表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/34

第5話 収納スキルの使い方

「ふぅ……。」


湖畔に吹く風が心地よい。


切り出した木材が山のように積まれ、その隣には石材や蔦まで集められていた。


もちろん、人力ではない。


「収納って、本当に便利だな。」


悠真は空中に意識を向ける。


すると、半透明の文字が浮かび上がった。


──────────


収納


・黒狼 ×1


・丸太 ×46


・石材 ×89


・蔦 ×37


・木の枝 ×112


──────────


「ゲームみたいだ……。」


思わず苦笑する。


昨日までは普通の会社員だった自分が、異世界で収納魔法を使っている。


改めて考えると、不思議な話だった。


「悠真さん!」


リーフが湖の方から駆け寄ってくる。


両手には木で編まれた籠を抱えていた。


「お昼を持ってきました。」


「ありがとう。」


籠の中には、焼いた魚と木の実、それに甘い香りのする果物が入っていた。


「今日も美味しそうだ。」


「村のみんなが作ってくれたんです。」


「お礼を言わないとな。」


二人は湖を眺めながら昼食を取る。


湖面には青空が映り、魚が時折跳ねる。


静かな時間だった。


「こういう生活、憧れてたんだよ。」


悠真がぽつりと呟く。


「そうなんですか?」


「毎日仕事ばっかりだったからさ。」


朝早く起きて会社へ行き、帰る頃には夜。


休日も疲れて寝て終わることが多かった。


「自然の中で暮らすなんて、夢みたいだ。」


リーフは優しく微笑んだ。


「きっと、この場所を選んで正解でしたね。」


「うん。」


この景色なら、何年でも飽きない気がする。


◇ ◇ ◇


食事を終えると、悠真は崩れた小屋を見回した。


「まずは片付けるか。」


柱を一本持ち上げようとして——


「重っ。」


思わず声が漏れる。


かなりの重量だ。


「収納。」


そう呟くと、柱は光に包まれて消えた。


「……そうか。」


収納は、生き物だけではなく物も入れられる。


試しに崩れた屋根や石材も収納してみる。


次々と片付いていき、ものの十分ほどで更地になってしまった。


「すごい……。」


リーフが目を丸くする。


「こんな収納魔法、見たことありません。」


「普通は違うの?」


「収納魔法自体、とても珍しいんです。」


「へぇ。」


「それに、こんなに大量には入りません。」


悠真は収納画面をもう一度開く。


まだ余裕がありそうだった。


「容量ってあるのかな。」


試しに巨大な岩へ手を向ける。


「収納。」


ゴォッ——


高さ三メートルほどの岩まで、一瞬で消えた。


「……。」


リーフは何も言えない。


(絶対に普通じゃない……。)


そう思いながらも、本人は首を傾げているだけだった。


◇ ◇ ◇


更地になった場所へ、丸太を一本取り出す。


「よし。」


手にした天照をゆっくり構える。


一振り。


二振り。


三振り。


その度に、丸太は寸分違わぬ長さに切り揃えられていく。


「えっ……。」


リーフは思わず近寄った。


すべて同じ長さ。


切り口も鏡のように滑らか。


「測ってないですよね……?」


「うん。」


「どうして同じ長さになるんですか?」


悠真は少し考えた。


「何となく?」


「何となくでできることじゃありません!」


リーフは思わず笑ってしまう。


悠真もつられて笑った。


「まぁ、身体が勝手に動く感じなんだ。」


剣術【神域】。


その力のおかげなのだろう。


だが本人には、それがどれほど異常なことなのか分からない。


◇ ◇ ◇


午後になると、基礎作りが始まった。


石を並べ、柱を立てる。


リーフも一緒に作業をするが、力仕事はほとんど悠真が担当した。


「よいしょ。」


そう言いながら持ち上げた柱は、大人三人でも運べないほどの太さだった。


「……。」


リーフは無言になる。


「どうした?」


「いえ……。」


(身体強化まで常識外れなんだ。)


もう驚きすぎて感覚が麻痺してきた。


◇ ◇ ◇


夕方。


家の土台が完成した。


「今日はここまでかな。」


悠真は大きく伸びをする。


まだ壁も屋根もない。


それでも、自分の家が少しずつ形になっていくことが嬉しかった。


「明日には柱を全部立てたいな。」


「きっとできます。」


リーフは笑顔で答える。


その時だった。


ガサガサッ——


近くの茂みが揺れる。


二人が同時に振り向くと、小さな影が飛び出してきた。


「きゅぅ!」


白くて丸い、小さな生き物。


長い耳に、ふわふわの尻尾。


手のひらより少し大きいくらいだ。


「あれ?」


生き物は悠真を見るなり、一目散に駆け寄ってくる。


そして。


ぴょん。


当然のように悠真の肩へ飛び乗った。


「きゅぅ♪」


「え?」


悠真は固まる。


リーフも固まる。


数秒後。


「えぇぇぇぇっ!?」


リーフの大きな声が湖畔に響いた。


「な、な、なんでフェルルが懐いてるんですか!?」


「フェルル?」


「森に住む精霊獣です!」


「精霊獣?」


「人には滅多に近付きません! 村長ですら触ったことがないのに!」


「そうなの?」


悠真がフェルルと呼ばれた小さな生き物を見る。


フェルルは気持ちよさそうに頬を擦り寄せてきた。


「きゅぅ。」


「……可愛い。」


その一言に、フェルルは嬉しそうに鳴いた。


リーフは呆れたように笑う。


「悠真さん。」


「ん?」


「あなた、本当に普通じゃない人ですね。」


「いや、普通だと思うけど。」


「その言葉、一番信用できません。」


夕焼けに染まる湖畔。


新しい家の土台。


肩で眠り始めた小さな精霊獣。


悠真は静かに笑った。


「賑やかになりそうだな。」


その頃、森の外れでは。


黒い外套の男――“鴉”が、静かに目を細めていた。


「精霊獣にまで認められたか……。」


その報告は、翌朝には王都へ向けて放たれることになる。


だが悠真はまだ知らない。


自分が望んだ静かな暮らしが、少しずつ世界の注目を集め始めていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ