019「壁なき血盟団(ノーボーダーブラッズ)と魔王ナユタ・ラマ」
「……さて、とりあえず君たちは完全に包囲されている。だから、抵抗せずに話を聞かせてほしい」
ジュリアーノ国王が黒装束の集団に落ち着いた口調で話かけた。
「……へっ! この程度の人数で完全包囲なんて笑わせやがるぜっ!?」
レオンがジュリアーノ国王に悪態をつくと同時に魔力を高め始めようとした……が、
「待て、レオン!」
黒装束の集団の一人がレオンの前に立ち、自身のフードを上げた。
「「……クリフ」」
「久しいな、ライオウガ。そしてマリアも……」
レオンの前に立ちフードを上げた人物はクリフ・リトバルスキ……『英雄五傑』の武術の鬼神、クリフ・リトバルスキだった。
「お久しぶりです……ジュリアーノ国王様」
「クリフ…………なぜ」
クリフは一度、目を瞑ってからゆっくりと語り始めた。
「……昔、私が『英雄五傑』として戦争していた頃から、ずっとこの国に疑問を抱いていた。『なぜ、戦士として戦わない上級貴族の連中は戦争で辛い思いをしている民に何もしてあげないのだろう』……と。それだけじゃない。奴らは戦争中でも我先にと戦争の混乱の中で金儲けに走る…………俺たちはそんな連中の為に戦争をしてたんじゃないっ!!」
「……クリフ」
クリフが怒りの形相で国王だけでなく、周囲に向けて訴えかけるように叫ぶ。
観客席は先ほどレイと生徒会長のジュリコがかけた『硬質化結界』により透明なバリアのようなもので守られている為、観客たちも舞台にいるクリフの話を聞いていた。
「そして、そんなやるせない気持ちがつのり、気づけば俺は王国を一人飛び出していた。そして、そんな私の心の燻ぶりを打ち消してくれた存在が現れた。それが『ナユタ・ラマ様』だ」
「「「「「ナ、ナユタ・ラマ?」」」」」
俺やクレア、他の周囲の連中もその名前に心当たりがないようだった……が、ウチの両親と国王の3人は心当たりがあるのか、青ざめた顔で動揺しているように見えた。
「ク、クリフっ! お、お前、『ナユタ・ラマ』がどういう人物なのか知ってるのか?!」
父さんが青ざめた顔でクリフの叫ぶように問い詰める。
「もちろんだ。しかし、お前たちはまた知らないだけだ…………『ナユタ・ラマ様』がいかに素晴らしい人物で、崇高な目的を持っているかということを」
「ナ、『ナユタ・ラマ様』って…………ク、クリフ、お前」
「むしろ、私が今ここで顔を出して発言した目的はこれにあるっ!」
「……どういうことだ?」
「お前たちも皆、『ナユタ・ラマ様』が作った我が組織、『壁なき血盟団』に入らないかっ?! 我ら『壁なき血盟団』は、種族という垣根を超えた同胞たちと世界を作り直すという崇高なる目的を掲げた組織だ!」
クリフがさらに激しい口調で周囲に対して声を上げる。
「どうですか、ジュリアーノ国王? 人間族の代表であるあなたが我らに賛同さえすれば、この国の汚いウジ虫の上級貴族たちを一掃できますよ。いかかですか?」
クリフはジュリアーノ国王に笑顔で手を差し伸べた。
「ふ…………なるほど。クリフ君の言うことも一理あるね~」
「で、では! ジュリアーノ国王っ?!」
ジュリアーノ国王がクリフの笑顔に同調するように微笑むのを見たクリフが、期待を持って国王の名を呼ぶ。しかし……、
「だが、答えは当然ノーだ、クリフ君」
ジュリアーノ国王が完全否定をし話を続ける。
「君は『ナユタ・ラマ』を知っているといったね。そして、とても素晴らしい人物とも言った。でも、いいかい? 彼は…………魔族の王、魔王だよ?」
「「「「「ええっ?! ま、魔王っ?!」」」」」
会場にいるすべての者たちがジュリアーノ国王の『魔王』という言葉に反応し、激しく動揺した。そして、そんな中、ジュリアーノ国王が話を続ける。
「魔族はは本来、人間を陥れる為には手段を選ばない連中だ。そして、その王である魔王であれば言わずもがなだ」
「……何が言いたい?」
「はっきり言おう、クリフ君。君は騙されている……というより洗脳されているようだね」
「……」
国王の発言に押し黙るクリフ。
その時、
「いやいやいや、そんなことないですよ? ジュリアーノ国王」
「!? ナ、ナユタ様……」
クリフの前にいつの間にか黒装束のフードをとった『壁なき血盟団』のリーダーであり、魔族の王である『ナユタ・ラマ』が現れた。
「やあ、諸君! ボクがナユタ・ラマだよ」
「「「「「!? い、いつの間にっ!!」」」」」
ナユタ・ラマがクリフの前に現れたのを会場の誰もが気づかなかった…………一人を除いては。
(は、早っ……!!!)
ダイだけはナユタ・ラマの動きが…………『かろうじて』だが見えた。
「ま……魔王……『ナユタ・ラマ』」
目の前に現れた『ナユタ・ラマ』を見て、ジュリアーノ国王が青ざめている。
その『ナユタ・ラマ』の風貌は銀髪で、体型はなんと……、
「ショタかよっ!」
ダイが思わず声に出したように、目の前に現れた男はまるで『9歳くらいの男の子』だった。
「何だい、ショタって?」
ナユタがダイの言葉に反応し、話しかける。
「あ、な、何でもないっス。気にしないでください」
ダイはとりあえずそこはスルーでお願いします、と心の中で呟く。
「ん? そうか。君があの忌々しい幼女……『ミーシャ・アイゼンハワーの愛弟子』か」
ナユタは眉間にシワを寄せ不愉快な表情でダイに向けて発する。
「師匠をご存じなんですか?」
「ああ。ボクと唯一、互角に渡り合える『憎き存在』だ……」
「マ、マジっすか……」
おいおい師匠、やべーな。
魔王と互角って…………やっぱ、師匠っておっかねー。
「ダイ君、君とは一度じっくり話がしたいと思って今日、ここにお邪魔したんだよ?」
「え?」
「「「させるかっ!!」」」
「父さん、母さん、レイ兄さんっ!」
ライとマリア、レイがダイの前に立ち塞がる。
「「国王様っ!」」
同時に、生徒会長のジュリコ・ウェンポートとジュリコの付き人であるレイカがジュリアーノ国王を守るように立ち塞がる。
「やあ、英雄五傑の『戦場の暴君』と『冷徹の舞姫』……久しぶり。それと、最年少で王立軍の親衛隊長を務めるレイオウガ・エスティオット君か」
「息子には指一本触れさせんぞ」
「ダイ、私たちがあなたを守るわ」
「させないぞ、魔王ナユタ・ラマっ!」
魔王ナユタ・ラマの出現により、先ほどの余裕が消え、会場の皆が恐怖に震える中、舞台ではまさに一触即発の状況が展開されようとしていた。




