衣替えの季節もこれですもん
もうちょっとおバカな話が続きます。いえ、書かせて下さい。ハイファンタジー?バトル?魔法?
んー、知らない子ですね。
マイヤとの再開から数日。
会う度に万力のように締め上げられるのはほんっとキツい。それを朝一と帰りの二回、必ず喰らうんだ。これをリコ成分とか言うらしい。やめてください、死んでしまいます。
というのも。
聞く話によると、マイヤは毎日ルミスちゃんと一緒に登校、下校しているらしい。う、羨ましい。
前までは時々だけだったらしいが、あの日を境に今では毎日だとか。そのついでで締め上げられたら身が持ちませんって。
だがしかし。そんな怪力万力地獄からも今日を持って抜け出せるのだ。何故かって? フフフッ。
「あ、おはようリコルさん」
「おいっす、リコ」
「おはよう」
俺は既に教室にいるルミスちゃんとマイヤに挨拶を交わす。前までの手を軽く上げる無愛想挨拶も、今ではこうして言葉にして交わせるようになった。その結果、我が愛しのルミスちゃんとも距離が縮まった――気がする。少なくとも俺は縮まった、寧ろ距離がない。貴女のためなら俺の全てをいつでもさらけ出しますよ?
それもこれもマイヤのおかげ。けど、何度も言うがその代償が重すぎるって。っていうかマイヤ、お前は何でいっつもこっちにいんだよ。
まあ、それはともかく。
案の定、俺の姿を確認したはずのマイヤが抱き着いてくることはなかった。いや、出来なかった。とでも言うのだろうか。その心情を語るには俺はまだ未熟。
何故マイヤは抱き着いてこなかったのか。それは極めて単純。マイヤの服装が如実に示していた。
俺はマイヤを見る。何やらうずうずしているように見えたが、それはさておき。
何時もと変わらない着崩した制服姿。だが、昨日まで着ていたあるものが無くなっていた。それはブレザーだ。何故着ていないのか? それは――今日から衣替えだから、だ。
フフフフ、ハハハハッ!
どうだ、マイヤ? いくら貴様でも、その夏服では無闇に抱き着けまい。貴様も一応は花の女子高生。抱き着いてきた時は、それを身を持って教えてやろう。俺の触診でな。
「どうした? 来ないのか?」
「う~っ」
俺は敢えて挑発するかのように、マイヤに向けて手を広げてみる。マイヤはそのぱっちりおめめを見開き、身体を少し跳ねさせたが、こちらへ突進してくることはない。勝ちました。
もう怖いものなど何もない。俺は口角をゆっくりと上げ、ここぞとばかり煽り倒す。
「何だ、残念だ」
「う~っ」
「フフフフ、ハハハハッ! どうした、いつものお前らしくもない」
「――リコルさん」
俺とマイヤのやり取りを見ていたルミスちゃんが呆れたような声で俺を呼んだ。
俺はマイヤに向けていた視線をルミスちゃんへと移す。そして改めて気付いた。彼女も夏服していた事実に。
半袖のワイシャツから露出したすべすべしてそうな腕。もちもちしていそうな肌。そして何より――ブレザーが無くなったことにより、くっきりと映し出されている身体のライン。
けしからん。実にけしからん。
そんな格好で女の子が道を歩いてはいけません! 歩く時は俺の目の前だけにしてください。
俺がまじまじと見てしまったせいか、ルミスちゃんは顔をだんだん赤くしていき、ジトッとした目で俺を睨んでこう言った。
「リ、リコルさん? あんまりジーッと見るのは止めた方がいいですよ?」
「あっ、その、悪い……」
自らの身体を隠すように両手で身を抱き締めるルミスちゃん。その姿に、逆にエロさを感じてしまう。ムフフ
だが、ルミスちゃんの言葉に俺はバッと目を反らした。もうちょっと眺めていたかった……。
「う~……。やっぱ無理ッ! リコーッ!」
そう残念がっていると、今まで唸ってるだけのマイヤが勢い良く俺に突っ込んできた。あまりに予想外だった出来事に、俺はマイヤを受け止められず、そのまま倒されてしまう。おかげで頭を床で強打した。
しかし、やっぱりそんなことはマイヤにとって些細な事っぽい。俺の身体を締め上げながらご満悦な表情をしている。こ、こいつはほんっとに――ん?
ミシミシと身体から聞こえる中、俺はあることを思った。それは――こいつ、意外とおっぱいあんなって。
――いやいやいや。
口ではああ言ったけど、ほんとにそんなことをする気なかったよ? っていうか、こっちはマジで抱き着いてくるなんて思ってないわけで。いや、でもやっぱ。こんな華奢な身体の割には……。
「リコ……」
俺が悶々とそんなことを考えていると、切なそうな声でマイヤが俺を呼んだ。
俺はマイヤを顔を見る。すると、今まで俺の身体に顔を埋めていたマイヤと見つめ会うように目が交差した。そして、俺の目に吸い込まれるようにマイヤは顔を近づけてくる。
お互いの呼吸の音が交差する距離。そこで見たマイヤの顔はすでに真っ赤。
いや、それは俺もかもしれない。これでも俺は平静を装っているつもりだが。
「リコォ……」
もう一度マイヤが俺を呼ぶ、今度は艶やかしく。そしてそのままマイヤは目を閉じて、俺に――
「んんっ!! あー、その……お二人さん?」
気まずそうな声に身体がビクッと跳ねた。それはマイヤも同じようだ。
俺は力の緩んだマイヤを押し退けて、身を起こす。
その目で確認したのは、顔を赤くしながらこちらを凝視しているルミスちゃん。
目が合った時、ルミスちゃんの態度が一変。腕を組み、顔を反らし、つんとしていた。
「ふん。やっぱりリコルさんはマイちんがタイプなんだ」
「い、いや、その、あの……」
「マイちんは、可愛いし、おっきいもんね!」
ルミスちゃんは怒ったように口調で俺に言葉を投げつける。いや……。いや~、これには深い訳がありまして……
男っていうものはですね、大なり小なりおっぱいを押し当てられたらですね、こう何と言いますか。おっほーっ! ってなるわけですよ? 例え、それが妹のように可愛がってる相手でもです。これを条件反射と言います――多分。
ただですね、これだけは言わせて下さい。ルミスちゃん――例え貴女の小ぶりなおむねでも、俺は大満足です! 寧ろ、押し付けて下さい、お願いします。
――なんてことは言えず。
俺は茫然と立ち尽くしていた。そんな時、俺に押し退けられたマイヤが立ち上がり、満足したような顔で言った。
「ふうー、今日の朝一リコ成分補給完了ッ! 今日もやる気が漲るぜっ!」
俺とルミスちゃんに向かって、両手の親指をグッと立てるマイヤ。そして、そのまま何事も無かったようにこの場を後にした。
「おい、待て、逃げんな、マイヤッ! 今日のは流石にやりすぎ――」
「――リコルさん?」
「はい……」
こうして、衣替え最初の日が始まった。
実際良いよね。衣替え。




