外へ飛び出し、カクーノ国首都トキョトの方へ飛んでいった。
「やはり魔法の椅子だったか」
顔色一つ変えずつぶやくボンキュボンを前に、賢者がいない勇者パーティは大きく息をついた。
トキョト中央のカクーノ王宮・王の寝室。魔法の椅子はそこへ飛び込むと、背もたれが倒れ簡易ベッドに変形、固定された賢者が無理矢理大の字にされられる。
「待っていたぞボンキュボン!」
全裸で待機していたタクロース17世が、変形ベッドに向け、そこに寝かされているものにキスするような形でダイブする。そこに寝ていたのが彼女では無く賢者だと気がついたときは遅かった。
× × ×
カクーノ国王宮・国王執務室。成果なく戻ってきたノレフと勇者達に、さっそくタクロース17世の怒声が出迎えた。
「馬鹿者! あんなオカマでは無く、ボンキュボン自身が最初に全裸で座るような流れを作れなかったのか!」
(どうやったらそんな流れを作れるんだよ)
思っても口にしない勇者パーティは黙ってうなだれた。ちなみに賢者は1人医務室で横になりうなされている。
「あの……陛下」魔法使いが恐る恐る進言する「このような場合、まず何の仕掛けもない贈り物を何度かして、相手を信用させてから仕掛けのあるものを送るべきでは」
「予は王だぞ。王からの贈り物ならば、何の疑いも持たず受け取るのが当然では無いか。ボンキュボンも予からの贈り物となれば、涙を流して喜び、直接肌でその幸せを感じ取ろうと全裸で座るはず」
勇者達は「はずじゃねえ」と言いたいのをぐっと堪える。
「あの……陛下」恐る恐る戦士が手を上げた「愛人になれというのが問題なのではないでしょうか。陛下は独身なのですから、結婚してくれ、妃になってくれと言えばボンキュボンも少しは気を許すのでは」
慣れない言い方で少しぎこちないが、周囲も一理あるとばかりに頷いた。
「馬鹿なことを、予はこの国の王だぞ。当然その妃は家柄・顔・スリーサイズとそれに相応しいものでなければならない。魔王を妻になどできるか。そもそもボンキュボンもおかしい。王の愛人になれるというならば、涙を流して喜び、靴を舐め全裸になった足を開くぐらいはして当然だ。まぁ、奴も魔王という立場上、それもなかなか出来ないのだろう。だからこそ、お前達にボンキュボンを倒すよう命じているのでは無いか。負けたのだから仕方がないと、愛人になる名目を作らせてやるのだ。
まったく……ボンキュボンもこの前予を殺してしまったことで罪悪感に取り憑かれ『お詫びにあなたの言うことを何でも聞きます、愛人にでも奴隷にでもなります。抱いて』とやってくるかと思えばちっとも来ない」
力説するタクロース17世からは、自分の理屈がおかしいと思う心がミミズの糞ほども感じられなかった。
王宮談話室。隅のテーブルで疲れ切った勇者パーティがうんざりするように顔を突き合わせていた。
「すっかり魔王討伐の目的が変わっちゃったわね。前王の仇討ちじゃなくて、力で屈服させ愛人になることを了承させるって……何なのよ」
「まあ、最初は俺達だって魔王城を襲って魔王を倒し、城内の財宝を手に入れようとしたんだから偉そうなことは言えないが」
「じゃあ、申し訳なさそうに言う?」
何とか回復して戻ってきた賢者がつぶやく。
「陛下、黙っていればそこそこ整った顔しているんだから、せめて人格がまともだったら」
「まともなら魔王を愛人にしようなんて考えないわよ」
「そんなことを言わないでください」
ノレフがお茶と菓子を持ってくると空いている席に座った。
「魔王ボンキュボンについてはあなたたちが一番詳しいのですから。どんな贈り物なら受け取ってもらえるか教えてください」
頭を下げる彼に、魔法使いはむくれ顔で
「贈り物ねぇ。あたしらの税金で魔王に贈り物されてもなぁ」
「え? 皆さん、税金払うほど収入あるんですか⁈」
ノレフに真顔で言われ、勇者パーティはそろって突っ伏した。
× × ×
「というわけで、直接本人に聞きに来た」
魔王城託児所。ここでは野菜人・果実人を始め魔王城内での魔物達の子供達が集まっている。絵を描いたり、大きな積み木で遊んだり、庭では人面蜘蛛の子供が砂遊びをしていたり、野菜人と狼男の子供がボール遊びをしていたり、ハーピィの子供達が飛ぶ練習をしていたりする。壁には大きく「使えるものは魔王でも使え」と書かれた書が飾られている。
そんな中、勇者パーティは果実人の赤子のおしめを取り替えているボンキュボンに「何が欲しいんだ?」と聞くと、彼女は迷わず
「平和」
「……もうちょい具体的に頼む」
ボンキュボンは首をかしげ、ぽんと手を打ち
「城で使うトイレットペーパーを1年分頼む。これが結構馬鹿にならんのだ。出来ればダブルで」
「他には?」
「洗剤、衣類用の生地、おしめ用の古布、ランプ用の油。そういえば食堂から皿の補充依頼が来ていたな」
幼魔物がボンキュボンの角に捕まり頭部登頂をしたり、翼を引っ張ったり、尾羽根を滑り台代わりにしているが、彼女はそれをさほど気にせず指折り希望を数えていく。
「いや、もうちょい生活臭の薄い、嗜好品か何かで」
「嗜好品より生活必需品の方が大事だろう」
「ねぇ、魔王としてじゃなく、あなた個人として欲しいものはない? 魔王城に対してではなく、魔王ボンキュボンに対する贈り物」
勇者に助け船を出すように賢者が聞いた。
「私が個人的に欲しいもの」
ボンキュボンがかすかに頬を染めた。その視線の先には勇者の姿が
「じ、実はだな」
言いにくそうに彼女はどこに持っていたのか、一枚の紙を取り出し
「ここに養子縁組の書類があるんだが、勇者にサインをしてもらえるとうれしい」
「絶対しねえ!」
即答する勇者の勢いに周囲の幼児達が驚いて逃げ出した。勇者パーティも呆れて
「……勇者を養子にするの、諦めてなかったのか」
勇者も疲れた顔で
「もっと深刻で無いものを頼む。食べ物とか」
「城の食糧自給率は103.66%だ。城で手に入らないものは直接産地に行って買い付ける」
「だから個人的なものだ。装飾品は? ネックレスとか、角飾りとか」
「自分で作る。この揚げ物シリーズの角飾りも私の自作だ」
細い鎖で角に巻き付けてあるアジフライの飾りをつまんでみせる。と、そうだとばかりに手を打ち
「税を低くしてくれと伝えてくれ。減税がプレゼントだ」
言われて勇者達は目を丸くし
「お前達、税金払っているのか?!」
「ちゃんと払っているぞ。特に固定資産税は馬鹿にならん。なぜ城があるだけで毎年税が発生するのかわからん」
眉間に皺を寄せるボンキュボンを前に、魔王が税金を納めているという事実に衝撃を受けた勇者達ががっくりと膝をついた。
数日後、改めてノレフ達がボンキュボンへの贈り物を持ってやってきた。それは
「特製サン・タクロース17世実物大抱き枕」
タクロース17世の姿(全裸)が描かれた抱き枕。しかもボンキュボンよりも心なし大きいぐらいある。当然である。実はこの抱き枕、中が空洞になっていて、タクロース17世本人が中に入っているのだ。
事情を知っている勇者パーティは、抱き枕を前に思いっきり嫌そうな顔をしているボンキュボンを見て
(あれ、絶対、中に陛下が入っているの気がついているよね)
(だからって、こっちから言い出すわけにも)
小声で話し合う勇者達。それ背中越しに聞いているノレフも、困ったように顔を引きつらせている。
「ありがとう。ありがたくもらっておく」意外にもボンキュボンは笑顔で答えた「これは枕以外に使ってもいいか」
さすがに「ダメです」とは言いにくい。ノレフも頬を引きつらせつつ「ボンキュボン様の心のままにお使いを」と答えるしかなかった。
「それでは」
と抱き枕をひょいと肩に担ぐと部屋を出て行く。どこへ行くのかと勇者達が後に続くと、向かった先は城の裏庭。そこでは野菜人や果実人達が手作りの的に向かって光線技の練習をしている。さすがに一時期ほどの混雑はないが、未だ彼らの光線熱は続いている。
「お前達、新しい的を持ってきた。遠慮なくつかえ」
備え付けの的に抱き枕を立てかけると、ロープでぐるぐる巻きに縛り付けた。
「ありがとうごさいまーす。えい、キャロットビーム!」
人参の野菜人が伸ばした指先を額に当てると、オレンジ色の人参型光線が出て抱き枕に命中する。が、相変わらず威力はショボい。当たったところがちょっとへこむぐらいだ。
他の野菜人、果実人達も面白がって光線を発射していく。さすがに練習の甲斐あって、的確にタクロース17世の絵に当てていく。
(何だ、なんだこれ。何が起こっているんだ)
威力はほとんどないが、中のタクロース17世にも何か当たっていることはわかる。それも全身に、無数に、ほとんど絶え間なく。小さく開けたのぞき穴から外を見ようとするが、角度が悪いのかよく見えない。
(なんだか全身にパチパチ衝撃が。なんだかこそばゆい。むずむずする。いかん、気持ちよくなってきた。何かに目覚めてしまいそうだ)
小さく身もだえる抱き枕をいたずらっぽい笑みを浮かべて笑うボンキュボン。
「陛下もだけど、ボンキュボンもいい性格しているよな」
「さすが魔王」
半ばあきれる勇者達に、小さなイチゴの果実人が紙を持ってきた。
「ゆーちゃたち」
見せるとクレヨンで描かれた勇者パーティの絵だ。幼子の絵らしくリアリティはないが、のびのびとして見ているとなんだか頬が緩んでくる。
「ぷれぜんと」
手を振って駆けていく果実人の子供を照れくさそうに見送る勇者たち。その背後で
「ああっ、なんか気持ちいい!」
もはや隠れることすら忘れたタクロース17世が、抱き枕のまま光線の集中攻撃に身もだえていた。
(おわり)
なんか書く度に威厳がなくなるどころか、変態になっていくサン・タクロース17世。ある意味、実に書きやすいキャラです。こいつになら何をしても良いんだぁという雰囲気があります。
いつの日かこいつが意外な一面を見せて、ボンキュボンの心に思わぬ変化が……という予定は生涯ありません。




