いいことって大体は思い通りにいかないよね
お久しぶりです。いや〜元号変わりましたね。令和ですね。そんなめでたい連休中、皆様どうお過ごしでしたか?
私は仕事と資格の勉強と●●●ーですかね。
「リコル・ガルトさん。大至急生徒会室まで」
放課後、教室のスピーカーから聞こえてきた声が俺を呼ぶ。
その声は女の人のもので、何となく聞き覚えのある声だった。それが俺を生徒会室に呼ぶってことは、多分ジーグルの未来の奥さんで間違いないだろう。
っんだよ。こっちは忙しいの。お宅の旦那さんから貰ったおかずでいっぱいする予定なの。ナマモノなんだよ、早くお家に帰っていっぱいいーっぱいしたいんだよ。なあ? ジュニア。
「リコルさん、何をしたんですか? フリールちゃ――生徒会長に呼び出しされるだなんて」
そんなことを考えているとホンモノのおか――ルミスちゃんが心配そうに俺のところへ駆け寄ってきた。今日のおかずが一品追加された。
「んー? 分かんねー。けど、多分ジーグルのことだろうよ。じゃないと、俺と会長接点無いし」
やっぱりさっきの声は彼女のもので間違いなさそうだ。
俺はピンク色で大半が埋め尽くされた脳で少し考え、ルミスちゃんにそう返す。
正直言って、今日はもう何考えても白く濁る。さっきの授業の内容なんてベトベトでヌメヌメだ。もう早くお家に帰って拭き取りたい。
そういう訳で無視だ無視。
あいつのために俺の貴重なお楽しみの時間を割けるかっての。
俺は今も訝しげに見つめるルミスちゃんに、「じゃあ、また明日」って伝え、教室を後にしようとした。
「もし来なかったら……分かってますよね? 貴方が何をしていたか」
ピタリ、と。
足が止まる。
スピーカーを見上げれば、俺を見下ろしながら笑ってる様子が容易に想像できる。
「リ、リコルさん……?」
後ろで聞こえてきた声に思わず、肩がビクッて跳ね上がった。何だかすごい勢いで汗が背中を濡らす。
「……やっぱ行ってくるわ。ジ、ジーグルが心配だしな……」
振り返ることをせず、俺はルミスちゃんに震える声でそう言うと、一目散に生徒会室まで駆け出した。
――今日何度目かのダッシュをして。
俺は呼び出された場所までたどりつく。
やはり外からでは中を伺うことは出来ない。けれども、何だろう……この部屋の中からすごい禍々しいというか、負のオーラが滲み出ているというか。とりあえず、物凄く入りたくない。
いや、その前に。
何であの女が知っているんだ。っていうか、どうやって知り得たんだ。
俺達を見送ってから後を追ってきたのか――いや、だったら俺もジーグルも気付いていたはずだ。なら、誰かにチクられたのか。いやそれとも――ああ、もう。分かんねー。
俺はピンク色と白濁色が混ざった頭をフルに使ってみるが、答えになりそうな考えが浮かばない。クソっ、ジーグルがここに居りゃ何が原因なのか分かんのによ――ん?
そういや、何であいつはここに居ねーんだ? っていうか、何で俺だけ呼び出されてんだ? ――ま、まさか。
繋がった。それはもう、脳内のピンク色と白濁色が交じり合うように。
あいつ――俺を売ったな?
おそらくこうだ。
保健室に寝かせたジーグル――いや、ジーグルの鼻血を見たあの女は誤解したのだ。こいつ浮気していると。
まあ、無理もない。ルミスちゃんのを見て、鼻血を出さない男なんていない。俺だって鼻血じゃないけど、ドロッとしたもんが出る自信がある。寧ろ、自らコスって出す。
それに激怒したあの女はジーグルへ詰め寄り、何をやっていたのかを吐かせたのだろう。
言い訳に困ったあいつは全てを俺に押し付け、今はどこかで高みの見物をしているに違いない。あいつの笑った顔が容易に想像出来る。
クソっ。考えたら、なんか無性にイライラしてきた。
俺は感情に任せ、この禍々しさを纏った生徒会室を思いっきり開け放った。
「ジーグル! てめぇ!!」
乱暴に開け放った扉が大きな音を立て、止まる。
居ないと分かっていながらも、俺はあいつの名前を叫ぶ。
だがしかし。
そこには二人の人間が居た。
「た、たすけ……」
「あら、思ったよりも早く来てくれましたね」
正座をしながら太ももにダンボールを乗せている、何とも間抜けな格好をした男が一人。何してんだこいつ。
光のない虚ろな瞳で俺を見て、助けを求めるように手を伸ばしてくる。
もう一人は、右手に持った銀色で先端が赤い教鞭でペシペシと左手を叩いて鳴らし、淑やかに佇む女の姿。
俺を見据えると、静かに微笑む。
そんな光景を目にした俺は、急いで頭を下げた。
「すみません。間違いました」
まったく、まさかプレイ中だったとは。しかも、とんでもねえマニアックでアブノーマルなもんおっ始めてんじゃねーかよ。ま、まさかこれを見せつけるために俺をっ!?
どうなってだよ、生徒会っ! いや、学校の風紀はっ!? 仕事しろっ!!
「うふふ。大丈夫ですよ、何も間違っていませんし何も乱れてませんよ」
パシン、と。踵を返そうとした足元で何かが鳴く。
振り返ると、微笑みながら教鞭を奮うあの女の姿がそこにはあった。――っていうか、教鞭ってそんな風に使うもんだっけ? そんな伸びるもんだっけ? まるで……
そんな疑問をグッと呑み込み、俺はその女――フリール会長に言った。
「いや〜、俺にそんな趣味も無いっていうか、ジャンルが違うっていうか……愛する二人の営みを邪魔しちゃ悪いな〜って……」
「ふ〜ん。覗きの趣味はあるっていうのに?」
――うん。やっぱりバレてる。やっぱり、こいつ俺を売りやがったな。
俺はジーグルに視線を移し、睨むような目で見据える。
「ち、ちがう……ぼ、ぼくはなに……も」
「ジーグル? 今の貴方に発言権はありませんよ」
俺の言いたいことが伝わったのだろうか、ジーグルは力のない声でそう否定する。
そんなジーグルへ、フリールは持った教鞭を使って頭を叩いた。すると、さっきよりも悶えるようにジーグルは息を荒くする。うわぁ……そんなハードプレイを他人に見せつけるなんて……この夫婦、やっぱり――
「何故私が可愛いこの子にこんな酷いことしていると思いますか?」
苦しそうに肩で息をするジーグルを哀れむように見ていると、フリールがそう尋ねてくる。
いや知らねーよっ!? 知りたくもねーよっ!! お前らのそんなプレイの内容も、そこで声を上げてよがってる変態のことも!!
こんな酷いこと? 違うだろ。寧ろ、そいつにとってはご褒美だろうがっ!! ここ生徒会室だよねっ!? 性と貝しかないんだけどっ!? いい加減にしろッ!!
「どうやら、分かっていないようですね」
分かんねーよっ! 一生分かってたまるか。
そう叫びたくなる気持ちを押さえていると、フリールが粛々と説明を始めた。
「この学校――ヴァルハラ学園も誕生して早二ヶ月。最初は戸惑いながらも規律正しく過ごしていた生徒達でしたが、次第に慣れ始めたのか、最近では校則違反が目立つようになってきました。それを良くないと思った我々生徒会は、今週から違反生徒を取り締まろうと朝や昼、放課後等を使い見廻りをしていたのですが――あろう事かこの子ったら、誰かさんを誘って覗きをしていたとか」
そう言いながらフリールはジーグルに視線を移す。
その動作に合わせて、ジーグルは俯いて目を逸らす。
「はあ……。そういう訳で、私はこの子に罰を与えなければなりません。そしてそれは、その誰かさんにもね」
一呼吸おいて。
ペシペシと教鞭を鳴らしながら、フリールが俺にそう微笑みかける。
――いやいや。
「何が、そういう訳だっ! それはお宅ら生徒会の話で、俺関係ねーじゃんッ!!」
今度こそ俺は感情のままに言葉を投げつけ、くるりと足を翻す。
冗談じゃない。何が悲しくてこんな間抜けな格好を俺もしなくちゃならねんだよ。
「や、やめろ……さ、から……うな」
踵を返す俺の耳にジーグルの掠れた声が届く。
それを振り払うように無視し、俺は足を進めるのであっ――って、あれ? 足が動かねえ。
「――先輩には敬語を使うようにと教わりませんでしたか」
後ろから聞こえる淑やかな声と共に、トンッと俺の右肩を何かが優しく叩いた。
目を移せば、丸みのある赤色が見える。え? やっぱりこれって、クリ――
「なら、ついでに私が教えてあげましょう」
「な、何をですか……?」
俺の思考を遮るようにフリールが間髪入れずにそう続ける。
俺は恐る恐る後ろを振り返る。するとそこではフリールが、笑顔で俺を見据えていた。
そして、目が合うとゆっくり口を開き、こう言った。
「決まっています――そのふざけた思考で私に口答えをするとどうなるかってことです」
そう言われると、肩に乗っけられたお豆が光り出す。その瞬間、俺の身体がまるで鉄塊でも付けられたように重くなっていくのであった。
◆◆◆
「――なあ。ちょっと聞くけどさ」
「……何だい?」
あれからしばらく。
フリールは放課後の見廻りに行ったきりまだ帰って来ない。
この場に俺とジーグルだけになってからどのくらい経ったのかは分からない。
そんな中、ジッと座っているのにも限界がきた俺は、隣に座っているジーグルに尋ねた。
「あの女、人の心でも読めたりでもすんの?」
「……だから言ったんだ。やめろ、逆らうなって。おかげで僕の計算が狂ってしまった。どうしてくれるんだい?」
「知らねぇえよっ! っていうか、だったら先に言えよっ!!」
「一体どのタイミングで言えたっていうんだい。バカか君は」
「てめぇは自分の格好を見てから言葉を選べ。バカはてめぇの方だ、大バカ野郎」
目を向ければ、依然として間抜けな格好をしている。
変わったことといえば、太ももに抱えているダンボールがもう一つ追加されたということくらい。
「……その言葉、そのまま返すよバカ童貞」
「童貞は関係ねえだろっ!」
その横で俺もダンボールを乗せてはいる。しかし、こいつと違って俺は一つしか乗せてない。なので俺はバカではない。童貞ではあるが、断じてこいつと一緒ではない――誰が童貞だ、クソ野郎。
いや、そんなことより。
冗談のつもりで言ったものの、まさか本当に心が読めるとは。
さっきした会話、何かがおかしい気がしていた。まるで俺の言葉に返事をしていたというよりは、俺の思考に反応していたように感じてたからな――ん? っていうことは……さっき俺が考えていたこと全部筒抜けだったってことか!?
俺のピンク色の頭ん中も? ベトベトでヌメヌメの思考も? それらが合わさったスケベな心もっ!?
えぇ……。そう思うとなんかすげぇ恥ずかしくなってきたんだけど。気まずいんだけど。見られながらするって、こんな感じなのか。それを知るには俺はまだ未熟。
「それに加えて、こんなとんでもねえ魔法まで使いやがるとは」
「……たしかにこれは厄介だね」
思考と視線を戻せば、嫌でも目に入るこのダンボール。
端から見てる分にはただの間抜けな絵面だったけど、実際膝に乗せるとかなりの厄介物だった。だってこれ――すげぇ重い。
「重力魔法、だよな」
「会長の得意魔法だ。これを使われたら最後、僕達に抗う術はない」
姿型はただのダンボールにしか見えない。実際、太ももに乗せた時までは、ただの空のダンボールだった。
けれどもフリールが教鞭でそれを叩くと、まるで石にでもなったかのように俺の太ももにチン――鎮座しやがった。
「ということは、あの時急に身体が重くなったのも」
「そういうこと。だから言ったんだ、やめろ、逆らうなって。そしたら僕達だって、今頃はこんなバカげたことから解放されていたっていうのに」
「だから、それをさっさと言わねえお前が悪いんだろうがあ!」
ほじくり返すようにジーグルが繰り返す。
しかしジーグルにとって、それだけ俺のとった行動が気に入らなかったようで。
聞けばあの状況、俺が唯一の救いだったらしく。
ジーグルが言うには、二人で反省の色さえ見せていれば、こんなことになっていなかったとか。
「まったく……せっかく僕があそこまで演技していたのに」
助かる方法がそれしかないと早々と感じ取ったジーグルは、わざと辛そうにして反省を色を出していたとか。現に今のこいつからは、さっきまでの疲労した様子は伺えない。
「いいや、俺には演技に見えなかった。本当に喜んでるように見えた」
しかしながら。
俺のとった行動――というか思考が、どうやらフリールの逆鱗に思いっきり触れてしまったらしく。今は二人揃ってこんな状況になってしまったとか。
「……君と一緒にしないでもらえるかい? 君と違って僕はそんな下品な妄想はしない」
「ハッ! よく言うぜっ。その妄想でお前は鼻血をブーしたんだろうが」
「……あ、あれは違う!」
「はいはい。言い訳すんな。分かるよ〜、すっごい分かる。俺だってあんな可愛い子のブラとパンツが透けて見えていたら、違うところからビューっとするもん」
「うわぁ……」
少し言い合いになりながらも。
俺がそう言うと、ジーグルはわかり易く顔をしかめ、ドン引きしていた。んだよ、その顔は。てめぇの方がヤバいことやっていただろうが。
そう思っていると、さっきまでドン引きしていたジーグルの顔がまるで勝ち誇ったかのような笑みに変わり、投げ捨てるようにこう言った。
「何となく分かった。君が童貞の理由が」
――ブチッと。
俺の中で何かが切れるような音がした。こいつ、言ってはいけないことを。
「何勝ち誇った顔してんだてめぇはっ!! 奥さんが居るからって調子乗ってんじゃねーぞこらぁ!!」
「はあっ? 何キレてんの? っていうかさっきから君は何を言ってるの? 何で僕の奥さんがあんな乱暴女なの? もしかして君――本当は羨ましかったんじゃないの?」
「ハアッ!? 誰があんな女王様風の鬼嫁を羨ましいって言った!? あんなことされて喜ぶのはてめぇくらいなもんだっ!!」
「だから喜んでなんかないって言ってるじゃんっ! か……」
言い合いが言い争いになって。
俺達はお互いに夢中になっていた。だからこそ、気付いていなかった。背後の気配に。
「反省中だというのに楽しそうですね。私にも教えてくれませんか――その暴力的で女王様風鬼嫁のお話を」
やべぇ……。もしかしたら俺も人の心読めるようになったかもしれない。
だってこんなお淑やかな口調なのに、怒ってるんだもん。心の怒号が聞こえてくるんだもん。
っていうか、いつから聞いてたんだっ!? 全く気が付かなかったぞ!?
そんな俺の思考を読み取ったのか、フリールが俺とジーグルの肩をトンと叩いて言った。
「そうですねえ……。貴方達が下品な妄想を語ってるときですかね」
だいぶ前から聞いてんじゃんか!?
いや――考えれば、この女には色々とバレてるから別に今更って感じか。何だダメージねえじゃん。
「……そう思うのは構いませんが、彼女にバレて良かったんですか?」
そう思っていると、フリールが何やら意味深にそう言って扉の方を見る。
わけも分からず俺もその方向に目を向けると――え? なん……で?
「さっきの話、本当なんですか」
そこにはルミスちゃんが俯きながら立っていた。
ルミスちゃんは小さな声でそう言うと、俺の目の前まで歩いてくる。
俺の目線がルミスちゃんのスカートを捉える。うおっ!? 生足ッ!
今の俺ならルミスちゃんの下半身を合法的に見れんじゃねーか! おかずがまた増えまっせ――なんて思ってる場合じゃねえッ!!
どうする、この状況何て説明すればいい。ダメだ、何も思い浮かばねー。
俺がモタモタと色々考えていると、ルミスちゃんが感情を爆発させたように大声で言った。
「見損ないました。最低ですっ」
その言葉に俺はガバッと顔を上げる。その瞬間――パシン、と乾いた音が響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いや〜。ああでもない、こうでもない、をしていたら何時の間にか元号変わってましたね。
いや、これでもマシになったんですよ?
最初書いた文の半分以上が自主規制でしたから。




