貰ったもんはその日に使いますよっと
ブックマークありがとうございます。
なんか、色々書いては消してを繰り返していたら、すんごいことになりました。
その日の昼休み、俺は走っていた。
この時間にもなると、朝の穏やかさなど微塵も感じないくらい、廊下は人でごった返している。その大半はおそらく、購買やら食堂やらに向かっている最中だろう。
それをかき分けながら、俺は前へ前へと突き進む。
しかし目の前の階段を上ったところで、そんな作業も必要がなくなった。
理由は単純。大半は一階に目的地があって、三階には用事なんてないからだ。
階段を上り終えた俺は、急かす心の欲求を宥めながら、今まで激しく動かしていた足の勢いを徐々に殺していく。そして、その足で少し暗めの廊下を奥へと進む。こんなつまらないことでいちゃもんつけられたら、堪ったもんじゃない。
足の勢いが完全に死んだ場所は、この階で唯一灯りの点いてる教室の目の前。
一応、覗いては見たものの、魔法障壁が貼られてる扉の磨りガラスからじゃ中は窺えない。
しかし、あいつがここに居るのには間違いない。ルミスちゃんが言うんだ。間違ってる訳がない。例え居なくても、そん時は引き摺ってでも間違いを正してやる。
俺はそんなことを思いながら生徒会室の扉をノックした。
「開いてますよ」
中から聞こえてきたのは女の人の声。クソッ。昼休みまで女の子と一緒だなんて。これだからイケメンは――ちょっとそこ変われ。いや、変わって下さい。
扉を開けると、真っ先に目に入ったのは小さくて可愛らしいピンク色の弁当をつついている黒髪の女の人。いっつも思うんだけど、女の子ってそんな量で足りんの?
なんて思いながら、俺はその女の人の向かい側で黙々と弁当を食べているジーグルに声を掛けた。
「ジーグルッ! ここにいやがったか」
掛けた言葉にチラッと顔を上げたジーグルだったが、代わりに返事をしたのは箸が鳴らしたアルミカップだった。こ、こいつ無視しやがって。
そんな俺達のやり取りを見て、その女の人は呆れたようにため息を吐いた後、ジーグルへと声を掛けていた。
「ジーグル。呼ばれてますよ?」
「会長。僕には聞こえません」
「こらっ。なんてこと言うの。私はそんなこと言う子に育てた覚えはありませんっ」
「会長。僕は貴女に育てられた記憶はありません」
「――そういうこと言うと、もうお弁当作ってあげませんよ?」
わーお。綺麗な笑顔なのに、こっわ。
これにはジーグルも堪えられなかったらしく。まるでボディブローでも喰らったように言葉を詰まらせていた。
でもお二人さん……ちょっといいですか? 俺の存在忘れてません? そんな見せつけるようにイチャつかれたら泣きますよ? いい歳した高校生が本気で泣きますよ? ――っていうか、何ちゃっかり手作り弁当アピールしちゃってんの? 所謂あれですか、愛妻弁当ってやつですか。これだから、イケメンは――羨ましすぎんだろっ! 死んじゃえよクソがっ、うわぁーん。
「――ごめんなさいね。この子人見知りで」
「い、いえ」
「会長。貴女は僕の母さんか何かですか?」
俺が心で号泣していると、ジーグルの彼女――いや、おそらくそれ以上の関係であろう女の子が立ち上がり、俺の方へ近づいてきてニコッと笑い、お辞儀をした。
「改めまして、生徒会長のフリールです」
淑やかに笑った姿と綺麗なお辞儀の仕方。
初めて会った俺でも、フリールと名乗った彼女がどんな人なのかが分かってしまう気がした。
少なくとも、仏頂面のこいつとは正反対だっていうのは分かる。
――いや、そんなことより。
俺の目は彼女を捉えたまま、決して離そうとしなかった。
その淑やかな立ち振る舞いに目を奪われたからか? 断じて違う。
――たんだよ。そんなに大きい訳でもないに……。揺れたんだよおぉぉっ!!
初めて会った俺でも分かってしまう。否ッ! 俺だからこそ分かってしまうのだ。幾多の研究と数多の数を観察してきた俺だからこそっ! その程度の夏服など最早――無に等しいっ!
「あ、どうも。よろしくお願いします」
俺は目線を固定したままお辞儀を返そうとした。もう少し近くで見せて下さい。恵まれない童貞に慈悲を下さい。ムフフ
しかし、俺の目を遮るかのように目の前を何かが通過していった。
俺は通り過ぎていったものを目で追った。すると、そこには箸が壁にめり込むように突き刺さっていた――え?
「……あー、ごめん。手が滑った」
壁からプスプスとでも聞こえてくるような気がした。
反対側に目線を移せば、ごめんなんて微塵も思っていない仏頂面がヒラヒラと手を振っている。こ、こいつ……。
そんな様子のジーグルを見て、フリールがおむねと腰まで伸びた髪を揺らしながら詰め寄った。
「こらっ! せっかくお友達が遊びに来てくれたっていうのに」
「会長。僕にこんな素行不良の友達はいません」
「んもう。貴方はどうしていつもそうなんですかっ!」
「いや、ですから――」
「言い訳なんて聞きたくありませんっ! いいですかっ! 貴方はまず――」
――クソっ。今度は痴話喧嘩ですか。他所でしろ、他所で――あれ? 考えてみれば、俺の方が余所者なんじゃ……。
「で、僕に何の用だい? っていうか、助けてよ。と、友達ならさ……」
どうやら、やっと解放されたらしく。
完膚なきまでに言い負かされたジーグルは、わざとらしい咳を一つした後、一部始終を眺めていた俺に尻窄まりにそう言ってきた。いやお前、さっき自分で何て言ったか覚えてるか?
「わ、わりー。いや、それよりもジーグル、今すぐ来てくれ。」
「え? ……あっ」
反射的にそう言いそうになった口の動きを無理やり変えて。
俺はジーグルの手を強引に掴んで、この棟の最上階――屋上へと駆け上がっていくのであった。
「ジーグルー、ちゃんと仲良くするのよーっ! お友達の方もお願いしますねー。あと、廊下は走っちゃだめですよー」
俺達を見送るように手を振るフリールに手を振り返しながら。何て言うか――ほんとに母親みたいな人だな、この人。
◆◆◆
「どうだ、いい景色だろ」
扉を開ければ、何時もの静けさが俺達を迎え入れてくれて。
だけども、それを覗き込む太陽が若干うるさい気がして。
それでも、この前みたいに泣き叫んでるよりかはマシか、とか思ってみたり。
そんな太陽の陽を遮るように目を覆いながら、怪訝な顔でジーグルが聞いてきた。
「それで? 僕を此処に連れてきた理由は一体?」
「ん? まあ、そう焦んなよ」
俺はそう返した後、歩を進めていく。
コツン、コツンと響く足音は、打ち破った空虚が漏らした悲鳴にも聞こえた。見方を変えれば、それはまるで新たな生命誕生の予兆にも思えた。
「何もないなら僕は帰らせてもらうけど」
「ジーグル」
足を止めた先でジーグルを手招きして呼ぶ。
それを見て、ジーグルはしぶしぶとでもいったようにゆらゆらとこちらへ歩いてきた。
そして、ジーグルは俺の隣へと並び、俺の見ている方向へと目を向けると、さっきよりも不思議そうに言った。
「……君はこんなものを僕に見せてどうするつもりなの?」
目線の先には、俺達が今居るこの共用棟と一対に並ぶクラス棟。
ボーッと眺めるだけなら、ジーグルが言うようにこんなもの、だ。けど――おっ! いました! 良かった、まだいらっしゃいましたよっ!!
「ジーグル」
俺はクラス棟の二階の七組の教室――俺の教室をジッと見据えながらクッと顎で指し、その方向を見るように促す。
そこにはお昼ご飯を食べ終わったルミスちゃん達が机を囲んでいた。
おそらく、マイヤやユーちゃん達と楽しくお喋りでもしているのだろう。欲は言いませんから俺もハメ――じゃなくて。その輪に挿れ――混ぜてくれませんか。
しかし、悲しいかな。
この距離では、マイヤ達どころか、俺の(仮)さいかわルミスちゃんのお姿をぼんやりと捉えるのがやっとだ。
いや、ほんとのこと言うと、ルミスちゃん達がどこでお昼ご飯食ってるか確認してこなければ、俺はさいあいの彼女を認識することも出来なかったであろう。
そんな人間に下着が透けて見えるなんて夢のまた夢。クソっ、侮っていたよ。その夏服を。
「見えるか?」
「……ルミス・フライアがどうしたの?」
「見えるのかっ! どんな顔してる?」
「……笑ってるね」
しかしどうだ。
隣に並ぶこいつはルミスちゃんを捉えただけではなく、表情まで見えているではないか。やめろっ! それ以上俺の(仮)ルミスちゃんを視姦するんじゃないっ! この女の敵ッ! 変態覗き魔ッ!!
って違う違う違う。クールになれ、俺。こいつは敵じゃない。寧ろ、協力者だ。俺に真実を見せてくれる協力者だ。
俺は熱くなる心にそう言い聞かせ、落ち着かせようとする。
しかし、掛けた言葉は逆に心を高ぶらせて。まるで、この瞬間を待っていたんだっ! とでも言いたげにバクバクと、より激しい動きへと変えていく。
「なあ、ジーグル……俺達友達だよな?」
「は? ……そうだね、不本意だけど」
今の俺にこいつの悪態を気にする余裕などない。
この高ぶりを悟られないように平静を保つのでやっとだからだ。
抵抗するんじゃないっ。言っちゃえよっ!
魂が叫ぶ。どんな言葉よりも雄弁で、どんな言葉よりも染み渡る言葉を。
俺はそれにゴクリと喉を鳴らす。そして魂の叫びをそのままジーグルに投げ掛けた。
「なあジーグル――――な……何色だった?」
魂が産声を上げた瞬間だった。
「……は?」
それなのに、こいつは固まっていた。何を言っているのか分からないとでも言うように。
しかし、ようやく状況を理解したのか、ジーグルの表情が変わっていく。そして、まるで道端に落ちているゴミでも見るような蔑む目で俺を見て、言った。
「……まさかこんなものを見せるために連れて来たの?」
「こ、こんなものとはなんだ、こんなものとはっ! いいか、お前には分かんねーかもしれないが、俺にとっては――」
「別に、興味ない」
俺の力説を、ジーグルは聞くに堪えないとでも言うように無理矢理話を終わらせ、踵を返そうとした。
「ま、待ってくれ」
その動きを止めるように、俺はジーグルを右肩に手を掴む。
「俺にはお前しかいねーんだよ。お前だけが頼りなんだよっ!」
あと一歩ってところまできてんだ。こんなところでせっかくのチャンスを逃してたまるかっ。もうお預けは御免蒙る。
そんな俺の思いを振り払うようにジーグルは俺の手を払い、足を動かす。
「……君くらいだよ。こんなくだらないことに僕の目を使おうとしたのは」
帰ろうとした足がくるっと俺の方を向き直す。そして、呆れたようにそう言った。
「一つ聞くけど、バレたらどうするつもりなの?」
さっきまで見据えていた方向をじっと見つめ、問い掛けてくる。
俺はその問いかけにニッと笑い、こう返した。
「ハッ! バレるわけねーだろ。俺とお前がく――」
「リコーッ!!」
組めばどんなもんだって見透か――って、え?
俺は慌てて呼ばれた方向へと目を移す。
鉄柵に顔を押し当てながら目にしたのは、窓から前のめりになって、手をブンブンと振っているマイヤだった。
「マ、マイちんっ! 危ないよっ!?」
「ルミも見てみろよっ、リコがいるぞ。」
「え? んー……よく見えないよ」
「う〜ん、マイヤちゃんよく見えるね〜」
「ったりめーよ! って、ああっ!?」
……んー?
鉄柵にぐいぐいと顔をめり込ませながら目を凝らしてはみるが、何が起こってるかがいまいち掴めん。マイヤが何やらやってるようだが……っていうか、あいつよく見えんなー。――ん? あ、あれはルミスちゃんじゃないか。
ルミスちゃんが俺に手を振っていた。
俺には分かる。あれはルミスちゃんで間違いない。例え、ぼんやりとしか見えなくても俺には分かんだよ! これを愛の力という。
いや、それよりも今は。
さあ、ジーグル。今がチャンスだっ! お前の力を存分に発揮するんだっ。
俺は目線でそう伝えようとした。しかし――
「ジーグルッ!?」
俺が目線を送った時、まるでアッパーカットでも打ち込まれたかのようにジーグルの身体は後ろに傾いていた。
鼻から流れた血が綺麗な弧を描いて垂れ落ちる。
重心が歪んだジーグルの身体は地面に吸い込まれるように倒れ込む。
俺は急いでジーグルのもとへと駆け寄った。
「おい、どうした!? 何があった!?」
掛けた言葉に虚ろな目をした顔を上げる。そして、手を震わせながら俺の手を握り、絶え絶えの言葉でこう言った。
「……し、白とく……ろの……すとら……は……いよ……」
それだけ言い残し、ジーグルは意識を手放した。その表情は不思議と幸せそうだった
「ジーグル? ジーグルッ!? しっかりしろっ! せめて――」
せめて上と下、どっちがどっちだかを教えてくれえぇぇええっ!!
◆◆◆
ヤバいヤバいヤバい。
俺は走っていた。
食堂や購買から帰ってくる人並みに逆らいながら。
「どけどけどけえっ!」
背中には鼻血を垂らしながら満足そうに気を失っているジーグルを担いで。
結論から言うと。俺達の作戦は失敗した。
結局、俺はルミスちゃんの下着がどっちがどっちってのが分からず終い。ジーグルはジーグルでこんな状態。っていうか、お前耐性無さすぎんだろ。いっつもあんなイチャイチャしてるくせに。お前の未来の奥さんは下着すら見せてくれないのか。これがせっ⚫すレスってやつなのか。お昼時間も生徒会は規律正しく。そんなおかずは認められません、校則違反ですってか。
なんて思ってる場合じゃねえっ!
屋上からこいつを担ぎ出し始めた時には既にマイヤ達の姿が見えなかった。
あいつのことだ。おそらくだが今頃俺達を追って屋上に向かっているだろう。
「じゃまじゃ、ボケえぇ!」
だからこそ俺は全力で逃げる。
時には楽しくお喋りしている生徒を、時にはたむろしている素行不良生徒を蹴散らしながら。
ルミスちゃん達と出会さないために。
それにしても。
結果的には失敗はしたが、得るものもあった。
それはルミスちゃんの下着の色だ。
黒と白。どっちが上でどっちが下なのかは分からん。けど、見方を考えればどっちも楽しめる訳だ。そう、俺の脳内ルミスちゃんにお願いしてな。今夜は捗りまっせっ!
「はあ……はあ……着いた」
全力で走ってきた場所は保健室。
久しぶりにこんな息切れするくらい走った気がする。決してこの息の荒さには他意は無い。
「失礼しまーす……」
小声で言い、中へ入る。けど、誰もいない。
ま、いっかと思いつつ、ベッドにこいつを寝かせる。クソっ、人が苦労して撤退してきたのに、なんちゅう顔してやがる。
だらしない顔に苛立った俺は、こいつの鼻に無理矢理ティッシュの詰め物を押し込んでやった――イケメンは何やってもイケメンだった。
それでも尚、幸せそうに眠るジーグル。それを暫く眺めていると昼休み終了を知らせる鐘が鳴った。
今日の授業もあと二時間。
俺は既に満足でおっ――いっぱいに満たされた心に喝を入れるように、顔を叩いてから教室へと戻るのであった。いや〜今夜はほんとにお楽しみでっせっ!
何とか更新速度上げたいんですがねー。そうすると、黒丸だらけの文になっちゃいますからねー。
けど、頑張って書いて行くんで、どうぞご贔屓に。




