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気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


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第8話 初めてのお風呂

湖畔に家が建ち始めてから、五日が過ぎた。


「よし。」


悠真は少し離れた場所から、自分の家を見上げる。


木造平屋。


大きな窓。


広めの玄関。


まだ家具はないものの、壁と屋根も完成し、雨風は十分にしのげる。


「ようやく家らしくなったな。」


異世界へ来てから初めて、自分だけの居場所ができた。


その事実が、何より嬉しかった。


「おめでとうございます!」


リーフが拍手をしながら近付いてくる。


「ありがとうございます。」


「村のみんなも完成を楽しみにしてました。」


「みんなには本当に助けられてばかりだな。」


建材を分けてもらい、食事も差し入れてもらった。


何かお礼をしなければと思っている。


「そうだ。」


悠真は家の中を見回した。


「次はお風呂を作ろう。」


「……お風呂?」


リーフが首を傾げる。


「え、ないの?」


「身体は川や湖で洗いますけど……。」


「湯船には入らない?」


「ゆぶね?」


どうやら、この世界には浴槽に浸かる文化がないらしい。


悠真は思わず苦笑した。


「疲れた日は、温かいお湯に浸かると気持ちいいんだよ。」


「そんな贅沢なことを……。」


「贅沢かな?」


「お湯を沸かすだけでも大変です。」


「なるほど。」


確かに薪を大量に使えば、その通りだ。


しかし。


「生活魔法なら何とかなるかもしれない。」


◇ ◇ ◇


家の裏側。


湖に近い場所へ大きな穴を掘る。


「身体強化。」


スコップ代わりの板を持ち、一気に掘り進める。


「早っ……。」


リーフはただ見守るしかない。


一時間も経たないうちに、人が二人は入れそうな穴が完成した。


「よし。」


底へ平らな石を敷き詰める。


側面も石を積み重ね、隙間を粘土で埋めていく。


「これで水漏れしない……はず。」


「本当に作るんですね。」


「もちろん。」


悠真は笑った。


「異世界初のお風呂だ。」


◇ ◇ ◇


午後。


湖から水を運ぶ。


もちろん。


「収納。」


大量の湖水を収納し。


「取り出す。」


浴槽へ流し込む。


「あっという間ですね……。」


「これは便利だ。」


最後に生活魔法を試す。


「点火。」


指先へ小さな火が灯る。


「送風。」


火が勢いよく燃え上がる。


浴槽の下へ作ったかまどへ薪を入れ、お湯を温め始めた。


「これで待つだけか。」


リーフは浴槽を覗き込む。


「本当に入れるんですか?」


「熱くなったらね。」


◇ ◇ ◇


一時間後。


湯気が立ち上り始めた。


悠真は指先でお湯を触る。


「ちょうどいい。」


「そんなに違うものなんですか?」


「試してみる?」


「えっ!?」


リーフは慌てて両手を振る。


「わ、私は遠慮します!」


「そっか。」


「で、でも感想は聞きたいです。」


「了解。」


悠真は笑いながら家へ入り、着替えを持って戻ってきた。


「じゃあ入ってくる。」


「はい。」


◇ ◇ ◇


ちゃぷん。


「……。」


肩までゆっくり浸かる。


「はぁぁぁぁ……。」


思わず声が漏れた。


「生き返る……。」


異世界へ来てから初めて味わう温かさ。


疲れが身体から抜けていくようだった。


(やっぱり風呂は最高だ……。)


しばらく目を閉じる。


鳥の声。


風の音。


木々の揺れる音。


湖のせせらぎ。


それらを聞きながら入る風呂は、日本でも味わえない贅沢だった。


「最高だな。」


◇ ◇ ◇


「どうでした?」


風呂から上がると、リーフが待っていた。


「最高。」


その一言に尽きる。


「そんなにですか?」


「うん。」


悠真は笑う。


「今度、村のみんなにも作ってあげたいくらい。」


リーフは目を丸くした。


「村にも……。」


「みんなお世話になったし。」


「きっと喜びます!」


嬉しそうな笑顔だった。


◇ ◇ ◇


その夜。


湖畔には満天の星空が広がっていた。


「星も綺麗だな。」


家の前へ椅子代わりの切り株を置き、空を見上げる。


フェルルは膝の上で丸くなって眠っていた。


「きゅ……。」


「お前も眠いか。」


優しく頭を撫でる。


その時だった。


「悠真さん。」


リーフが少し真剣な表情で口を開く。


「お願いがあるんです。」


「お願い?」


「明日、村へ来てもらえませんか?」


「何かあったの?」


リーフはゆっくり頷いた。


「村長が、悠真さんに相談したいことがあるそうです。」


「相談?」


「詳しくは私も聞いていません。」


悠真は少し考えた後、笑顔で答えた。


「分かった。」


「明日行くよ。」


その返事に、リーフは安心したように微笑んだ。


◇ ◇ ◇


同じ頃。


王都・アルディア王国。


重厚な石造りの一室。


机の上へ、一枚の報告書が置かれる。


『対象、湖畔に拠点を構築。エルフの村と友好関係を確認。』


『精霊獣フェルルとの接触、および加護と思われる現象を確認。』


その報告書へ目を通した男は、小さく目を細めた。


「精霊獣、か……。」


男は窓の外を眺める。


「しばらく静観する。」


「だが──」


「村へ動きがあれば、すぐに知らせろ。」


「はっ。」


報告を受けた部下は静かに部屋を後にした。


一方その頃、当の本人は。


「明日は何の相談だろうな。」


そんなことを考えながら、自分で作った家のベッドへ横になっていた。


世界が少しずつ彼へ注目し始めていることなど、知る由もなく。

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