↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら豊臣秀頼だったので、大坂の陣を起こさせません ~MBAホルダー、豊臣家の事業承継に挑む~  作者: 東雲 諒杏
第二部「関ヶ原を起こすな」                                    第一章 佐和山の三成

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/133

第49話 天下人の忘れ形見


【豊臣家滅亡まで 残り5,870日】

【関ヶ原級全国内戦まで 推定残り531日】


 五日後、評議は開かれた。


 家康は来なかった。毛利も、上杉も、前田利長も来なかった。来たのは、宇喜多秀家、増田長盛、長束正家、前田玄以、清正、正則、黒田長政。そして俺。


 人数だけ見れば、少なくない。権限を見れば、足りない。


 座布団は、二枚だった。家康と最初に会ったときに決めた数を、礼法役が覚えていた。


「はじめる」


 誰も、始めてよいとは言わなかった。反対もしなかった。


 三成の席は空いていた。利家の席は、最初から置いていない。そして、家康の席も空いていた。わざと置かせたのだ。空いていることを、全員が見られるように。


 空いた席が、座っている者より大きく見えた。


 最初の議題は、城下の米の値だった。朝鮮から戻った兵。各地の不作。大名家の買い入れ。噂による買い占め。米が上がっていた。


「蔵の米を、一部出すべきにございます」


 長盛が言った。


「全部出せ」


 正則が言った。


「全部出せば、次の不足に備えられませぬ」


 正家が答えた。


「今、腹が減っておる」


「来月も、腹は減りまする」


「来月は来月じゃ」


 三成がいないのに、正則は別の算用の者と揉めていた。相手が三成だから怒るのではないのだ。数字が、正則の「今」を止めるから怒る。


「全部は出すな」


 清正が言った。正則が振り向いた。


「なぜじゃ。お前まで治部のようなことを」


「城の米を尽くせば、商人が次の値をさらに上げる。……戦場では、兵粮を尽くした者から死ぬ」


 現場の言葉だった。正則が黙った。


 長政が、静かに口を開いた。


「量を決めて、数日に分けて出されては。商人には、次の入荷を命じるのではなく、利を約束するのです」


「利? 儲けさせるのか」


 正則が、嫌そうな顔をした。


「儲からぬ商いを、誰が続けまする」


 武将と商人では、物の見方が違う。だが、米は武勇では増えない。


「みっかぶん。しろから、だす。つぎのふねは、しょうにんと、そうだん。ねだんを、まいにち、かく」


 決まった。家康はいない。大老の多くもいない。それでも、町の米のことは決められた。新しい決まりが、初めて動いた。


【日常政務継続性】

48 → 52


 四つ。わずかだ。だが、上がった。


 翌朝、大手門の脇に、一枚の板が立てられた。その日の米の値段を書いた板だった。


 文字を読める者が、読めない者に読んで聞かせる。人だかりができた。昨日より、少しだけ安い。明日はどうなるか分からない。だが、毎日書かれる。値段が隠されない。それだけで、買い占めに走る者が、少し減った。


 人だかりの中に、腰の曲がった老婆がいた。板の前で、手を合わせていた。値段に手を合わせる人を、俺は初めて見た。


 堤の修理も決まった。傷を負った兵の宿の割り振りも決まった。戦と領地と婚姻の話は、一つも決まらなかった。決めなかった。決めてはいけない場だったからだ。


 評議が終わりかけたとき、宇喜多秀家が、空いた家康の席を見ながら言った。


「拾様。わしは、何度でも参りまする」


 二十代の若い大老だった。秀吉に養われ、秀吉の養女を妻にした男である。五大老の会議で、誰より長く頭を下げていた人だ。


「内府殿が来られずとも、毛利殿が来られずとも、わしは参ります。太閤殿下の御席が空いておるのを、見ておれませぬゆえ」


 真っ直ぐな声だった。真っ直ぐすぎる、とも思った。


 史実のこの人は、関ヶ原で最後まで豊臣のために戦い、負け、八丈島に流される。そこで五十年、生きる。豊臣家が滅んだあとも、ずっと。


「ひでいえ」


「はっ」


「くるのは、うれしい。でも、ひとりで、がんばらないで」


 秀家は、きょとんとした顔をした。それから、少し照れたように笑った。


「拾様は、前田様と同じことを仰せになりますな」


 胸が、少しだけ詰まった。


 評議が終わると、正則が俺の前に来た。


「拾様。決まり書きの四つ目、わしは承知しておりませぬぞ」


「しってる」


「……ならばよい。承知しておらぬことを、承知しておいてくだされ」


 何がよいのか分からなかったが、正則は満足そうに帰っていった。


 その夜、俺は淀殿と、秀吉の仏壇の前に座った。


 父が死んでから、九か月。いろいろなことが起きた。


「ちちうえ」


 仏壇に向かって、声に出した。淀殿が、少し驚いた顔をした。


「ちちうえは、ぼくに、たのみました。ははうえを、たのむ。じぶを、たのむ。またざを、たのむ。ねねを、たのむ。みんなを、たのむ」


 一つずつ、指を折った。


「またざは、しにました。まもれなかった」


 淀殿が、息を呑んだ。


「じぶは、さわやまに、いきました。まもったけど、とおくなった。ねねさまは、まいにち、ちちうえに、おいのりを、してます。ははうえは……」


 淀殿を見た。


「ははうえは、きのう、はやく、ねました」


 淀殿が、袖で口元を覆った。笑ったのか、泣いたのか、分からなかった。たぶん、両方だった。


「みんなは、まだ、けんかしてます。でも、てがみは、いつかに、いちど、とどいてます」


 仏壇の中の父は、何も言わなかった。返す返す、と書いた字が、目の奥に浮かんだ。


「……まだ、ぜんぶは、できてません。ごめんなさい」


 淀殿が、俺の背に手を置いた。


「殿下は、叱られませぬ。……殿下なら、きっと、一つできたら、大声で笑うて、干し柿を下さいました」


 干し柿。初めて聞く話だった。


「ちちうえは、ほしがきを、くばったんですか」


「ええ。いつも、懐に。……天下を取られてからも、でございます」


 淀殿は、少し懐かしそうな顔をした。


 秀吉は、干し柿を配る男だったのだ。


 俺は、つい、小さく笑った。淀殿も、つられて笑った。仏壇の前で、母と子が、干し柿の話で笑っていた。父が生きていたら、きっと一緒に笑っただろう。いや、一番大きな声で笑ったはずだ。


 仏壇の灯が、小さく揺れた。


「せきがはら」


 口から、こぼれていた。


「何です、それは」


「みらいの、おおきな、かいぎ。……できれば、いくさじゃなくて、かいぎにする」


 淀殿は、俺をじっと見た。


「できますか」


「わからない」


 本当は、数字が出ていた。見たくなかったが、出ていた。


 その夜、自分の数字が開いた。


【人物評価:豊臣秀頼(拾) 更新】

人望 79 → 84 | 制度理解 79 → 83

新規スキル:評議招集(仮)

特殊スキル:五歳児特権(号泣)[使用回数 1]

主人公依存度 44 → 55

封印スキル:???[解放条件:託された者が、――を休ませること]


 主人公依存度が、また上がっていた。利家がいなくなり、三成が去り、家康が来ない。空いた場所に、少しずつ、俺が座り始めている。


 そして、その下に、見慣れない表示が一行、増えた。


【関ヶ原級全国内戦まで 推定残日数】

531日


 五百三十一日。


 翌朝、大坂城から四通の書状が出た。佐和山へ。清正へ。正則へ。伏見の家康へ。同じ日に、同じ文を。次の評議の議題を書いたものだった。


 三成から、一番に返事が来た。《出席は叶わぬが、意見を送る》。清正、《出席》。正則、《酒を持ち込まぬなら出席》。持ち込む気だったのだ。家康からは、返事がなかった。


 次の評議でも、家康の席を空けておくことにした。礼法役は「内府殿の御座を空けるなど前例がございませぬ」と青い顔をした。前例がないことは、これから山ほど起きる。今のうちに慣れてもらうしかなかった。


 関ヶ原を、戦場で止めるのではない。空いた席。書状。議題。逃げ道。その積み重ねで、戦場になる前に、形を変える。


 できるかどうかは、分からない。


 表示の数字が、一つ減った。


【関ヶ原級全国内戦まで 推定残日数】

530日


【本日の豊臣家滅亡確率】

98.9% → 98.7%


 始まった。五歳の手で数えるには、長すぎる日数だった。


――――――――――

【後書き】

第一部「天下人の忘れ形見」完。

次話より、第二部「関ヶ原を起こすな」が始まります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。