011「様々な思惑」
――『ランカーズトーナメント』前日
ルームメイトのいない寮の部屋に帰ってきたのは……レオン・リトバルスキ。
彼は新入生でありながら特別に一人部屋という『待遇』を受けていた。
自分が『英雄五傑の息子』であることをダシに遠回しに要求し手に入れた専用部屋である。
「ふ……ちょろいぜ、親父」
「ふむ」
誰もいないはずの部屋に一人、男がいた……レオンの父親で英雄五傑、『武術の鬼神』こと、クリフ・リトバルスキだ。
「親父が言っていたあの『戦場の暴君』の息子だけどよ、あいつ、全然大したことないじゃん」
ひゃ、ひゃ、ひゃ、とあざ笑うレオン。
「おい! 油断するなよ、レオン……とは言っても、まあ確かに私も様子を見ていたが大したことなさそうだな」
「だろ~?」
「だがしかし、『ミーシャ・アイゼンハワーの愛弟子』であることは確かだ。あれは実力を隠している可能性もあ……」
「いやいやいやいや、そりゃねーよ。親父の目は節穴か?」
「何だと?」
クリフが息子に目力で威圧する……が、
「冗談だよ、冗談、おーこわ」
レオンはそんなクリフの威圧にも全く動揺していない様子。
「とりあえずよー、俺的には今回の『ランカーズトーナメント』、あのダイオウガ・エスティオットは問題外として、障害となるのはおそらく生徒会長の『ジュリコ・ウェンポート』だけだと思うぜ」
「まあな……ただ、今年の一年生は『黄金世代』と言われるほど実力者が揃っていると聞く。油断するなよ、レオン」
「ふん。『黄金世代』なんて大したことないぜ。まあ、この『ランカーズトーナメント』でサクッと優勝して、その後は…………だろ?」
「そういうことだ。そして、お前にはその最初の『足がかり』となる『ランカーズトーナメント優勝』を獲ってもらう必要がある……できるな?」
「まかせとけよ。何たって俺は『英雄五傑』であるあんたの息子だぜ?」
ククク……と笑いながら言葉を返すレオン。
「……あまり調子に乗って足元すくわれるなよ」
クリフはレオンの態度に特に何も触れずにスッと姿を消した。
「それにしても良い子ちゃんぶるのもいい加減疲れるぜ、まったく。まあ、それも『ランカーズトーナメント』までの辛抱だがな、ひゃ、ひゃ、ひゃ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ジュリコ様、こちらを……」
「うむ、ありがとう」
男子学生寮三階にある生徒会長専用の部屋。
そこで黒スーツの女性から資料を受け取り目を通しているのは、アルキメド王立学院高等部生徒会長のジュリコ・ウェンポート。ランキング1位の男。
「そうか、リリカの奴も……」
「はい。お嬢様からもダイオウガ・エスティオットの捜査を頼まれましたが、お嬢様には誰でも探せる程度の調査資料だけをお渡ししてあります」
「ありがとう。ということはレオンの目的やダイの正体についてはリリカはわからないということだね?」
「はい。問題ないかと……」
「よかった。『私のリリカ』を巻き込みたくはないからね」
「……はい」
そう言うと一度手元に合ったティーカップに口をつけながら少し考え込むジュリコ。
「……レイカ」
「はっ!」
「引き続き、レオンの警戒を頼む」
「かしこまりました。ダイオウガ・エスティオットのほうはどうしましょう?」
「予定通りに進めてくれ」
「かしこまりました。それでは」
そう言うと、レイカという黒スーツの女性は音もなく姿を消した。
「今年の『ランカーズトーナメント』は大いに盛り上がりそうだな、フフフ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいな、スタートダッシュが肝心だぞ!」
「わかってるって、ラルフ」
「中等部同様、高等部でも下剋上やったるっ!」
「ああ、生徒会長のジュリコ・ウェンポートを…………喰ってやるぜっ!」
息巻くのは中等部で『黄金世代の四天王』と言われた四人。
彼らは初等部から上がりたての中等部一年の時に中等部版の『ジュニア・ランカーズトーナメント』で当時の二年生・三年生を押しのけてトップ10に入った実力者だ。
「くくく……楽しみだぜ、ランカーズトーナメント」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ランカーズトーナメント……」
一人、男子寮の屋上で剣術と武術の修練を行いながら呟く男は……シャロン・エクレール。
「新入生でこの学院のトップ10に入ることができれば私の力を証明できる。そうすれば、お父様も大喜びしてくれる……はずっ!」
武術主体の剣術『武術剣士』の技の一つ『乱連撃』を鋭く放つシャロン。
「ふう……」
大きく深呼吸をしたシャロンは剣を置き、タオルで汗を拭く。
「それにしても……」
一通り、汗を拭いた後、剣を鞘に納めながらシャロンは呟く。
「ダイオウガ・エスティオット……『ミーシャ・アイゼンハワーの愛弟子』ではない、と自ら否定してはいたが本当にそうなのだろうか?」
シャロンもまたダイのその発言について疑いを持っていた。
「普段の授業では特に変わった様子はない。実力的にも剣術・武術・魔法も一般的より少し上くらいな感じで実力者ということでもない……のだが」
シャロンが一息置いてから言葉を続ける。
「なぜだろう……ダイに底知れない力を感じてしまう。例えば、レオン・リトバルスキの件……ダイはまるで関心が無かった。世間一般の常識がズレている部分が多少あるとは言え、『ミーシャ・アイゼンハワーの愛弟子』かもしれないという人物のことであれば誰だって興味があるはず。なのに、ダイは……」
シャロンは自分の推論を口にするのに躊躇いながらも言葉を紡いだ。
「もしかしたら、ダイが本物の『ミーシャ・アイゼンハワーの愛弟子』なのではないだろうか。もし、そうだとすればダイのあの態度も辻褄が…………合う!」
シャロンは自分の言葉に確信に近い何かを感じていた。
「まあ、いずれにしても、それは明日になればわかることだろう……」
そう言うと、シャロンは片づけをしてドアへと向かった。
「さて……ウソをついているのはどっちかな?」
シャロンは一人ほくそ笑みながら屋上を後にした。
様々な者たちの様々な思惑が絡む中、いよいよ『ランカーズトーナメント』の幕が開ける。




