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転生したら豊臣秀頼だったので、大坂の陣を起こさせません ~MBAホルダー、豊臣家の事業承継に挑む~  作者: 東雲 諒杏
第三章 内府を知る

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第68話 次も申せ


【豊臣家滅亡まで 残り5,674日】

【関ヶ原級全国内戦まで 推定残り335日】


 翌朝、俺は、三成に聞いた。


「いえやすどのは、わるいひと?」


 三成の筆が、止まった。


「……唐突に、何でございましょう」


「こたえて」


「悪人かどうかは、政務に関わりございませぬ」


 三成らしい答えだった。


「じゃあ、あぶない?」


「はい」


 即答だった。


「どうして」


「権が、集まりすぎておりまする」


「のうりょくが、あるから?」


「能力があるからこそ、にございます」


 正しかった。有能な者に、権が集まる。集まった権で、問題を片付ける。片付けるから、さらに集まる。やがて、その者なしでは、何も決められなくなる。


 利家がそうだった。利家が死んで、全部が止まった。そして今、俺の数字にも、同じものが出ている。主人公依存度、六十。


 家康は、悪人でなくても、豊臣家を中から空っぽにできる。


 三成も、悪人でなくても、人を追い詰める。清正も、悪人でなくても、命の筋を壊す。正則も、悪人でなくても、怒りで周りに刀を抜かせる。淀殿も、悪人でなくても、疑いを大きくする。


 俺も、悪人でなくても、この先を知っているせいで、人の選ぶ道を奪う。


「わるいひとを、さがすのを、やめようと、おもう」


 三成の眉が、動いた。


「悪人は、おりまする」


「いる」


 米をかすめる者。人を売る者。村を焼く者。偽りの知らせで兵を死なせる者。確かにいる。


 だが、大きな崩れは、悪人一人では起きない。普通の人が、自分の家を守り、命に従い、相手を疑い、しくじりを隠す。その積み重ねで、起きる。


 悪人を斬れば、安心できる。原因を、一人に押し付けられる。だが、仕組みが残れば、次の悪人が生まれる。


「だれを、きったら、せきがはらが、とまる?」


 三成は、答えなかった。


 家康を斬る。三成を斬る。清正を斬る。正則を斬る。誰か一人を消せば、しばらくは静かになる。そして、空いた席に、別の争いが座る。


「きるより、きめるひとを、わける」


 三成の目が、少し光った。決まりの話になると、この男は元気になる。


 俺は、紙に書いた。


 一、縁組み。二、大名同士の誓い。三、兵を動かすこと。四、領地の争いの裁き。五、豊臣の蔵から出す金。六、秀頼の名で出す命。


 今は、どれも曖昧だった。家康は、自分で決める。三成は、太閤の定めを盾に止める。清正は、現場の危うさを理由に従わない。淀殿は、秀頼を守るためと言って拒む。四人とも、別の理由で、自分が正しいと思っている。


「ひょうぎを、つくりなおしますか」


「ひょうぎ、だけだと、また、としいえが、ひつようになる」


 人を集めるだけでは、声の大きい者、身分の高い者、恐れられる者が勝つ。


「ぎだいごとに、きめるひとを、かえる」


 縁組みは、大老だけで決めない。当の家。奉行衆。大坂の奥。確かめる目を、いくつも置く。兵を動かすときは、目的、期間、兵の数、兵糧、戻る日を全部書かせる。領地の争いは、双方から証を出させる。裁く者が片方の味方なら、別の者を加える。


 前の世の言葉なら、利益相反。監査。異議申し立て。だが、この世の言葉に直す。


 《ひとりで、きめない》

 《きめたわけを、のこす》

 《いを、となえたものを、きらない》


 三成が、書き取った。そして、三つ目で、筆を止めた。


「……これが、一番、難しゅうございます」


「うん」


 異を唱える者は、主君に逆らう者だ。この世では、命がけになる。だから、誰も異を唱えない。唱えないから、皆が賛成に見える。皆が賛成に見えるから、間違った命が、そのまま進む。


「だれから、はじめますか」


 三成が聞いた。


 俺は、三成を見た。


「みつなりから」


「……拙者で、ございますか」


「みつなりの、めいに、いを、となえても、ばつを、うけない。そう、いって」


 三成の顔が、本気で困った。


「異が誤りであれば」


「なおして、あげて」


「同じ異を、何度も申す者は」


「はなしを、きく」


「時が、失われまする」


「ときを、うしなうのと、くにを、うしなうの。どっちが、いい」


 三成は、黙った。


「……拾様は、時々、極端にございます」


「みつなりに、いわれたくない」


 その日の午後、小さな評議を開いた。


 三成。奉行衆の配下。蔵の役人。使いの役。書き役。議題は、兵糧蔵の知らせの書き方だった。


 三成が説明した。正確だった。短かった。以前より、相手の得になることも入っていた。札の稽古は、効いていた。


 説明が終わった。


 誰も、手を挙げなかった。


「異があれば」


 三成が言った。


 沈黙。


「申し出よ」


 沈黙。


 全員が、三成を見ていた。そして、三成は、俺を見た。


 助けを求める目だった。好感度十七の男が、相談しやすさを作ろうとしている。難しいに決まっていた。


 俺は、一番端に座っていた、若い蔵の役人を指した。十七、八だろうか。膝の上で握った手が、白くなっていた。


「なにか、あるね」


 役人は、青くなった。


「ご、ございませぬ」


「かおに、ある」


「顔は……生まれつきにございます」


 正則がいたら、大笑いしていた。三成は、笑わなかった。俺も、笑えなかった。この若者は、本気で怖がっていた。


「ばつは、ない」


「拾様が、でございますか」


「うん」


「……治部様も、でございますか」


 全員が、三成を見た。


 三成は、一拍、置いた。


「罰せぬ」


 若い役人が、恐る恐る、口を開いた。


「……知らせの、締め切りが、早すぎまする」


 三成の眉が、反射のように動いた。役人が、びくりと縮んだ。


「わけは」


 三成が聞いた。声は硬かった。だが、怒鳴らなかった。


「国々の蔵から、知らせの届く日が、違いまする。遅い蔵は、締め切りに間に合わず、推し量りで書くことになりまする。推し量りの数は……たいてい、間違っておりまする」


 清正が言ったことと、同じだった。運ぶ日数には、幅がある。知らせにも、幅が要る。


 三成は、しばらく考えていた。


「……締め切りを、二つにする。仮の知らせと、確かな知らせ」


 若い役人が、顔を上げた。


「それなら……できまする」


 三成は、紙に直しを書き入れた。


 誰も、斬られなかった。三成の面目も、落ちなかった。むしろ、知らせの形は、前より良くなった。


 評議が終わって、皆が立ち上がった。若い役人は、戸口で振り返り、三成に頭を下げた。


「……申し上げて、よろしゅうございましたのでしょうか」


 三成は、答えた。


「次も、申せ」


 一瞬、部屋の時が止まった。


 言った三成自身が、言ったあとで、少し驚いた顔をしていた。


 人は、一日では変わらない。だが、手続きが変われば、人が変わる前でも、することは変わる。悪人を探すより、ずっと早い。


【異を唱える決まり】

試しに始める

最初の異 採用


【人物評価・補足:石田三成】

相談容易性 11 → 14


 三。上がった。


 俺は、三成の顔を見た。


「……何でございましょう」


「なんでも、ない」


「今、笑われましたな」


「くちのはしが、いちぶ、うごいた、だけ」


 三成が、少しだけ嫌そうな顔をした。自分の言葉を返されるのは、嫌らしい。それも、成長だった。


 夕方、三成は、城を出る前に、俺の部屋に寄った。


「拾様。……本日の評議の書き留め、七枚にございます」


「ながい」


「縮めました。本当は十一枚でございました」


 三成は、紙を置いてから、少しだけ言いよどんだ。


「あの若い役人の名は、何と申しましたか」


「……しらない」


「では、明日、聞いておきまする」


 名を聞く。十二人の遺族のときから、三成は、少しずつ、名を集めるようになっていた。


【本日の豊臣家滅亡確率】

96.9% → 96.6%


 その夕方、例の若い役人が、台所の者に話しているのを、廊下で聞いた。


「治部様がな、次も申せと仰せになったのじゃ」


「治部様が? まさか」


「まことじゃ。……少しだけ、声が、優しゅうございました」


 少しだけ。一分ほど。


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