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13/18

風邪はばっちり治ったようで

ブクマありがとうございますっ!

何とか書きましたけど、あれです。

 週末の土砂降りなんか忘れたように、青空がどこまでも広がった休み明けの朝、俺は目を覚ました。

 起きた時には、週末の風邪なんて忘れちまったように体調もすっかり回復。寧ろ、起きた頃には俺の目覚めを待っていたかのようにマイジュニアが首を長くして自己主張していた。そう焦るな、俺だって早くルミスちゃんに会いたいんだ。

 急かすジュニアを、優しくデリケート――まるで赤ん坊の頭でも撫でるかのように触って言い聞かせる。だ、誰が赤ん坊サイズだっ。

 説得を性――成功させた俺は、シャワーで念入りに身体を洗い、学校の準備をした。

 準備が終わると、登校前に一服。これがないと、何というか。ヤル気が起きない。いや、ヤルことはヤッたけども。


 それらを全てを終え、学校に向かったまでは良かったんだが、昇降口で靴を履き替えたところで、あることが気になった。

 それは膨らんだズボンのポケットだった。中をまさぐれば、握り慣れた四角の箱が手のひらに収まる。


 まあ、バレなきゃいいっか。

 ポケットに入った煙草を握りながら、俺は教室へ向かった。


 教室は中央廊下を渡った二階の端の方。昇降口のあるこの棟は、全学年が使用する共用教室や職員室等がある共用棟だ。


 階段を上がり、中央廊下へと差し掛かる。

 まだ誰もいない空間に差し込む陽の光と心地よく流れる無音が穏やかに俺を迎えてくれて。

 いつもと変わらないこの場に、俺はいつものように遠慮がちに足音を響かせる。けど、今日はいつもと違うことが起こった。


 廊下に響く足音が二つあった。

 一つは勿論俺のだけど、もう一つは前からこちらへ歩いてくる男のものだった。

 珍しいなと思いながらも、俺はその距離をゆっくり縮めて行く。

 お互いの距離が縮まっていくに連れて、顔がはっきりと見える。

 目元をほんの少し被うくらいの黒髪に鋭く尖った目、高い鼻――うん。目付きが怖いけど、誰が見てもイケメンの部類だ。羨ましい。


「ねえ、君」


 そんなことを思いながらすれ違うと、声を掛けられた。


「はい?」


 俺は違和感を覚えながらも振り向く。

 当然だ。俺にこんなイケメンな知り合いがいないからだ。いたら、そいつを餌に色々と釣り上げているからな。ムフフ

 まあ、知り合いどころか友達すらいない俺には無理な話だけどね――ってやかましいわっ!


 とか思ったのも束の間。その瞬間、俺の左側の視界がそいつの靴先を捉えた。

 驚きながらも、横っ面に迫る蹴りを左腕を使って防御。そして、後ろへと二歩ステップして間合いをとった。


 自分の回し蹴りが止められたことに感心しているのか、そいつは小さく息を漏らす。


「へえ……」

「ハッ! いきなり喧嘩吹っかけるとはいい度胸じゃねーか」


 小さく笑った姿を見て、俺も少し挑発気味に笑う。


「喧嘩? 何を言ってるんだ君は。これは――僕のお仕事だよ」


 そう言うと、奴は俺に向かって突っ込んできた。

 俺は右足を前へ突き出して足を軽く開き、腕で上半身を守るように構える。

 そこへ飛んできたのは、顔を狙った右手の突き。

 俺は身体を右に捻ってそれを躱し、反動を使って左の拳を奴の頭頂部に振り落とす。身体を思いっきり使ったゲンコだ。

 しかし、奴は俺の右側へひらりと身を翻す。そして、俺の腹部目掛けての蹴りを放ってきた。


「入った――とでも思ったか?」

「……やるね」


 放たれた蹴りを両手を使って防ぐ。

 奴は口笛を吹いてうっすらと笑っていた。クソッ、これだからイケメンはズルいっ。憎たらしいほどかっこよすぎんだろっ。

 しかし、しっかりとその表情を見れたのはそこまで。お互いに次の一手に備え、後ろへと飛んで構えた。


「仕事か何だか知らねーが、お前に襲われる覚えがないんだが?」

「君にはないかもしれないけど、僕にはあるんだよ。君を取り締まる義務がね」

「何?」


 そう言うと、奴はズボンのポケットからあるものを取り出した。そして、それをワイシャツの左腕部分へと付ける――え、マジで?


「まず、君の服装について」


 俺の間合いに詰め寄り、下から上へと突き上げるような右手の突きを放つ。次の一手は奴からだった。


「気崩しはグレーゾーンだけど、着てすらいない君は完全にアウトだ」

「くっ」


 身体を仰け反ってそれを回避。しかし、それだけでは奴の攻撃は終わらない。

 今度は身体をくるりと回し、後ろ蹴りで顎を狙われる。


「そして、そのスラックス。これは学校指定のを履いてるみたいだけど――改造してるよね?」


 右手に衝撃が走る。それを押し出すように跳ね返す。中々、いい蹴りを、お持ちのようでっ!


「そして、最後に――ポケットに入ってる煙草」

「――え?」


 こいつ――何で分かったんだ?

 俺は動揺してしまった。だからこそ、反応に遅れた。

 左手の突きが右の頬を掠めた。おかげでうっすらとヒリヒリする。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 俺は奴に問いかけた。


「何で、知っている」


 激しく動いたせいか、言い当てられた動揺かは分からない。けど、心臓の鼓動が早い。

 そんな俺を見透かしたように奴は笑い、構えを解いた。


「へえ、隠そうとしないんだ。意外。今日は見逃すけど、次は容赦しないよ」

「あ、おいっ! 待てっ!」


 奴は生徒会という腕章をした腕を上げ、時計を見る。そして、この場を去って行った。


「あ、そうそう。君の彼女の金髪の子に言っておいてくれる? ヒョウ柄のような派手な下着は校則違反だよって」

「は――はあっ!?」


 と思ったら、顔だけ振り向いて。

 それだけ言い残し、今度こそ去って行った。


 俺は奴が居た場所を、呆然と眺めながら考えていた。俺の彼女の金髪の子のことを。

 奴が言っていたのは多分マイヤのことだろう。だからこそ俺は深く考えていた。だ、誰が……。


 誰が誰の彼女だってえぇぇえっ!?


 俺は女の子と手も繋いだこともない童貞だぞっ! いつから彼女持ちなんて崇高な存在になっちまったんだよっ!? ……自分で言ってて落ち込む。


 いや、そもそも!

 何で俺の彼女がマイヤ何だよ!? 違うだろっ! 俺の彼女はルミスちゃんだろうがよっ! いや、これも違うけれども――でも、間違いなら間違いで夢見せてくれてもいいじゃん! っていうか、見させてよっ!!


 俺はルミスちゃんとのイチャイチャを妄想した――おっふ……。


 ふっ――そう長くして待とうするな、マイジュニアよ。

 俺はポケットに手を突っ込み、ぽんぽんと撫でるように優しく叩いた。

 そして、急かすジュニアが指した方向に従い、俺は足早に教室へと向かった。


 ――んで、教室に入ると。

 いつものようにマイヤが突っ込んでこようしたのだが、俺の顔を見ると、急にその動作を止めた。


「リコォーッ!! おっせーぞっ――っておい、大丈夫か!?」

「おはようリコルさん。今日は――って、ええっ!?」

「おはよう。って、何がだ?」

「え、その頬……」


 俺のさいあいっ! の彼女(仮)が心配そうに俺の頬へと指を指した。

 それを見て、俺は指された頬をなぞるように右手で触った。

 なぞった右手を見ると、うっすらと血が付いていた。


「え? ああ、あん時の。何かヒリヒリすんなーって思ってたら」

「ええ……」

「リコ……誰にやられた?」

「え?」

「よくもリコを……許せねー」


 血のついた手をぼーっと眺めていると、マイヤが静かに呟いた。あ、これヤバいやつだ。

 俺は今にも怒りが噴火しそうになっているマイヤの気を逸らさせるため、手を広げて、言った。


「あ、あのな、マイヤ。俺は大丈夫だから。それより、ほら。おいで」

「今はそんなふざけてる場合じゃねーだろっ!」

「ええ……」

「ちょ、ちょっとマイちん」


 ちょっとマイちん? なんで俺より怒ってんの? ほらっ、見て。ルミスちゃんがドン引きしてるよ?

 っていうか。お前、あれふざけてやってたの? 俺はそっちの方に怒りが向きそうなんだけども。


 とは言えず。

 俺はマイヤを宥めながら、さっき起こったことを話した。


「多分それは、生徒会のジーグルさんですね」

「じゃあ、そいつをぶっ飛ばしてこればいいんだな?」


 俺の机の周りに集まってくれた二人へ、事の経緯を話す。「うん、うん」と頷きながらしっかり聞いてくれたルミスちゃん。それに比べてマイヤ、お前は何を言ってるんだ?


「ジーグルね。それにしても、何で生徒会がこんな朝早くに」

「たしか、今週から生徒会が朝校門に立つとか言って気がします」

「ハッ! なら話が早えー」

「マイヤ」


 机を叩いて勢いよく立ち上がり、手をボキボキと鳴らすマイヤに、俺は座るように促す。だから、何でお前がそんなやる気満々なんだよっ!?


「だってよリコッ! お前の仇をとりてーんだよ」


 大人しく言う事は聞いてくれたけど、不満はあるようで。

 机に顎を乗せてブーたれるマイヤの姿は、まるで聞き分けのない子供に見えた。

 そんな駄々っ子に、俺は諭すように言った。


「その気持ちは嬉しい。けど、お前にやらせるわけにはいかねー」

「何でだよぉ」

「俺だって、やり合いてーんだよ。俺の攻撃を全て避けたあいつと」

「何だってぇっ!!」


 俺がそう言うと、マイヤはいきなりガバッと顔を上げた。そして、信じられないとでも言いたげな目で俺を見据えていた。


「本当なのか?」

「本当だぞ。寧ろ、あいつ透かし能力でも持ってんじゃねーか? お前の――いや、何でもない」

「何だよ?」


 あっぶねーっ!

 つい余計なこと言うとこだった。


 怪訝な顔して俺を見るマイヤ。その隣でルミスちゃんは何やら難しい顔をしていた。

 俺は話題を変えるため、ルミスちゃんの方を向いた。


「どした?」

「いや、ちょっと思い出したことがあって」

「何だよルミ、思い出したことって」

「う、うん。私も他の人から聞いた話だから、本当かどうかは分かないけど……ジーグルさんって凄い目を持ってるとかって。何か、その気になれば透視も出来ちゃうような感じの」

「え?」

「マジかよ……」

「でもでもっ! 噂程度の話だから、大丈夫だと、思う、かも……」


 マジかよ……マジかよっ!?

 それはちょっとチート過ぎない? そんな奴とまた闘うの俺? 

 ――いや、ちょっと待て。それって、つまり……ムフフフッ


「どした、リコ?」

「リコルさん?」


 二人が怪訝な顔で俺を見つめる中、俺は自分で立てた仮説に思わず笑いが出そうになった。

 それを何とか心だけに留めておき、俺は二人を見降ろすように立ち上がって言った。


「いや、そんな話を聞いたらぜってー負けらんねぇなってよ」

「お、おうっ。そうだなっ! 負けらんねぇなっ!!」

「え? え?」


 俺の意気込みに、マイヤも立ち上がって賛同してくれた。ルミスちゃんはちょっと引いているように見えた。


「ところでマイヤ。お前今付けてるヒョウ柄の下着、止めた方いいぞ?」

「は? はあ!? 今日は違げーしっ! ゼブラ柄だしっ!!」

「リコルさん……」


 うん。やっぱ俺には透けて見えないからな。



 ◆◆◆



「……へえ」

「よお。ここで待ってりゃ、また会えるって信じてたぜ。ジーグル君」


 そして、翌日。

 俺はいつもより早い時間に登校し、この廊下で奴を待っていた。


 俺の姿を確認したジーグルは、うっすらと笑ってるように見えた。けど、同時に殺気っていうか何というか。いつもの穏やかなこの場所に、ひりつくような空気が広がった。


「そんな焦んなよ」

「……それは君もだよ」


 誰が放ったかなんて分かりきっている。だからこそ、俺達は笑う。


「なあ、賭けをしないか?」

「……賭け?」

「ああ。ただやり合うってだけじゃ、つまんねーからな。そうだな――勝った奴がお互いの言うことを一つ聞くってのはどうだ?」

「……へえ」


 彼も、案外ノリ気なようで。

 俺の提案を聞くと、更に殺気を強めて構える。それを見て、俺も更に殺気を強めた。


「じゃあ、やり合おうぜ」


 俺は左手の拳を思いっきり握り、奴目掛けて廊下を大きく蹴った。


「聞いたぜ。お前、何やらすげー目を持ってるんだってな」

「それを聞いてよく勝負する気になるね」


 お互いの息遣いが分かる距離で、拳と掌がぶつかった乾いた音が響く。

 俺は力任せに止められた拳を振り抜く。しかし、虚しくもそれは空を斬った。

 俺の拳を空振りさせた彼は、一歩後ろへ下がり、身体を屈めていた。そこから、勢いを付けた顎目掛けてのハイキック。


「……今の、本気だったのにな」

「――相変わらず、いい蹴りをお持ちのようで」


 間一髪ってところか。

 顎に入る直前に、右手を無理矢理滑り込ませてこれを防御。

 あんなもん、まともに喰らったら一発で伸びるな。そう思わせるくらい、痺れる右手が衝撃の重さを雄弁に物語っていた。


「君こそ、よく止められるね。痛くないの?」

「そりゃ、痛いさ。けど――」


 そんなことで痛がってられっかってんだよっ!

 俺は防いだ右足を叩き付けるように押し返す。そして、再び拳を握り、振るう。


「もしかして、数打てば何とかなると思ってない?」


 両手の拳を使いながら、俺は何度も振るう。しかし、奴には当たらない。全て見切った上で避けれてしまう。


「そんなものに当たるわけがない」

「あっそ」


 やっぱ当たんねーか。まあ、だからこそ賭けを提案したんだがなっ!!

 俺は一旦攻撃を止め、奴から離れる。


「なら、これならどうだ?」


 奴を見据えて、俺は左手に力を込め――魔力を込めた。そして、強く握り、廊下を蹴る。それをそのまま大きく引き絞り、勢いに任せて打つ。


「へえ」

「……何――今の?」


 流石というか、何というか。奴は横に転げながらも、それを躱した。

 しかし、それはけっこうギリギリだったようで。俺を見上げる表情には驚きを隠せていないような、何が起こった分からないとでも言いたげに、その鋭い目を見開いていた。


「ん? お前だけ本気を出すなんてズルいからな。俺も本気でやった」

「……へえ。じゃあ、ここからが本当の勝負ってことかい?」

「いや、もう終わりだ」

「……へえ。いい気になるなよ。今のは不意を突かれただけだ」

「違う、違う。ほれ」


 立ち上がった彼がまくし立てるように言う言葉を、俺は彼の左手首を指して止め、見るように促す。


「……なるほど」

「時間だろ? 悪かったな、俺のわがままに付き合わちまって」


 俺はそれだけ言い残し、教室へ向かおうとした。


「……待って」


 しかし、彼に呼び止められる。俺は顔だけで振り向いた。


「勝負は僕の負けだ。多分、次は避けれなかっただろうから――けどっ、この次は完璧に躱してみせるよ」


 俺はその言葉に、うっすらと笑いながら、片手を上げて返す。そして、足を動かして教室へと向かう。


 けど、その前に。

 これだけは言っておかないとな。


「あ、そういや。俺とマイヤは付き合ってねーからな」

「……いや、どうでもいい」

「何でだよっ!?」


イチャイチャを妄想という名の自主規制

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