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気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


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第7話 初めての畑

朝日が湖面を黄金色に染めていた。


「今日もいい天気だな。」


悠真は湖のほとりで大きく背伸びをする。


家の骨組みは完成し、残るは屋根と壁だけ。


あと数日もあれば、人が暮らせる家になるだろう。


「でも、その前に……。」


悠真は足元の広場を見渡した。


「畑を作りたいな。」


食べ物を毎回狩りや採集に頼るより、自分で育てた方が安心だ。


スローライフを送るなら、畑は欠かせない。


「おはようございます!」


朝食を持ったリーフが今日もやって来た。


「おはよう。」


「今日は何をする予定なんですか?」


「畑を作ろうと思って。」


「畑ですか?」


「うん。毎日狩りだけだと大変だし。」


リーフは少し驚いた表情を浮かべた。


「悠真さんくらい強ければ、毎日魔物を狩っても平気じゃ……。」


「いやいや。」


悠真は苦笑する。


「毎日命懸けなんて疲れるよ。」


(本人はまったく命懸けではないのだが。)


「野菜を育てて、魚を釣って、たまに狩りをするくらいがちょうどいい。」


その言葉を聞き、リーフは柔らかく笑った。


「本当に、変わった人ですね。」


「そうかな?」


「そんなに強い人ほど、もっと強さを求めるものです。」


悠真は首を横に振る。


「俺は平和が一番だよ。」


◇ ◇ ◇


朝食を終えると、二人は家の横にある空き地へ向かった。


「この辺りなら日当たりもいいな。」


「そうですね。」


悠真は鍬代わりになりそうな木の板を探す。


すると、頭の中に一つのスキルが浮かんだ。


生活魔法


(そういえば、これって何ができるんだ?)


試しに意識を向けてみる。


すると、いくつもの魔法名が頭に浮かんだ。


浄化


乾燥


点火


散水


送風


「……便利そう。」


悠真は地面へ手をかざした。


「散水。」


ふわり、と空気中に水滴が現れ、乾いた土へ優しく降り注ぐ。


「わぁ……。」


リーフが目を輝かせる。


「水魔法ですか?」


「いや、多分生活魔法。」


「生活魔法で、こんなに広い範囲へ?」


悠真は首を傾げる。


「普通じゃない?」


「普通じゃありません。」


即答だった。


「生活魔法は、コップ一杯の水を出せるくらいですよ。」


「え?」


「今のは井戸何杯分もありました。」


悠真は手元を見つめる。


(またやっちゃったのか……。)


少しずつ、自分の”普通”が、この世界では普通ではないらしいことだけは理解し始めていた。


◇ ◇ ◇


午前中いっぱいを使い、畑作りは順調に進んだ。


土を耕し。


石を取り除き。


水路を作る。


「収納。」


不要な石は次々と収納へ。


「これ、本当に便利だな。」


「羨ましいです……。」


リーフは苦笑する。


大きな石を何十個も一瞬で片付けられる魔法など、見たことがない。


「種なら持ってきました。」


リーフは布袋を差し出した。


「村のみんなが分けてくれたんです。」


「いいの?」


「もちろんです。」


中には野菜や豆、香草など、様々な種が入っていた。


「お礼を言わないとな。」


悠真は丁寧に受け取る。


「今度、何かお返ししよう。」


◇ ◇ ◇


午後。


種を植え終えた畑を見ながら、悠真は満足そうに頷く。


「これで芽が出ればいいんだけど。」


「一週間くらいですね。」


「そんなにかかるのか。」


「はい。」


リーフが答えた、その時だった。


フェルルが畑へ飛び降りる。


「きゅぅ!」


小さな前足で土をちょん、と叩いた。


すると。


ふわり。


淡い緑色の光が畑全体へ広がる。


「……え?」


二人が見つめる中。


植えたばかりの土から、小さな芽が顔を出した。


「えぇぇっ!?」


リーフが驚きの声を上げる。


芽は止まらない。


双葉になり。


茎が伸び。


野菜はみるみる成長し──


数分後。


畑には立派な野菜が実っていた。


「……。」


悠真はしばらく固まる。


「フェルル。」


「きゅ?」


「これ、お前がやったの?」


フェルルは誇らしげに胸を張った。


「きゅぅ!」


「……すごいな。」


悠真は笑いながら頭を撫でる。


「助かったよ。」


フェルルは嬉しそうに目を細めた。


一方のリーフは呆然としていた。


「精霊獣の祝福……。」


「祝福?」


「古い言い伝えです。」


リーフは畑を見つめながら呟く。


「精霊獣に認められた土地は豊穣の加護を受ける、と。」


「へぇ。」


「でも、実際に見た人はいないはずなのに……。」


悠真は収穫した野菜を手に取る。


「じゃあ今日は採れたて野菜も食べられるな。」


本人はすっかり夕食のことしか考えていなかった。


◇ ◇ ◇


夕暮れ。


焼き魚と採れたて野菜のスープを囲みながら、二人と一匹は食事を楽しんでいた。


「美味しい!」


「やっぱり採れたては違うな。」


フェルルも野菜を夢中で食べている。


「きゅぅ♪」


笑い声が湖畔へ響く。


その穏やかな光景を、少し離れた森の木の上から見つめる者がいた。


黒装束の女だ。


「家まで建てて、畑まで……。」


彼女は思わず苦笑した。


「まるで本当に、この森で暮らすつもりなのね。」


懐から小さな通信札を取り出す。


『対象、湖畔で生活基盤を構築中。敵対行動なし。精霊獣との共存を確認。』


短く書き終えると、札は淡い光となって消えた。


女は最後にもう一度だけ悠真を見る。


楽しそうに笑うその姿は、とても世界を脅かす存在には見えなかった。


「……隊長の言う通り。」


「もう少し、この人を見てみようかしら。」


そう呟くと、彼女もまた静かに森の闇へ溶け込んでいった。

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