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やっぱマイヤはマイヤよねえ

今週なんとか一話。それもちょっとアレな感じの。

 衣替えの移行期間も終わり、生徒から先生まで皆涼しい服装に変わった。

 しかし、この時期の空はそれが気にくわないようで。

 そう捉えてしまうくらい、最近の天気は崩れやすい。まるで癇癪を起こした子供のように。


 そんな日が続く今日。

 俺はいつものようにマイヤからリコ成分を奪われ、ルミスちゃんに冷ややかな目を向けられた後、グッタリしながら奪われた成分の補給を行っていた。

 ん、どうやってって? 決まってんだろ。

 いや、これは百聞は一見にしかず。やり方を見せてやりましょう。


 まず右を見ます。はい、女の子がいますね、しかもお綺麗な女の子が。

 で、次に左を見ます。はい、ユーちゃんがいます。豊満でご立派なモノを持ったユーちゃんが。

 衣替えしたことによって露になった、禁断の果実が実っているユーちゃんが。収穫して貪りたい。


 この動作を三回繰り返すと、あら不思議――ムフフ

 どうだ? 力が漲ってくるだろう? 主に身体の中止、男に生える果物に。それはもう、しなしなで元気がなかった果実が瑞々しさを取り戻したが如く。

 ちなみに、この時のポイントは目を瞑りながら視線を移すことだ。そうすることよって、視覚から入るむさ苦しい毒を極限まで減らすことが出来る。

 だが、あまり過度な補給と長時間の凝視は厳禁だ。そうする――え、こない? んー、不能かな?


 と、冗談はさておき。

 そんな朝の日課を終えて授業が始まり――気が付きゃ、もうお昼。

 俺は授業終了を知らせる鐘が鳴ると同時くらいに、そそくさとある場所へ向かった。理由は勿論、マイヤから逃げるためである。ただでさえ朝に一発喰らって、帰りにもう一発喰らうことが約束されているのだ。こんな所で追加で喰らうなんて御免蒙る。


「いつも早いわねー。そんなに急がなくても、リコちゃんの分はいつも取っといてあげてるわよ。はい、リコちゃんセット」

「サンキューおばちゃん、でもそのネーミングはやめて」

「あら、意外と受けがいいのよ?」

「誰に!?」


 その足で向かった先は購買。

 俺の姿を見つけると、おばちゃんはニッコリとした笑顔で手を振っていた。

 俺は手を振り返して近づいていき、おばちゃんからおにぎり二つとお茶の入った袋を受け取ってお金を渡す。

 具はおかかと昆布。俺の好きな具のNo.1と2だ。

 ここで飯を買う時はいつもこれ。それのおかげかどうか、最近はこうやっておばちゃんが俺専用にこのセットを作ってくれている。ありがたい。けど、そのネーミングだけは本当に止めて。っていうか、まさかそのネーミングで販売してないよね?


「しかしリコちゃんもよく飽きないわね~。購買(うち)としてはありがたいけど、たまには食堂でガッツリ食べた方がいいわよ? そんなんじゃ足りないでしょ」

「たしかに腹減ることもあるけど――俺的には好きでもないもので腹満たすより、大好きなものを腹に入れた方が幸せな感じがして」

「まあっ! 嬉しいこと言ってくれるわね」

「まあ、食堂を使ったことないだけですけどね」


 目の前にある食堂を見ながらおばちゃんが俺のお腹事情を心配してくれたが、俺がそう返すとおばちゃんはまたニッコリと笑っていた。おまけでお菓子サービスしてもらった。ラッキー。


「それにしても、また降ってきたわね~。今週ずっと続くそうよ? 洗濯物どうしようかしら」


 おばちゃんは困り顔で視線を今度は窓へ移す。それに釣られ俺も視線を窓へ。

 窓越しからでも分かるくらい、雨粒がくっきりと見える。どうやら朝からずっと不機嫌な顔をしていた空がとうとう泣き出してしまったようだ。

 それを見た俺も、困り顔して泣きそうになっているかもしれない。


「おばちゃん。俺、今日初めて食堂使うかも」


 だってこの雨じゃあ、屋上使えねーじゃん。


 ――ということで。

 初めて使いますよ、この場所を。

 中へと入ると、すぐ左手には食券の自販機が三台。そこへ列を作っている生徒。買い終わると、そのまま道なり進んで行く。その先に食券を渡す場所があるようで。っていうか、すんごい列だな。

 逆に席は全然空いている。長テーブルを合わせて作った超長テーブルに、四人掛けテーブル。そして、二人掛けと種類も色々。

 そこに、ちらほらと座っている奴も居るが、飯を食ってるって訳じゃない。多分席取りしてるパターンかしら?


 そんなことを思いながら、俺は一番右側の一番奥の席を確保。

 壁に沿って設置されているこの列は二人掛け。そして俺の座ったこの場所は、食堂の入り口からは柱が死角となっていて見えない。万が一のためにも備える俺に死角等ないのだ。

 俺はキャップを回し、蓋を開けたお茶で喉を潤した後、大きく息を吐いてからお昼ご飯を食べた。



 ◆◆◆



 並んでいた列は徐々に無くなっていき、今では席に座るのが大変になってきた状況。

 食器の音と楽しそうな声が響く中、俺はおばちゃんから貰ったお菓子を食べながら寛いでいた。

 中身はクッキー。どこが売り出している商品かは分からないが、少なくともスーパーとかでは見たことがないパッケージ。

 口に入れ、中で広がるミルクの味に少し甘ったるとか思うけど、意外とそこに美味さを感じたり。口の水分が奪われながらも、お茶を飲みながらゆっくりとつまむ。


 それにしても。

 ここを使ってる奴らがけっこう多くて地味に驚いている。

 というのも、俺が一年だった頃――アーガルム男子校だった時のこの場所は、先輩達だけが使える場所だった。

 当時は上下関係というか何というか、先輩特権みたいなものがあって。その時に一年の誰かが使ったことがあったらしく、ボコボコにされたとか。

 そんな背景を知っていると、どうにも使い勝手が悪く感じてしまう。

 まあ、今はそんなものがなくて安心というか何というか。やっぱり飯くらいは落ち着いて食べたいよね。あいつのおかげで、それを改めて思った。決して一緒に食べてくれる人がいないわけでない。


「何だ、てめえ。ああっ!?」

「す、すみませんっ」

「ああ? すみませんじゃあ済まされんぞ、おおっ?」


 とか思ってると、そんな野太い男の怒声と共に椅子でも蹴り飛ばしたかのようなもの凄い音が後ろから聞こえてきた。

 さっきまで賑やかだったこの場が、しんと静まり返る。そして、皆の目線は一点集中。さっき凄い音がした方向だ。


「てめえ、分かってんだろうなあ、ああっ!?」

「すみません。すみません……すみません……」


 視線なんて気にならないのか、はたまた気にしているからこそなのか。男の怒りの声色が弱くなることはない。いや寧ろ、さっきよりも強くなっている。

 その一方で、絡まれた方の声色がどんどん弱々しくなっていく。

 何度も何度も謝る度に涙が溜まっていってるような声を出している。それが心地よいのか、男は更に口調を強めていく。


「ちょっとこいよ。先輩が礼儀ってのを教えてやる」

「や、やめて……」


 ――ったく、うるせえな。


「うるせんだよ、クソ豚が」

「……ああっ?」


 俺が席を立とうとした時、声がした――え? な、何で……。

 張り詰めた風船のようなこの場に針のように鋭い声が突き刺さる。その声は俺がよく知ってるもので、まさかこんな所でまで聞くなんて思ってもなかった。


「聞こえなかったかクソ豚。黙れつったんだよ」

「ち、ちょっとマイちん」

「マイヤちゃん」


 ――ちょ、ちょっとマイちん? 何でアンタがこんなとこにいんの? ルミスちゃんもユーちゃんも。貴女達いつも教室でご飯食べてるじゃない。


 え? どういうこと?

 俺は振り向いて何が起こってるか確認したが――ち、ちょ、柱邪魔。


「てめえ……殺す。女だからって容赦しねーぞコラァ!?」

「ハッ。てめーごときが大きく出たな。来いよ? 言うこと聞かない豚は屠蓄してやるぜ」

「て、てめえぇぇ!!」


 見なくても分かるくらい、お顔を真っ赤っ赤にしたような怒声とドタドタとした大きな足音が響く。そして、数秒――


「なっ!?」

「――おい、どうしてくれんだこれ? ああっ!?」

「ヒッ……」


 食器をひっくり返した音の後に聞こえるマイヤの威嚇。

 それは女の子が出していい声には程遠い。マイヤのような見た目だけは華奢な女の子なら尚更だ。騙されるなよ、皆。あれが本来のマイヤだぞ。

 ほら、現に男の方が情けない声を出してるし、殆どの人がビクッてしてるじゃないか。


 俺は柱の影からそっと覗く。

 若干動きが怪しいと思うが、幸いにも皆俺の行動に興味も示していない。

 で、覗いた結果。

 四人掛けのテーブルにルミスちゃんとユーちゃんが座っていて、床には食べ掛けのラーメンとご飯が器と共にぶちまかれていた。あら、意外とガッツリ食うのね、この娘。

 そんなマイヤは男の繰り出したであろう拳を右手の手のひらで受け止めていた。あら、ほんとに豚のようなおデブちゃん。


 男の顔にはじっとりとした汗の粒。まさにべとべとな油みたいな感じの。

 そして焦りのようなものを顔に浮かべながら、情けない声を漏らしている。


 そんなマイヤ有利の膠着状態が繰り広げられていた。


「て、てめぇ。は、離せや」

「――お望み通り。離してやるよ、汚ねー豚野郎が」

「て、てめえぇっ!」


 手を離したマイヤ。そうすると、男の方がまた顔を真っ赤にしてマイヤに殴り掛かったのだが


「何だ、やっぱその見た目は飾りか、クソ豚野郎」


 マイヤの拳が突き上がるように男の腹にめり込む。うわっ……。

 男はそのまま、その無駄な贅肉の身体を崩れ落ちるように床へ這わせた。うん、完全に入ったな。


 そんな光景を見て、誰が最初か分からない拍手喝采が鳴る。

 これでめでたしめでたし。後はマイヤにバレずに俺がこの場から抜け出せれば終了――のはずだった。


「ハッ。やっぱてめーにはその姿がお似合いだぜクソ野郎。ほら、てめーがぶちまけたんだ、責任持って食えよ」


 マイヤは床に伸びた男の頭を足で踏みながら、見下ろしていた。

 その光景が拍手と喝采を一つ、また一つと奪っていく。


「ち、ちょっとマイちん。止めなって」

「マイヤちゃん……」


 鳴りやんだ拍手にも、二人の声にも気付いていない。いや気付いていてあいつはしているかもしれない――はあ……仕方ない。

 俺はマイヤに近づいて、肩に手を置いて声を掛けた。


「何シカトこいてんだ、ああっ!?」

「やりすぎだマイヤ」

「ああっ!? え、リコ?」


 俺に気付いたのか、マイヤが足を頭から退けてこちらを振り向く。

 俺はそのまま諭すようにこう言った。


「お前が飯を粗末にされたことに腹が立つのは分かる。けどやりすぎだ」

「だ、だってよ。こいつが」

「言い訳しない。それに少し楽しんでたろ、お前」

「……はい」


 さっきまで勢いは何処へ。しゅんとした顔で聞き入れているマイヤ。

 そんな姿を見て。なんていうか……。

 俺は一つ深呼吸した後、まるで怒られた犬のようにしょんぼりとしたマイヤの頭を撫で、こう言った。


「まあ、その、何だ。叱るつもりはない。元はこいつが悪いわけだし。それより、まだ飯の途中だろ? 奢ってやっからもっかい買ってこい。後は俺が掃除しとくから」

「リコ……リコォーッ!!」


 オゴォ……。

 だ、だから……それはマジで止めて。さっき食ったもん出てくるからっ! っていうか、ちょっと食道まで上がってきたからっ!!


はい、すみません。

でも、やっぱりヤンキー女が書きたかったのよ。

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