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急な土砂降りでしたので

ルミスちゃん視点のお話です

 学校帰りの私達に、視界を奪うくらいの土砂降りな雨が襲ったのはほんの十数分前。

 急に降ってきたそれにどうすることも出来なかった私達は、やっとの思いでとある場所へと避難してきた。


「マイヤちゃん居るかな〜?」

「うーん……多分居ると思う。ううん、絶対居る」


 そこはアーガルム女子校寮で――あれ? 今は名前が変わったからヴァルハラ学園寮になってるのかな? うーん――まあ、いっか。そこの203号室。

 部屋の表札には『マイヤ・メルス』の文字。


 ここ最近は一緒に登下校してたけど、今日はしなかった。っていうのも、マイちんから今日は学校休むって連絡があったからだ。


 私達が逃げてきた道を記すかのように、雨を吸ったスカートやシャツが水滴を落としている。私とユーちゃんはマイちんの部屋の玄関前でそれをギューって、冷たくなった手で絞っていた。


「それにしても、ほんと酷い目に会ったね〜」

「うん。天気予報見て完全に油断してた」


 私達の立っている床がどんどん湿っていく。靴にかかっちゃうけど、もうこんな状態だからあんまり気にならない。

 こんな雨じゃなかったら、まるで――お、お漏らししちゃったみたいになってる……。


「えへへ。何かお漏らししちゃってるみたいだね〜」


 そんなことを思ってると、ユーちゃんが私の思っていることをほんわかした笑顔で言ってきた。

 私は心でも読まれたかと思ってドキってしたけど、笑って誤魔化し何事もなかったようにインターホンを押した。


「はーい――って、うわっ! だ、大丈夫か?」

「えへへ。来ちゃった」

「ごめんねマイちん。少しだけでいいから雨宿りさせて」

「そ、それはかまわねーけど――ちょっと待ってろ」


 外からでも分かるくらいの足音と共にドアが開く。

 開いたドアからは、黒地にラメラメの文字とかが施された上下スウェット姿のマイちんが姿を現す――マイちん……。

 そんなマイちんはびしょ濡れ状態の私達を見て驚いていた。けど、すぐ状況を飲み込んでくれて。一旦、部屋へ戻るとタオルとか着替えとかを持ってきてくれた。


「と、とりあえず入れ。んで、これで頭とか拭け」

「ありがと、マイちん」

「わあ。ふかふか〜」


 うん、ふかふかであったかい。そして、いい匂い。

 濡れた私を包み込むタオルの感触と匂いに思わず目を細めてしまう。ユーちゃんの方を見ると、どうやら私と同じのようだ。


「よしっ。次はこれに着替えてくれ。タオルとか制服とかはこのまま洗っちまうからこの中にいれておいてくれ」


 用意された選択かごにタオルを入れ、マイちんから着替えを受け取って――え?


「ん? どした? ああ、そっか。たしかにユウにはちときついかもな。けど、それで我慢してくれ」

「う、うん。私は大丈夫、だよ?」

「なんで疑問系なんだよ? ルミは――うん、大丈夫そうだな」

「――ねえ、マイちん? 今何処を見て確信したのかな?」

「は、早く着替ねーと風邪引くぞ」


 ねえ、マイちん? 何でそんな慌てて逃げようとするの? 今とっても聞きたいことがあるの、今とってもはっきりさせないといけないことが出来たの。


「ル、ルミスちゃん? 早く着替えないと風邪引くよ?」


 着々と脱いでいくユーちゃん。そのせいなのか、声が若干震えている。


「う〜ん、全部脱いじゃおっと」


 ほんわかした口調でそう言うと、洗濯かごの中をどんどん溜めていく。その時、私は見てしまった――大きいという暴力を。プルンと揺れる暴力を。


「マイヤちゃ〜ん、やっぱりちょっとキツいかも〜」

「うおっ――ごほっ、げほっ、ごほっ!?」


 開いた口が塞がらないってこういうことなのかも。私は暫く呆然と眺めていたと思う。気付いたら、マイちんのむせたような咳込む声が聞こえた。


 私も早く着替えなきゃ。

 目の前で起こった残酷な現実と、まだまだ成長過程の膨らみを受け入れながら、私はマイちんに用意してもらったドクロがプリントされた黒のスウェットパーカーに着替えていった――マイちん……。


「おう、やっと着替え終わったか。ココア作っといたぞ」

「ルミスちゃ〜ん、凄く温まるよ〜」


 着替え終わってから、二人の居る部屋を開ける。

 前に来た時とあんまり変わってない。女の子のお部屋っていうには、ちょっと物が少ないような感じ。

 暖房でも入れてくれたのか、今の私には程よい室温。


 そんな部屋の中では、コの字型のソファーの上でマイちんとクッションを抱いた私の白バージョンの格好したユーちゃんがテーブルを囲んで寛いでいた。

 テーブルと言っても正方形のちっちゃいテーブル。それでも、普段一人で使うには充分過ぎる大きさだと思う。

 私のために作ってくれたココアが用意された場所へと腰を下ろす。ユーちゃんの対面だ。マイちんの対面ではソファーに座れなかったテレビが一歩下がって静かに構えている。

 私が座る際、マイちんがさり気なくクッションを渡してくれた。こういう気遣いがとっても嬉しい。


「はあ〜、あったまるぅ……」

「ほんとだよね〜」


 ココアをちびちびと啜りながら。

 一息つけた安堵からか、私達の口からは愚痴が絶えることなく漏れ始めた。


「それにしても、急に降ってきたね~」

「全くだな。これだからこの季節は嫌なんだよ」

「ほんとだよ、今日は傘が要らないって言ってたのに」

「そしたらこれだもんね〜」

「やっぱり折りたたみ傘はいつも持っていこう」

「うん、私もそうする〜」

「そん時は潔く休むっ!」

「……もう」

「おーい、ルミさんや。今のはツッコムところだぞー」

「今くらいは許して〜」

「ルミスちゃん、それ私の〜」


 まったりとした時間が続く。

 外は未だに雨が激しく窓を叩いているというのに。


「そういえば、何で今日休んだの?」

「んー、気分?」

「ふふっ。何それ」


 そんな雰囲気が続く中で、いつも以上にほんわかしていたユーちゃんが、頭に?マークでも浮べた顔でマイちんに問い掛けた。


「ん〜、でもマイヤちゃん、リコル君が来てからいっつも楽しそうに見えてたよ?」

「そりゃ、そうよ。リコがいるんだ――あぁっ!?」

「わっ!? どうしたのマイちん」

「どうしたもこうしたも。リコ成分今日取れなかった……」


 嬉しそうにマイちんが返す。けど、何かを思い出したかのように急に叫ぶ。

 聞けば、最早日課となったリコルさんへの抱き着きが出来なかったとか。っていうか、リコ成分っていうの、あれ。


「ま、まあ。しょうがないよね〜。明日は今日の分も含めて取ればいいんじゃない?」

「ユーちゃん、明日は休みだよ」

「あ、そっか〜。じゃあ、少し我慢だね〜」

「だめだ……私今日死ぬかも……」

「それは大袈裟だよ!?」


 ユーちゃんのフォローも虚しく。酷く落ち込んだマイちんはそんなことを言っていた。それを見てユーちゃんがほんわかした笑顔をしながら、大胆な事を聞いていた。


「マイヤちゃんは本当にリコル君が好きなだね〜」

「そりゃ、そうさ。リコのことは大好きだぞ」

「えへへ。やっぱり〜」


 ユ、ユーちゃん!? 何聞いてるの!?

 マ、マイちんも、何でそんな簡単に答えてるの!?


「でも、怒ると怖いぞ」

「そうなんだ〜」

「マイちんは怒られたことあるの? っていうか、リコルさんって怒ることあるの?」

「いや、めちゃくちゃあるぞ」

「えっ!?」


 私が驚いたことに訝しげな顔をしたマイちん。だ、だって……。


「だって、そんなイメージないし。何ならマイちんに甘い気がするし。ねえ、ユーちゃん」

「そうだね〜。私もいつもニコニコしてるイメージしかないな〜」

「うっそだろ!? あいつが? 私に甘い? おまけにいっつもニコニコ? ――あ、有り得ねー」


 今度はマイちんが目を丸くして驚いている。しかも何か呟いていた。


「そ、そんなに怖いの〜?」

「ああ。思い出すだけでも恐ろしい」

「一体何されたの!?」


 何かを思い出しているのだろうか。マイちんは身体を震わせながら私達を交互に見る。


「――聞きたいか?」


 ゴクリ……。


「ククッ。なんてな」


 緊張の糸が切ったような。

 そんな笑い声をマイちんは漏した。


「っもう。マイちんったら」

「マイヤちゃん雰囲気作りうま〜い」

「悪い、悪い。けど、私もその辺はよく知らないんだ。ただ、私があいつと初めて会ったあそこでは言われていた事があってな。それは――リコル・ガルトは怒らせるな。だ」



 ◆◆◆



「雨、止んできたね〜」

「あ、ほんとだ」


 それから少し。

 まだしとしと降ってるけど、さっきまでの激しい雨も今はだいぶ治まってきて。


「これなら帰れそうだね」

「そうだね〜」

「マイちんありがとね」

「気にすんな、困った時はいつでも来いって」

「今度何かご馳走するね〜」


 マイちんにお礼をして、私達は帰る準備をするため立ち上がる――あれ? そういえば


「そういえば〜」

「ん?」

「マイヤちゃん。私達の制服って、もしかして……」

「――あ」


 やっぱり……。


「あはは……。その、何だ。忘れてたわけじゃないぞ、まだその時じゃなかっただけだ」

「マイちん……」

「だから、その……も、もう少しゆっくりしていけよ。なんなら、今日泊まってってもいいぞ?」

「お泊まり〜!?」

「うおっ!? びっくりした」


 っもう。でも、びしょ濡れだった私達を雨宿りさせてくれた恩人に強くは言えないけど。


 忘れてたって、笑って誤魔化すマイちんの冗談に、ユーちゃんが身を乗り出してマイちんに詰め寄った。その時に見てしまった。パーカーの上からでも分かる暴力が、ブルンって揺れてマイちんに詰め寄ったところを。


「ほんとにいいの〜!?」

「いや冗――まあ、いいか。私は構わねーけど、二人は大丈夫なのか?」

「私は全然大丈夫だけど」

「私も〜、マイヤちゃんのお家なら大丈夫だと思う」

「よしっ! じゃあ、久しぶりにお泊まり会でもすっか!」

「お〜!!」

「お、おー」


 手をグーにして高らかに掲げる二人を見ながら。

 一応私も手を上げるけど、二人ほどの勢いはない。


「じゃあ、私は洗濯してくるから。二人は寛いでいてくれ」


 こうして私達のお泊まり会が始まった。




 ――――一方その頃。


「ヘ、ヘ……ヘックションッ!! あ〜ちくしょう」


 クソっ。天気予報信じた俺がバカだった。

 豪雨の中、猛ダッシュで帰ってきた俺は、風呂ですぶ濡れの体を洗い、部屋をあったかくして布団にくるまっていたのだが……。


「ハックッションちくしょう」


 風邪引いたな、これ。



うーん、何というか。難しいすよね、下いのがないと


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