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転生したら豊臣秀頼だったので、大坂の陣を起こさせません ~MBAホルダー、豊臣家の事業承継に挑む~  作者: 東雲 諒杏
第四部「家康包囲網の誘惑」                                           第一章 二条城

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第159話 二条城の会見


【豊臣家滅亡まで 残り1,486日】


 慶長十六年、三月二十八日。京、二条城。


 門が、開いた。


 駕籠を降りると、空気が、大坂と違った。春の匂い。土と、木と、どこかで焚かれている香。そして、数えきれない、目。


 徳川の家来。公家。豊臣の供の者。遠巻きに見ている、京の町の者たち。皆が、秀頼を見ていた。大きくなった豊臣秀頼。噂の本人。


 背筋を、伸ばした。


 その瞬間、数字が、開いた。


【人に与える威圧 82】


 下げて。どうやって。


 少しだけ、歩幅を、狭くした。


【人に与える威圧 80】


 二しか、下がらなかった。体が大きいせいだった。秀頼は、悪くない。


 隣には、加藤清正がいた。顔色は、よくなかった。だが、誰よりも、堂々としていた。反対側には、浅野紀伊守。九度山を預かる浅野家の当主だった。


「殿」


 清正が、小声で言った。


「何」


「この城の石垣は」


「今日は、黙って」


「まだ、何も」


「顔に、出てる」


 清正は、悔しそうに、口を閉じた。


 廊下を、案内された。襖。金。絵。天下の主の家の、重さ。


 家康は、待っていた。


 老いていた。大坂城で、最後に顔を見たのは、関ヶ原の前だった。あのときより、ずっと、小さく見えた。


 だが、そこにいるだけで、部屋の重さが変わるのは、少しも、変わっていなかった。


【人物評価:徳川家康】

体の具合 46

死んだあとへの心配 88

秀頼への警戒 76

話を続けたい気持ち 91


 最後の数字に、少しだけ、救われた。話す気は、ある。


 家康が、立ち上がった。秀頼も、足を止めた。家康は、上座を、手で示した。


「秀頼公。こちらへ」


 来た。


 席の順は、前もって、考えてあった。家康が、秀頼を上座に勧める。秀頼が、断る。互いに、譲り合う。部屋じゅうが、どちらが先に座るかを、見ている。


 頭を、下げた。


「大御所様こそ」


「今日は、客人であろう」


「この城の主は、大御所様にございます」


「豊臣の御曹司を、下座には、置けぬ」


 面倒だった。早く座りたかった。正座が、つらかった。


 だが、ここで先に上座に座れば、天下人として振る舞った、と書かれる。


 もう一度、断った。


 最後に、家康が、先に座った。秀頼が、続いた。部屋の張り詰めたものが、少しだけ、緩んだ。


【徳川の警戒 83 → 81】


 二、下がった。席の順で、国が動く。嫌な時代だった。


 部屋の隅に、若い男が、控えていた。家康の懐刀、本多正信の息子の、正純だった。二条の会見の段取りを、全部、仕切ったのは、この男だと聞いていた。


【人物評価:本多正純】

段取り 95

主の顔色を読む力 97

人に好かれる力 23


 目が合うと、正純は、すっと、視線を逸らした。秀頼の一言一句を、帳面に書くつもりでいる目だった。


 豊臣の側にも、浅野紀伊守がいた。九度山を預かる男。つまり、真田の紐の帳面を、毎月、見ている男だった。


 紀伊守は、秀頼と目が合うと、ほんの少しだけ、口の端を上げた。


 膳が、出た。毒見。一度。二度。母との約束どおり。


 二度半は、どうするのかと思っていたら、清正が、自分の箸で、秀頼の膳の汁を、一口、すすった。


 半分とは、そういう意味だったのか。母上。やり方が、雑すぎる。


 家康の目が、清正の箸を、ちらりと見た。何も、言わなかった。


「大きゅう、なられた」


 家康が、言った。


「年月が、経ちました」


「太閤殿下に、似ておられる」


 罠だった。どう答える。


「母には、似ていないと、言われます」


 家康が、少し、笑った。


「淀殿らしい」


 話が、続いた。天気。大坂。江戸。商い。病。川。家康は、秀頼が何を話すかより、何を話さないかを、見ていた。秀頼も、同じだった。


「大坂では」


 家康が、言った。


「浪人を、多く召し抱えたと、聞く」


 来た。


「召し抱えては、おりませぬ」


「では」


「川普請、火消し、船の見張り、蔵の番に、雇うております」


「兵では、ないと」


「平らかな時に食える者は」


 答えた。


「戦の時にしか働けぬ者より、危うさが、少のうございます」


 家康の目が、わずかに、細くなった。


「真田も、同じか」


「はい。……紐を、買うております」


「知っておる」


 家康は、茶を一口、飲んだ。


「毎月の知らせで、読んだ。大坂は、よう紐を使う」


「はい。……戦の名人を、堤と逃げ道の名人に、しております」


 清正の肩が、少し、揺れた。笑わないで。


「惜しゅうはないか」


 家康が、聞いた。


「何が、でございましょう」


「戦で使えば、名を上げよう」


 家康を、見た。


「名を上げるために、国を焼く要は、ございませぬ」


 部屋じゅうが、息を止めた。


 言いすぎたか。


【徳川の警戒 81 → 85】


 上がった。


 だが、家康は、怒らなかった。


「太閤殿下ならば、そうは、申されまい」


 父。また、だった。


 ゆっくり、答えた。


「秀頼は、父では、ございませぬ」


 家康の目が、止まった。


「では、何を、望まれる」


 真ん中の、問いだった。清正が、ここへ来いと言ったわけ。母が、命を懸けるなと言ったわけ。千姫が、勝とうとするなと言ったわけ。


 一度、息を吸った。


「豊臣家を、残しとう、存じます」


「天下では、なく」


「天下は」


 言った。


「家を残すための、道具にございます。家を滅ぼすのなら、道具と目当てが、逆さまでございましょう」


 家康は、秀頼を、見続けた。長かった。長すぎる沈黙だった。


 千姫の袋を、思い出した。


「千姫より、大御所様は、この香を、好まれると」


 家康の眉が、ほんの少し、動いた。


「……孫が」


「はい」


「余計なことを」


 家康は、袋を、手に取った。鼻に近づけた。そして、笑った。小さく。天下の主ではなく、祖父の顔で。


「元気か」


「はい」


「困らせては、おらぬか」


「私が、困らされております」


 清正が、今度こそ、咳で、笑いをごまかした。


 会見は、終わった。勝った者は、いない。負けた者も、いない。だが、互いに、噂ではない、本物の人間を、見た。


 香の話が、ひとしきり続いたあと、家康は、ふと、話を変えた。


「秀頼公。……毎月の知らせに、生存帳、という帳面の話が、あった」


 驚いた。家康は、あの細かい帳面の話まで、読んでいたのだ。


「五つまで生きる子の割合を、数えておると」


「はい。……まだ、測れておりませぬ。二十年、かかりまする」


「二十年」


 家康は、少し、黙った。


「わしは、二十年は、生きぬ」


 独り言のような声だった。


「……その帳面が、測れたら、秀忠に、見せてやってくれぬか」


 部屋の誰も、動かなかった。本多正純の筆が、止まっていた。


「必ず」


 家康は、それ以上、何も言わなかった。


 帰り際、家康が、呼び止めた。


「秀頼公」


「はい」


「御身を、誰にも、使わせぬことじゃ」


 振り返った。家康の顔は、読めなかった。忠告か。脅しか。たぶん、両方だった。


 廊下を戻る途中、浅野紀伊守が、並んで歩きながら、小声で言った。


「……秀頼様。九度山の紐のことで、一つ、お耳に」


「うん」


「大坂が、あまりに、紐を買われるゆえ、うちの蔵の役人も、真似をして、真田の紐を買い始めましてな」


 紀伊守は、前を向いたまま、言った。


「今や、紀州の蔵も、真田の紐だらけにて。……大御所様が、紐の話で、お笑いになったのは、たぶん、それも、知っておられたからでございましょう」


 見張りの家が、見張っている相手の紐を、買っている。そして、それを、天下の主が、知っている。


 おかしな天下だった。だが、戦よりは、ずっと、ましな天下だった。


【二条城の会見 終わり】

【徳川の警戒 85 → 86】

【徳川が豊臣を分かっている度合い 28 → 61】

【大坂の陣が起きる見込み 89% → 86%】


 三だけ、下がった。会っただけで、三。十分だと思った。


 そう思った瞬間、別の数字が、開いた。


【加藤清正 体の具合 32】


 隣を、見た。清正は、立っていた。いつもどおり、背筋を伸ばして。


 だが、その手が、かすかに、震えていた。


「清正」


「は」


「帰ったら、休んで」


 清正は、笑った。


「今度こそ、御意」


【本日の豊臣家滅亡確率】

95.3% → 94.9%


 その言葉を、信じたかった。


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